【豊福晋平氏】GIGA端末 「学校の日常のデジタル化」から

GIGAスクール構想を巡り、全国の学校現場の状況がひっ迫している。端末は届いたものの、具体的な運用策が打ち出せず、途方に暮れる現場も少なくない。教育の情報化が専門で、GIGAスクール構想について情報発信を続ける豊福晋平・国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授は「最終的に授業で活用できればいい。まずは学校の日常にICTを取り入れ、利用頻度を上げていくべきだ」とヒントを示す。端末が入った今、子供たちの学校生活や学びの姿をどう転換させていくべきか。豊福准教授への全2回のインタビューで、これから現場が立ち向かう課題の本質に迫る。(全2回の初回)

オンラインで取材に応じる豊福准教授
2学期になれば格差がより色濃く
――GIGAスクール構想の現状をどう見ていますか。

全国の学校現場を見ていると、足並みがそろわずバラバラだと感じています。例えば都内の小中学校の場合、機材は入ったもののネットワークの整備が遅れており、実際のところ運用できていないところが多くあります。

昨年度3月までは「次年度から本格始動だから」と言い訳ができていたかもしれませんが、4月も終盤に入り(編集部注 インタビュー時)、そんな悠長なことは言っていられないはずなのにと見ています。

環境が整っていても、うまくGIGA端末を運用できていない学校もあります。現場の先生に理由を尋ねてみると、皆さん、忙しさを理由に挙げます。学校現場でも、GIGAスクール構想に関する認識のばらつきがかなりあるのでしょう。一斉休校など緊急時のライフラインとして確保しなければ困ることや、学びに活用したときの利便性を忘れて、従来のパソコン教室にあったパソコンの置き換えかのように勘違いしている先生もいます。

学校で研修をするとき、あえて「端末を年に何回使う計画ですか?」と質問します。驚くことに、「得意じゃないから、学期に1回くらいかな」と本気で答える先生がいるのです。年に3回しか使わない感覚であれば、IDやパスワードの管理、ルールの整備、教員研修に時間を割くなんて、面倒だから後回しにしてしまうでしょう。そんな意識で知らず知らずのうちに乗り遅れている現場が、かなりの数あるのではないでしょうか。

5月の連休が明けると、すぐに夏休みです。2学期が始まると「年度の途中だから、タイミングが悪い」と言い出して、時間がたてばたつほど、やらなくていいかとなってしまいます。2学期に入れば、意欲の高い学校とそうではない学校の差が今まで以上に顕著になります。すると保護者もその格差に気付き始めて、学校や教委にかなりのクレームが入るように思います。

――端末の利活用状況について、すでに自治体や学校、教員間で格差が広がっている現状にあります。ゆくゆくは児童生徒の学力格差も懸念されるでしょうか。

まず誤解しないでいただきたいのは、学力への影響はすぐには出ません。そもそもICTを活用することが、直接的な教育効果につながるかと言えば断言しづらいところがあります。

本来、教育でICTを活用する最大の効果は、端末を介して扱える情報量が100倍、1000倍になる点です。その得られた情報を学びに転換すると初めて、学力が上がるなど教育効果につながるのです。

端末を手にして情報を得るところまでは、誰にでもできます。しかし、その情報をどう学びに転換できるかが、大切なのです。だから学級活動の中でどのように端末を活用するかは、児童生徒に任せっきりではだめで、教員がある程度示しながら進めていかなければなりません。

加えて、学習者が文具のように、端末を道具立てできるようになる必要があります。教具や教材の場合は、教員がやり方を示して、その通りにまねると結果が出ます。文具だと、そうはいきません。「文具として使う」というのは、「この課題では書いたり消したりするだろうから、ボールペンよりも鉛筆を使おう」というように、ゴールに近い方法を学習者自らが選び取るということです。だから、端末をいつでも使えばいいのではありません。学習者自身が状況に応じ、必要と感じるシーンで、有効に活用する姿が求められているのです。

