【豊福晋平氏】GIGA端末 遅くとも5月中に使い始めて

GIGA端末を運用するにあたり、現場の教員が最も頭を抱える問題の1つ「ルール作り」。豊福晋平・国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授は「決して子供を管理する道具にしてはならない」と、教員のICTとの向き合い方についても警鐘を鳴らす。とはいえ、これから起こり得るトラブルを考えると、厳しい規制を課したくなる現場の気持ちも想像に容易い。教委、学校現場、保護者、皆が手探りの中で幕開けとなった、GIGAスクール構想。軌道に乗せるためには、どんな手だてが有効だろうか。豊福准教授に聞いた。(全2回の2回目)

子供を管理する道具に使わない
――本紙が小中高校の教員らを対象に実施したアンケートで、端末があることで「教員の指示が通らなくなるのではないか」、教育困難校では「遊び道具になるのでは」と不安視する声がありました。

オンラインで取材に応じる豊福准教授

授業を整然とやりたい、何より学習規律を大切にしたいという先生は、そう感じるでしょう。もちろん、課題を抱えた学級や教育困難校で授業をする大変さも理解できます。その上であえて厳しい言い方をすると、学習規律を第一にする授業にICTはいりません。ICTを取り入れたところで、児童生徒に自由に発言させたくない、教員の言うことそのままを受け取ってほしいと願うのなら、従来の一斉教授型の授業と同じなのではないでしょうか。

私はICTのことを「道徳のない増幅器」と呼んでいます。使わせようとしている人の欲望を、グロテスクに伝播させてしまうからです。つまり学習者である子供自身に使い方を任せないと、子供たちを管理するための道具になってしまうのです。

これまで日本の学校の多くは、児童生徒が使うパソコンを制御するシステムを取り入れていました。児童生徒の使うパソコン画面をモニターで監視できたり、強制的に画面を切り替えたりする機能が主流として取り入れられてきたのです。海外では考えられないことです。

GIGA端末についても、同じように考えている先生がいるとしたら大きな問題でしょう。端末は監視道具にしてはいけません。厳しい制限を設けてコントロールしようとすると、子供たちが端末を使って主体的に学ぶことは決してかないません。児童生徒一人一人の意識を促して自発的な行動につなげる方が、結果的に先生も楽になれるのです。

端末を「死蔵・文鎮化」させな
――とはいえトラブルが起きたときのことを考えると、制限したくなる教員の気持ちも理解できます。トラブルにはどう向き合えばいいでしょうか。

GIGAの導入期にはわくわく期、やらかし期、安定期――3つのフェーズがあります。

わくわく期は、まさに今。端末が届き、子供たちは「何をしよう」と期待感を膨らませている時期です。

次にくる、やらかし期はいわゆるトライアル期間。児童生徒は端末を使っているうちに、大人が思いも及ばないトラブルを起こします。このやらかし期の対応が、その学校が端末を文房具として使いこなせるか否かを左右します。

まず、多くの学校でやってしまいがちなのは、トラブルが起きるとあらゆることを禁止したり、取り上げたりする行為です。しかしその先にあるのは、「死蔵・文鎮化」。端末を保管庫に閉まったまま「死蔵」させてしまう、もしくは児童生徒に家庭から持ってこさせるのに授業で一切使わない「文鎮化」です。

特に文鎮化は深刻で、1キロほどある重たい端末を子供は毎日持ち帰るのに、全く学校で使いません。そうすると自分の物だという感覚も薄れ、愛着も湧かず、結果、雑に扱い壊してしまうケースが相次ぎます。持ち帰るから壊れるのではなく、文鎮化するから壊れるのです。

一方、うまく活用できる学校はやらかし期を越えると、安定期に入り、自然と日常的に端末を活用できるようになるのです。

――死蔵・文鎮化を防ぐために、教員は「やらかし期」にどうすればいいのでしょうか。

死蔵・文鎮化の原因となる、「細かく禁止事項をつくる行為」の逆をすればいいのです。端末を導入する上で、何十項目も細かい禁止ルールを設ける教委や学校もあるようですが、実際には誰も把握できておらず、面倒で読み込むことすらしていないなどという話も聞きます。

デジタルシティズンシップの根本ですが、決まり事をつくるためには、子供がいつでも振り返られる大方針を設けることが大切です。米国の財団が作る教材では、子供たちがテクノロジーの良き使い手になるために3つの大方針を示しています。①安全に使う②責任を持って使う③互いを尊重する――の3つです。何かトラブルが起きたとき、この大方針に反するかどうかで、その後の対処法を決めるというシンプルなものです。

ある小学校の先生から聞いたエピソードですが、英語のリスニング用途にイヤホンの持ち込みを許可したところ、個別作業の時に音楽を聴きながら作業する児童が出てきた、というものがありました。その先生は注意するか迷ったというのですが、私自身も正直、正解は分かりません。

海外の学校では「他人に迷惑を掛けていないから別に構わない」となりますが、日本では生活指導事案で、イヤホンを禁止する学校が多いでしょう。しかし考えてみてください。イヤホンで音楽を聴きながら作業することで、児童の作業効率が上がっているかもしれないし、他人に迷惑は掛けていません。果たして、どんな理由で禁止するのでしょうか。

このケースを3つの方針に照らし合わせたとき、問題になる可能性があるのは「②責任を持って使う」。「音楽を聴いていると、先生の指示が聞こえないこともあるかもしれないよ」というフィードバックはする必要があるかもしれません。

