GIGA端末、トラブルこそ学びに変換 八丈島・三根小

新年度開始から約1カ月。全国の学校では児童生徒のもとにGIGA端末が行き渡りつつある。とはいえ、通信環境やルール作り、予備機の設置など、それぞれの地域で課題が山積しており、制限のある中でトライ&エラーを繰り返さなければならないのが現状だ。では、より限られた人員と環境にある、へき地や島しょ部の学校ではどうしているのか。東京都の離島・八丈島にある町立三根小学校(大場一輝校長)では、限られた状況下でも教員が柔軟な思考を持つことで、アクシデントに必要以上に委縮せず、学校生活で大いに端末を活用するモデルを構築しつつある。同小で中心となりICTを推進する古矢岳史主任教諭に、その秘訣(ひけつ)を聞いた。

児童も教員も端末を持ち帰る

町立三根小学校のある八丈町は小学校と中学校がそれぞれ3校、高校が1校ある人口7200人ほどの町だ。

同小では昨年10月、全児童163人と全教員にグーグル端末のクロームブックが行き渡り、11月から本格稼働。学校外での使用を前提とし、児童、教職員共に家庭への持ち帰りも許可している。

オンラインで取材に応じる古矢主任教諭

本格導入してから半年ほど経過した現在は、授業や学級活動など「端末を活用する学校生活」が当たり前になりつつあるという。同小で中心となり、1人1台端末活用を推進する古矢教諭は「日常的に端末に触れることが何より大切。その結果、児童はタイピングやコピー・アンド・ペーストなどを自然と使いこなせるようになった。授業中のみの限られた使用では、ここまで使いこなすのは難しかったように思う」と振り返る。

それは教員も同じだ。同小では教員も専用端末の持ち帰りを推奨しており、チャットを使って教員間で情報交換をしたり、「グーグル クラスルーム」で他愛もない雑談でコミュニケーションを図ったりなど、折に触れてタブレットに触れる。教員研修に関しては、各教員の業務量的にまとまった時間を取りづらい点は、他の学校と同じだ。ただ教員が端末に自由に触れられる環境が、どの教員も足並みをそろえてICTを推進する校風を生み出しているという。

端末導入当初、古矢教諭が最も時間を割いたのが、管理職を含む教職員、学習者である児童、そして保護者とGIGAスクール構想のビジョンを共有することだった。同小では端末を利活用する目的を「クロームブックを日常的に利活用し、扱う情報量を増やし、学習者の学びや表現方法の選択肢を豊かにする」と明文化。教員研修や保護者会などで定期的に発信し続けた。

島しょ地域であるがゆえに日常的にネットショッピングなどを利用する家庭が多く、家庭の通信環境が整っていたことも、児童が端末を日常使いする後押しになったという。

同小が児童の端末に貼ったオリジナルマークのステッカー(古矢教諭提供)

学習者である児童には端末を配布したタイミングで、使用するメリットとともに、「クロームブックは尖った刃物」と表現し、使い方によっては他人や自分を傷つける恐れがあると説明した。さらに端末の見える位置に、オリジナルマークのステッカーを貼った。日本の国旗と八丈島の紋章、同小の校章をあしらったものだ。「このマークに関わる人たちが協力して、クロームブックを使って学べるようになった。この人たちを悲しませるような使い方はしないでほしい」と呼び掛けた。

端末はあくまで学びの選択肢の1つ

こうして始まった、1人1台端末。今では学校生活のさまざまな場面で、児童が自然と端末を取り出し、思い思いの使い方で学びを深める姿が見られるようになった。

例えば5年生の算数。数量関係の単元では、「八丈島にお店をつくろう」というテーマで、統計データや確率などを活用して、開店プランを立てプレゼン。児童はインターネットで商品のバリエーションをリサーチしたり、アンケートの調査結果をスプレッドシートでグラフ化したりなど、端末を存分に生かして、それぞれの企画する店舗をアピールした。6年生は学芸会で発表する演劇のシナリオも、スプレッドシートで共同編集。効率化しながら、どの児童も満遍なく意見を出せる空間をつくりあげた。