教員の指示は大ざっぱでいい
――とはいえ、授業ではどうしても端末を使うことが目的化しがちになってしまいます。

1人1台端末をうまく運用しているヨーロッパの学校を見ていると、教員の指示が大ざっぱです。例えば、「今日の課題は〇〇についてレポートをまとめてください。2時間後が締め切りなので、それに合わせてクラスメートと相談してくださいね」といった具合です。日本だと、「ワードを開いて」「グーグルで調べて、コピペして」などと、細かく指示を出しがちですよね。指示した以外のアプリを使うことすら、禁止する先生もいるでしょう。それでは児童生徒も窮屈だし、教員も大変で、お互い「もうこんな授業はしたくない」と端末から離れてしまいます。

先ほどのヨーロッパの学校では、段取りを子供に任せる一方で、教員は教室をぐるぐると周って、一人一人の取り組みに合わせてアドバイスやフィードバックをしています。子供たちが自分で学びの段取りをできるようになれば、最初は大変でも、将来的に教員の負担感は減ります。日本の授業もそういった形に転換していくべきでしょう。

ワードの使い方を学ぶ授業になってはいけません。ワードを使ってどんな分析をしたり、感想をまとめたりできるか、「中身」が大切なのです。ICTを日常的に使うためには、ICTこそが透明にならなければいけません。

――そのためには、教員自身も端末を日常的に使いこなさないといけませんよね。

その通りです。ICTを活用した授業技法やテクニックの専門家が示す内容を、そのままコピーしても授業は成り立ちません。

まずは教員自身が、「文具」として端末を使いこなすことが大切です。児童生徒に出す課題を実際に自分でやってみると、「こんなエラーが出る」「ここでつまずきやすい」と把握できて、実際の授業で子供をサポートしやすいでしょう。

例えば「端末をどうやって活用したいか」と質問すると、多くの先生が「調べ学習」を挙げます。「調べ学習」を、ネットで検索した結果をまとめるだけの簡単な作業だと勘違いしていませんか。実はとても大変なんです。検索手法一つとってみても、アンド検索や言語でフィルターをかける方法など、さまざまな検索手段を使いこなさなければ、求める情報にはたどり着きません。また検索結果を見るときも、表示された順をうのみにすると広告記事を見ていたなんてこともあるでしょう。そういった落とし穴を子供はもちろん知りませんし、日常的に使っていない先生も知らずに授業を進めてしまう危険もあるのです。

まず「ライフライン機能」を活用
――では、ICTに関して苦手意識を持つ教員は、児童生徒の学びをどう引っ張っていけばいいでしょうか。

「学校の日常のデジタル化」が鍵でしょう。慣れるためには、学校の中で端末を使う用途と頻度を増やせば、試行錯誤の時間も自然と増えて、習熟も早くなります。

学校で端末の利用頻度を上げるには、どこで取り入れることが効果的だと思いますか。

――授業でしょうか。

同じ質問を学校でしても、授業と回答する先生が大半です。ですが先ほど言ったように、慣れない中で無理やり授業中に活用しようとしても、児童生徒も先生も疲弊して、結局使わなくなってしまいます。ひとまず、「最終的に授業で使えるようになればいい」くらいの心意気で始めることが、長続きするコツです。

学校の日常をデジタル化するために、まず取り組んでほしいのは「ライフライン」としての活用です。これまで家庭に紙で配布していたものを、メールやメッセンジャー、チームス、クラスルームを使うと、PDFで迅速に送ることができます。1年前の一斉休校時、端末のライフラインとしての可能性を全国の学校現場が痛感したはずです。

ただ、今の学校現場を見ていると、端末を活用した家庭との連絡について軽んじているように思えてしまいます。まず基本であるライフラインをベースに考えて、そこから児童生徒も教員もICTに慣れていき、その上でどのような授業デザインを積み上げていくか考えなければ、GIGAスクール構想自体が一過性のブームで終わる危険性すらあるのです。


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