【GIGA到来】教員全員参加 町教委が仕掛けた研修会

GIGAスクール構想を進める上では、学校現場だけでなく教育委員会も重要な役割を担う。人口約1万6000人、小中学校がそれぞれ3校(うち2校区は小中一貫校)の宮崎県児湯(こゆ)郡新富町ではGIGAスクール構想に向け、昨夏、学習支援クラウド「ロイロノート・スクール」の導入を決定。ただ、習熟していない教員たちも多いことから、町教委は各学校のICT担当だけでなく、町の小中学校教員およそ110人が全員参加する研修会を開催し、教員たちの意識を大きく変えた。この研修会を実施した新富町教委の中倉信博教育対策監と、町教委を支援してきた一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(こゆ財団)教育イノベーション推進専門官・新富町教育推進コーディネーターの中山隆さんに話を聞いた。

子供たちが使うツールで思考

新富町は、県庁所在地である宮崎市のすぐ北に位置し、農業や畜産業が盛んな町。教員や児童生徒も宮崎市からの転勤・転校が多く、そうした場合でも使い慣れたツールで学習できるよう、宮崎市ですでに活用しているロイロノートを導入することにした。そして今年3月後半には、児童生徒用・教員用の端末がついに町内全ての小中学校に納品された。

新富町教委の中倉教育対策監(Zoomで取材)

とはいえ町教委の中倉教育対策監は「いきなりタブレットを渡して『使ってください』と言っても、使えるわけがない」と思っていたという。そのため町教委は端末を学校現場に届けるのに先立って、教員研修を行う必要性を感じていた。

当初、昨年8月に予定していた研修会は、「教員向けの教育講演会を開催するタイミングで、会場のホールの入り口にパソコンを2台設置し、ロイロノートのデモ動画を流しておく」というものだった。しかし、この研修会は新型コロナウイルスの感染拡大で延期となり、仕切り直しとなってしまった。

研修会を再検討する中で、町教委の支援に本格的に関わりはじめたこゆ財団の中山さんは「当初のやり方では、教員にはなかなか伝わらない」と訴えた。中山さんは、島根県の隠岐島前高校で教育魅力化コーディネーターとして勤務した経歴を持つ。昨年4月のコロナ禍に故郷の宮崎県に戻ってからは、県下の学校のICT活用支援に奔走してきたことから、学校現場のさまざまな事例を知っていた。

中山さんがこだわったのは「教員全員参加」。「教育委員会のICT研修でありがちな失敗は、各学校のICT担当しか出席できないこと。『ロイロノートを入れます、以上。あとは頑張ってください』と言って、ICT担当の教員たった1人に任せても、うまくいかない事例をたくさん見てきた」と中山さんは指摘する。

「たった1人のICT担当に、学校を変えるだけの推進力があることはまれで、ICT担当から説明を受けただけで全ての教員が動くとは思えない。これからは全ての教員が1人1台の端末を使うことになっているのだから、教員全員が参加して使い方を学ぶことは、絶対に譲れないポイントだった」

町教委は昨年10月、今年1月、3月と、3回にわたって教員が全員参加する研修会を企画。全員を参加させるため、また新型コロナウイルスの拡大に備え、全てオンラインで行った。教員用のパソコンにはカメラがついていなかったため、町内の4つの小中学校の職員室にプロジェクターを設置し、職員室ごとZoomでつないだ。

研修会中は中学校の1室をキーステーションにして、中倉教育対策監と中山さんが進行役を務めた。また教委の職員が各学校に赴いて、トラブルが発生した場合に備えた。各職員室では教員たちが教員用のパソコンでロイロノートを開き、研修会のワークや質疑応答などを、全てロイロノート上で行った。中山さんは「子供たちに使わせようとしているツールを使って思考する研修会にしたかった」とその狙いを語る。

「7つのチェックポイント」で段階的に

1回目の研修会では、GIGAスクール構想の基本的な考え方や今後の見通しを概説。2回目は、昨年8月に延期となった教育講演会をオンラインで開催した。そしてGIGA端末がいよいよ整備される今年3月、最終回の研修会では、実際にロイロノートの機能を教員たちに体験してもらった。

体験した教員たちからは「やりはじめたら、できるかも」「とりあえず使ってやってみれば、なんとかなりそうだと思います」といった前向きな声が寄せられた一方で、「実際に自分がやるとなると、うまくできるかどうか心配」「通信環境は大丈夫なのか」といった率直な不安の声も少なくなかった。

新富町でのGIGAスクール構想を支援してきた中山さん(こゆ財団提供)

中山さんは「不安ですよね」と受け止めながら、「ご自身で使いながら、知見をためていきましょう」と背中を押した。中倉教育対策監は「1回目の研修会では、先生たちもかなりストレスがあったが、3回目になるとかなりスキルが上がり、問い掛けにすぐ回答したり、デジタル付箋の色を変えたりと、操作もレベルアップした」と振り返る。

3回目の研修会は参加を任意としたが、結局、全ての研修会に全ての教員が参加した。中山さんは、これまで教員研修の障壁となっていたのが「学校外で集まること」だったと改めて感じた。「学校を出るなら、たとえ短時間でも業務の調整が必要になる。さらに研修会に出席した先生は学校に戻って、他の先生たちに伝達しなければならない。二重にも、三重にも手間が掛かっていた」と指摘。オンラインによる一斉研修の手応えを感じた。

中倉教育対策監は「研修会では、個々の先生のスキルによって課題が大きく異なると感じた。すでにデジタル教科書を授業で使った経験があるような、レベルの高い教員もいれば『そもそも授業で使う場面がイメージできない』という声もあった」と振り返る。

こうした教員のスキルの標準化に向け、新富町教委は研修会と合わせ「7つのチェックポイント」を作成。①QRコード読み取り機能②画像・動画撮影機能③デジタル教科書④ロイロノートの提出箱機能⑤シンキングツール機能――を活用することに加え、⑥生活科・総合的な学習の時間に活用する⑦マイクロソフト「チームズ」を使って遠隔操作をする――の計7つの具体的な項目を設定。1年目は3回、2年目は10回使ってみるなどの数値目標を置き、ICTが得意な教員は先取りも可能だとして、学校現場に周知した。

今年度からは学校現場が抱えがちな課題をくみ取り、民間事業者の研修会などでフォローしていくことを検討している。「ICTより紙の方が授業に有効なら、紙を使っても問題ないが、ICTはスキルアップがないと使いこなせないこともある。使っていくうちに想定外のトラブルもあるかもしれないが、何かあればすぐに対応を考えていきたい。トラブルを怖がって使わない、ということはしたくない」と、中倉教育対策監は話す。

こゆ財団の中山さんは自身の関わりについて「一つの学校に所属していないからこそ、各学校の課題や困りごとをタイムリーに把握できた面はある。それをシェアしていくことで次につながっていった」と振り返る。また「宮崎県の教員に、『自分の学校さえよければよい』と考えるのではなく、(県下の学校の教員とともに)『チーム宮崎』で取り組もうとする人が増えてきた」と希望を見いだしている。

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