エビデンス重視へ5つの調査 中教審、教員制度改革に着手

中央教育審議会(中教審)は4月27日、教員の養成・採用・研修など教員制度の抜本的な改革に取り組むため、初等中等教育と高等教育の課題を横断的に取り扱う特別部会と教員養成部会の合同会合を初めて開催した。文科省は席上、エビデンスに基づいて制度改革の議論を進めるため、教員免許更新制や教師不足など5つの項目で、現職教員や学校現場、学生を対象に意識や実態をデータで可視化する調査の実施を表明した。会合では、教員免許更新制の見直しを先行させるため、小委員会の設置を了承した。先の答申で描いた「令和の日本型学校教育」を担う新たな教師像の実現を目指し、中教審による教員制度改革が本格的にスタートした。

教員制度改革の議論をスタートさせた中教審の合同会合

特別部会の正式名称は「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」。会合の冒頭、中教審会長の渡邉光一郎・経団連副会長(第一生命ホールディングス会長)を部会長に、荒瀬克己・教職員支援機構理事長を部会長代理に選任した。また、初等中等教育分科会教員養成部会については、加治佐哲也・兵庫教育大学長を前期に続いて部会長に、松木健一・福井大学副学長を部会長代理に選任した。

今回の教員制度改革では、①教師に求められる資質能力の再定義②多様な専門性を有する質の高い教職員集団の在り方③教員免許の在り方・教員免許更新制の抜本的な見直し④教員養成大学・学部、教職大学院の機能強化・高度化⑤教師を支える環境整備――の5点が諮問事項になっている。萩生田光一文科相は3月12日に諮問した際、「既存の在り方にとらわれることなく、基本的なところまでさかのぼって検討を行い、必要な変革を行うことで、教師の魅力の一層の向上を図っていくことが必要」と指摘し、抜本的な改革を求めた。

こうした改革を進めるため、文科省はまず、教員の意識や学校現場の実態を把握するため、5つの調査を一気に行う考えを示した。具体的には「教員免許更新制に関する教員の意識調査」「教師不足に関する実態調査」「学生の教職への志望動向に関する調査」「教師の資質能力の育成等に関する調査」「教師の研修履歴の管理等に関する調査」となる。こうした意識調査や実態調査を全国規模で実施するのは、今回が初めてとみられる。

これまで教員免許更新制に対する現場教員の意識や、教員志望の学生が減っている理由などは、SNSなどを通じて一部で不満の声などが上がっていたが、可視化されたデータがほとんどないため、感情的な議論になりがちだった。中教審では、こうした調査の結果を受け、エビデンスに基づいて教員制度改革の議論を進める考えだ。

また、教員免許更新制については、萩生田文科相が諮問で先行して結論を出すよう要請していることから、この日の会合では、小委員会を設置して検討を進めることを了承した。小委員会の委員は、教員養成部会の委員が兼務する。

あいさつした特別部会の渡邊部会長は「『令和の日本型学校教育』の意味合いは、『歴史と未来との調和』という考え方だと思う。変えてはいけない教育の本質として、知・徳・体を一体で育む日本型学校教育の成果を強みとして認識する一方、Society5.0時代を見据えた視点とコロナ禍を経たニューノーマル時代を想定した要素を明確にして、新しい時代に目指すべき方向性を示す。こうした二つの要素を調和させていくことであり、不易流行の意味合いそのものだと思う。もう一つが、コロナ禍がニューノーマルの姿として未来を10年早く連れてきたという課題。こうした変化の中で、教師には、従来求められてきた基本的な資質・能力に加えて、ICT活用指導力、ファシリテーション能力などこれまでと異なる資質・能力が求められる」と、問題意識を説明した。

荒瀬部会長代理は「先の答申が示した、子供一人一人を主語にする学校教育を進めていくためには、教師一人一人が主語になって、自分たちの取り組みを進め、振り返りと改善を重ねていくことは大変重要。2点目は教師を支える環境整備で、教師は非常に苦しい思いをしながら、身を削って働いている。どう改善していくのかが、わが国の学校教育を進めていく上で極めて重要であり、こういった視点を常に持ちながら議論を進めたい」と指摘した。

教員養成部会の加治佐部会長は「教師の資質能力の在り方は、いつの時代も常に改革の対象になってきた。先の答申で新しい学校像が示され、その新しい学校像を作っていくために、基本的な教師像を転換することが求められている。教師の養成、採用、研修そして免許について、改革の方向性は明確だ。だが、そこにはこれまで提案されながらも、なかなか実現ができなかったものも含まれている。ハードルが高いと思うが、何とか実行できるような方策を出していきたい」と抱負を述べた。