これまで学校はただ「勉強に関係ない物の持ち込みは禁止」というルールを決めて、いろいろな物を取り締まっていました。ただGIGA端末が導入されたことで、そのルールは少しずつ矛盾が生まれる状態になっています。トラブルは起こるべくして起こります。これまでと同じように、むやみやたらに禁止して思考停止に至るのではなく、児童生徒自身が自分の作業内容や学びを振り返って、必要かどうかを決められる環境が何より大切でしょう。

前向きに取り組む人の足を引っ張らない
――1人1台端末が整備された授業で、教員の役割は従来とどう変わるでしょうか。

まず教員が1から10まで全部を教えなくても、学習アプリやYouTubeを開いて児童生徒自らが効率的に情報を収集できるようになります。

ですからこれから教員に求められるのは、子供をファシリテートしていく役割でしょう。イメージしてほしいのは、医者。健診結果を見ながら、患者さんの健康状態についてアドバイスするのが仕事です。同じように、学校の先生にもICTで可視化された児童生徒の学習データをもとに、学習者自身が判断しづらいところをアドバイスやフィードバックしてほしいのです。

特に幼少であればあるほど、学習者自身、自分の特性や個性を把握できていません。そこを教員が包括的に見て、「ここが得意だから、もっとこんなことをやってみたらどう?」「これが苦手そうだから、こんなやり方を試してみたら?」と子供と一緒に考えられる形を、学校の中でつくることが大切でしょう。

――いま現在も、GIGA端末の運用について頭を抱える教員はたくさんいます。現場レベルですぐに取り入れられる打開策はありますか。

以前より個人のツイッターアカウントで、教育関係者に伝えたいことを「#GIGAスクールの鉄則」というタグで呟いています。そこで一番初めに伝えたのが、「やりたいと思っている人の足を引っ張らない」ということ。教委が前のめりに取り組む学校に水を差すことも、学校の中で意欲的な先生を管理職や同僚が批判することも、絶対にしてはいけません。お互いの精神をすり減らすだけです。

今回のGIGAスクール構想を巡っては、今までのように、上から下へ情報や取り組みを下ろそうとしても、うまくいかないと思っています。昨年度からずっと全国各地の教委のGIGA担当者からの相談に対応していますが、「手引きをどこから作り始めればいいのか」「学校の管理職が聞く耳を持ってくれないが、どうすればいいのか」など、本当に苦慮される姿を見てきました。戸惑っているのは学校だけでなく、教委も同じです。

とはいえ、もうGIGA端末が子供に行き渡り動き始めている今、教委が下ろしてくる情報を待っているだけでは、間違いなく手遅れになってしまいます。遅くとも5月中には使い始めて、夏休み前に本格的な運用をスタートさせなければ、非常にまずいと思います。

3年後に待つ「端末買い替えの壁」
――現場がスムーズに情報収集するには、どうすればいいでしょうか。

今こそ、横のつながりを有効活用してください。特に、フェイスブックやツイッターを使えば、全国各地の同じ課題を抱えた教育関係者とつながり、情報交換ができるようになります。刻々と新しくなっているGIGAを巡る情報を、雑誌などアナログで収拾しようとしても追い付きません。私のような専門家や先進的に動く教員の発信を、日々、SNSを通して追い掛けていくことが有効だと思います。

とはいえ、現場の先生方の中にはSNSアカウントを持って、不特定多数と交流することに抵抗がある人も多いでしょう。その場合は個人の教員主導で、オンライン研修会や情報交換をしている自治体もあるので、ぜひ参加してみてはどうでしょうか。例えば、兵庫県姫路市ではグーグル認定教育者を取得した先生を中心に「GEG Himeji」という団体を作っています。市内の先生は誰でも参加できるワークショップを運営しており、現場の先生同士で学び合いが生まれています。

あと、グーグルのクラスルームやマイクロソフトのチームズなどを使って、同じ自治体の先生が緩くつながれる環境を整えることもお勧めしています。端末を巡って疑問が生まれたらチャットで気軽に相談したり、自分のアイデアを共有したりできる場所をつくっておくのです。的確な回答が即座に返ってくるとは限らないけれど、相談できる場所があることで、心理的な負担がぐっと下がります。

――GIGAスクール構想について、今後出てくる課題はどのようなものでしょうか。

GIGA端末は、クラウドを使って管理しているという点が大きなポイントです。それぞれの学級や学校で端末を使っている時間やその用途はクラウド上に残るので、国や自治体は利用傾向を把握することができます。あまり活用できていない学校や自治体も、一目瞭然になるでしょう。

一方で、GIGA端末の3年後や5年後を考えたことはあるでしょうか。以前とある自治体が、「6年間使った端末は、新入生が使うので大切に使いましょう」と保護者に連絡し、ネットで批判の的となりました。タブレット端末は消耗品であり、3年も使うと古くなってしまいます。3年後に、教委や学校は、端末買い替えの壁にぶつかるでしょう。

そのとき、議論になるのが、費用を誰が払うかです。私は個人的に、ゆくゆくは保護者にも協力してもらう必要が出てくると考えています。ただし、授業で全く使っていない、子供の学びに十分生かし切れていない状況だったら、出費に同意する保護者がいったいどれだけ居るだろうか、ということです。

このようにGIGAスクール構想には、今後も新たな課題が次々と待ち構えています。それを解決に導く手段の一つは、全国の学校現場が手元にある端末を存分に生かして、学校日常のデジタル化を達成し、児童生徒や保護者に1人1台端末を整備する意義を感じてもらうことだと思うのです。

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