学校生活に端末が溶け込む風景が日常になりつつある一方で、一部の児童は慣れない端末の扱いにとまどいを持つ場面もあったという。例えばキーボードで入力するよりも、手書きでノートをまとめるほうが自分の考えを整理できて、学習しやすいという児童がいた。古矢教諭は「学習者本人が、学び方を選び取れる環境が大切」と話す。

同小では授業中、1つの課題に対して、児童がそれぞれ学びやすいツールを選んで取り組む場面がよく見受けられる。ロイロノートを活用する児童、プログラミングツールのビスケットを活用する児童、手書きのノートで自分の考えをまとめる児童……。クラスメート同士の学びの共有はロイロノートを使うため、手書きで取り組む児童は、端末のカメラ機能を使いノートを撮影し、写真データをアップしている。

「端末は使うことが目的ではなく、あくまで学びを深めるため1つの選択肢にすぎない。手書きと端末のそれぞれの良さを知った上で、自分がより快適に学習できる手段を、児童自身が選び取れる力を付けてほしい」と古矢教諭は強調する。

さらに、それぞれの手段を使い分ける場面ごとで、教員がその狙いを説明できることが求められるのではないかと話す。例えば、国語の詩を書き写す「詩写」はキーボード入力ではなく、手書きで取り組んだ。児童たちに向けて、自分の手で実際に書き写すことで、作者が込めた意図や文体のリズムを感じられると説明。「学習の目的ごとに、児童がより探究しやすい手段を選び取れるよう補助していくことが、教師の役割だと思う」と語る。

アクシデントはチームで解決

もちろん端末を活用する上で、トラブルはつきものだ。管理職や町教委の理解もあり、比較的スムーズに1人1台端末を活用できているという同小でも、幾度となく思わぬアクシデントが発生した。

古矢教諭は「子供たちは大人の想像を超えた行動をする。だからアクシデントはあって当然」と寛容な姿勢を貫く。というのも、同小では当初より、何らかの問題が起こったときの対処法を具体的に定め、全教員間で共通認識を図っている。

全教員に対して「端末の使用を禁止したり取り上げたりするのではなく、教育者として学習者の意見を傾聴し、対話する姿勢が大切」と姿勢を示し、トラブルが発生した場合は教員個人ではなく、該当する学級の担任教員や情報科担当の教員、管理職などからなる専門チームが対処にあたるようにしているのだ。

先日は、こんなケースがあった。一部の児童らがパスワードを共有してしまい、本人以外のアカウントから“なりすまし”の書き込みをしたのだ。専門チームの教員で話し合い、すぐさま該当の学級で児童と対話する時間をとった。

まず教員が児童に、「なりすましの何が問題なのか」を問い掛けた。児童からは「他人のふりをするのはよくない」「知らないところで自分のふりをされたら、気分が悪い」などと意見があった。同時に、実際に起こったネットを介した事件を示しながら、名誉毀損(きそん)罪などで罰せられる可能性がある行動であることについても触れた。

児童たちは、クロームブックを文房具の1つとして捉え始めているという(古矢教諭提供)

その上で教員から「オンライン空間は公共空間。公共マナーを守らないと人を傷つけたり、自分が大変な思いをしたりする。他者に敬意を持って、活用する必要がある」とアドバイスすると、児童たちは真剣なまなざしで聞き入っていたという。

古矢教諭は「端末は大切な文具。タブレットを取り上げることは、児童たちからノートや鉛筆を取り上げることと同じ。どんな時でも丁寧に対話する姿勢を持つと、使い方やマナーについて、児童も教員も本当に理解できる。特に端末の機能面に関しては、子供の方が知っていることもあると教員側が受け入れ、共に学び合う姿勢で取り組むことが大切だ」と強調する。

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