不登校児童生徒「自立的なオンライン学習」に課題 中室教授報告

経産省「未来の教室」実証事業として、2020年9月から21年3月まで実施された不登校児童生徒向けのオンライン留学プログラム「OJaC(オージャック=オンラインジャパンクラス)」の活動報告が4月28日、オンラインで行われた。パネルディスカッションで登壇した慶應義塾大学の中室牧子教授は、同プログラムにおけるICTを活用した学習効果について「不登校に加えて発達障害、経済困窮など、困難が重複しているような子供たちは、総じて在宅での自立的な学習が非常に難しい傾向がある」との分析結果を示し、不登校対策としてのオンライン学習に大きな課題があることを報告。その上で、子供たちとその保護者に対して、発達障害や福祉の専門家を含めたサポートが必要との考えを示した。

同プログラムは、不登校児童生徒のネットスクール「クラスジャパン小中学園」を運営するクラスジャパン学園が全国17自治体と共同で実施。小学2年生から中学3年生まで209人が参加した。学校に在籍しながら、オンラインで学習、体験活動、部活プログラムが受けられ、プログラムの学習履歴をもとに出席認定や成績評価の参考になる学習レポートを作成し、在籍校に提供している。

この日のパネルディスカッションには、中室教授のほか、信州大学大学院の林寛平准教授と、経産省の浅野大介サービス政策課長・教育産業室長が登壇した。

中室教授は、同プログラムの参加者のうち、120人の児童生徒とその保護者を対象にしたアンケート調査の結果を報告した。調査対象者には中学2、3年生が多く、不登校だけでなく、発達障害、貧困など、問題が重層化している子供たちが目立った、という。欠席が1年以上続いている子供も少なくなかった。

調査対象の不登校児童生徒のSDQ(子供の強さと困難さ指標

不登校の理由を複数抱えている子供も多く、その理由は「学校に対する恐怖心や不安」が最多で、次いで「眠さや体のだるさ」「精神的にショックなことがあった」などだった。また、SDQ(子供の強さと困難さ指標)が全国平均と比べて高く、特に「情緒」「仲間関係」での困難度が高い傾向にあった=図参照。さらに、62%の子供たちに発達障害傾向があり、就学援助費を受給しているなど経済困窮家庭の子供も10%程度いた。

さまざまな困難を抱えた子供たちに対し、同プログラムでは、主教材としてWEB学習システム「デキタス」を活用し、個別最適化の在宅学習を実施した。他にも、チャット担任による日常的な対話によるサポートや、Zoomなどを活用した国内外の社会科見学などのオンライン体験活動を行った。

この同プログラムの成果について、中室教授が調査結果を分析したところ、学習の定着については、100時間以上勉強していた子もいる一方、ほとんど学習しなかった子もおり、二極化していたことが分かった。勉強時間が100時間を超える生徒の大半はSDQが低く、発達障害傾向が低い子供たちだった。経済困窮世帯の子供たちは、そうでない子たちと比較すると、勉強時間が圧倒的に少ないということも判明した。

こうした結果を受け、中室教授は同プログラムによる学習の定着について「短期間ということもあり、全ての子供にオンライン学習が定着したとは言えなかった」と評価した。

ただ、発達障害の子供の親は、子育てに対するネガティブな感情が低下しており、「子供の学習の定着については難しかったかもしれないが、何らかの活動に参加するなど、新しいチャレンジをする子供の姿を見ることで、子育てに対してしんどい思いをしている親に対して救いにはなっていた」と分析した。

さらに、不登校の状態になってから3年以上経過していると、オンライン部活や、オンライン体験学習など、さまざまな活動への参加についても期待しにくくなることも分かり、早期対応の必要性が示唆された。

今回の調査結果を踏まえ、中室教授は「同プログラムでは、自発的にログインしてくれないと、こちらからリーチできないため、そこが高いハードルとなっていた可能性がある」と総括。今後の改善策として、「困難度が高い子供たちの学習を定着させるためには、発達障害や福祉の専門家などにも加わってもらい、本人だけでなく家族も含めてサポートしていくべきではないか。また、遠隔でのサポートだけではなく、例えば自治体や在籍校の教員と協力して、何らかの形で情報をシェアしながら対面でもより手厚いサポートが必要だ」と述べた。

ICTを使った学習プログラムを用意しても、さまざまな困難を抱えた子供たち本人が自分から取り組むことができないと学習が定着しないとの調査結果について、浅野課長は「ICTを使って不登校の子供たちに何かできるかもしれないが、そのためにはどういうことが必要なのかを考えさせられた。次の問いにつながる非常に意味のある調査だった」と評価した。

中室教授は「オンラインだからこそ、200人という規模の子供たちにプログラムを提供できるメリットは大きい。ただ、今回のデータから、OJaCのプログラムでリーチできる子と、リーチできない子が明らかになった。このプログラムで救済できる子供を明確にするとともに、リーチできない子を救っていくためには、どういう専門家やリソースを追加投入しなければいけないのかについても検討していかなければならない」と総括。全国に18万人いるとされる不登校児童生徒のプロファイルについても把握していく必要性を強調した。

一方、同プログラムでは、17自治体の委員によるガイドライン評価委員会を設置し、「不登校児童生徒を対象としたICTを用いた在宅学習における出席・学習評価のガイドライン」を策定した。

ICTを用いた不登校児童生徒の在宅学習については、学校長の判断で出席や学習評価に反映できるとの通知が文科省から出されているが、その判断基準が各自治体や学校に委ねられていることから、実際にオンラインによる在宅学習を不登校児童生徒の出席や学習評価に活用する学校は限られている。このため、ガイドライン評価委員会では、不登校児童生徒がICTを用いた在宅学習を行った際に、在籍校の校長が出席扱いをし、その成果を学習評価に反映するためのよりどころとなるガイドラインを作成した。順次、学校設置者である全国1741自治体に参考資料として提供していく。

ガイドライン評価委員会の座長を務める林准教授は、「このガイドラインによって、子供たちは在宅学習でも自分がやったことを認めてもらえる。それが子供たちの自信につながり、社会的自立に向けた取り組みにもつながっていくのではないか」と指摘。「不登校児童生徒の事情や背景は多様で、学習進度などもそれぞれ違う。子供たちの実態に合わせてうまく活用してほしい」と期待を込めた。


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