松木部会長代理は「『令和の日本型学校教育』という言葉の中の『日本型』というところに、もう一度視点を当てて考えてみたい。グローバル化した世界の中で、超スマート社会を実現しようとするとき、先進国の多くが同じような学習観になってきている。この学習観の転換がすごく大きな意味を持っており、これを日本の教育の中でどう実現していくかがすごく重要ではないか。知識や技能は教えることができる。しかし、コンピテンシーが中心になったときには、教えるという行為はできない。むしろ学び合うコミュニティーをどう教師がファシリテートしていくかという教師観に変わっていかなければならない。これに即した形で教員免許や教員研修の在り方を抜本的に見直していくことが、ぜひとも必要と考えている」と、教員制度改革の方向性を示した。

委員からは、教員制度改革への問題提起が次々と飛び出した。

今村久美・認定特定NPOカタリバ代表理事は「カタリバでは、教員免許の有無に関わらず、学校現場の仲間として参加していく取り組みをしてきた。その人数は3万人を超える。その経験から、人材育成を捉えたときに、まだ社会人を経験したことがない若い人にとっては、教員養成課程での学びとか、履修主義的な研修を受けるよりも、日常的なOJT型の人材育成の場面が最も重要な機会だと感じている。やっぱり先輩が後輩を育てていくような仕組みを取り入れていかないと、若い人たちがなかなか育つ機会を持てないのではないか」と、現在の大学を中心とした教員養成の仕組みに疑問を投げ掛けた。

秋田喜代美・学習院大教授は「教師の資質であるコンピテンシー、教師の充実感や満足感であるウェルビーイング、そしてやる気が出るために自らが主体となって関わっていくエージェンシー、これを三位一体としていく必要がある。例えば、中国や他の国では、教員養成の段階で、師範学校から給与が与えられるような仕組みもある。地元の教員養成大学と地元の学校が一緒になってネットワークを作りながら教員の養成、採用、研修をやるような仕組みをいかに作るのか。そうした仕組みが問われている」と指摘した。

中原淳・立教大教授は「教員の人材マネジメントという観点で見ていくと、革新することや増やすことよりも、その前に減らすことを先行すること、あるいはそうしたメッセージングを出していくことが大事ではないか。そうでなければ、現場には、やらされ感、しらけ、自己効力感の低下が起きる。まずレベル1として達成すべきことは、心理的安全性を職場に確保することだ。まずは安心安全に働ける、そういうメッセージもしっかり行っていって、やらされ感等々をなくしていく。それと同時に革新を行っていくことが大事だと思う」と、人材開発の研究者として意見した。

こうした教員制度改革の議論が続く中で、三田村裕・全日本中学校長会長(東京都八王子市立上柚木中学校長)は、「4月がスタートしてまもなく1カ月になろうとしているのに、本校ではまだ一部に講師が決まっていない教科がある。つまり、フルのスタッフで、スタートできていない。これは決して珍しくないのが現状。そのくらい、臨時的任用、非常勤講師といった人材が慢性的に不足していて、極めて深刻な状況がある。これには免許更新制が一つの原因になっている。教員正規教員の人材確保が現場に与えている影響もとても深刻で、「教育は人なり」というところが危うくなっている。また、都道府県や地域による格差も大きい。せっかく養成した人材が都市部にどんどん流出してしまっており、現行の都道府県単位の採用はもう立ち行かなくなっている。社会全体の中で教職について考えないと、人材確保の見通しが立たないような気がしてならない」と、学校現場の厳しい現状を強調した。

教員制度改革に向け、文科省が実施する5つの調査

【1】教員免許更新制に関する教員の意識調査

○調査対象

現職教員(更新講習受講経験者に限る)

○主な調査内容

教員免許更新制に対する認識など

【2】教師不足に関する実態調査

○調査対象

都道府県・指定都市教育委員会および大阪府豊能地区教職員人事協議会(計68)

○主な調査内容

教師の不足数、教師不足の要因、教師不足の解消に向けた取り組みなど

【3】教職課程を置く大学等に所属する学生の教職への志望動向に関する調査

○調査対象

教職課程を置く大学等に所属する学生

○主な調査内容

教員免許状の取得理由、教職への志望度、教職を志望するきっかけ、教員採用選考試験の受験の有無とその理由など

【4】教師の資質能力の育成等に関する調査

○調査対象

現職教員(校長などの管理職も含む)

○主な調査内容

教師の属性(入職前の経歴(民間企業等勤務経験の有無など)、勤務経験年数、所有する教員免許状の学校種・教科等、教員免許状以外の保有資格など)、身に付けたい資質能力、研修の受講状況、研修ニーズなど

【5】教師の研修履歴の管理等に関する調査

○調査対象

都道府県・指定都市・中核市教育委員会および大阪府豊能地区教職員人事協議会(計129)

○主な調査内容

個々の教員の研修の受講履歴の管理及び活用状況など

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