【妹尾昌俊氏】GIGAスクールと働き方改革 どう両立するか

「忙しさを言い訳にしていいことと、してはいけないことがある」――。教育研究家で本紙オピニオン執筆者の妹尾昌俊氏は、GIGAスクール構想を巡る学校現場や教委の混乱ぶりについて、こう指摘する。変異株ウイルスの急拡大など予断を許さないコロナ禍の状況を踏まえ、「オンラインで児童生徒とコミュニケーションを取れる体制を整えることは、優先順位の高い事項ではないだろうか」と強調する。国や自治体、学校現場の足並みがそろわず、あちらこちらで不協和音が響く1人1台端末活用の現状。妹尾氏に教委と学校現場それぞれに求められる取り組みと、教員の働き方改革との両立について聞いた。

いつまで“ルール作り”をしているのか?
――GIGAスクール構想の現状をどう見ていますか。
オンラインでインタビューに応じる妹尾氏

小中学校だけで全国3万校もある中で、一概には言えません。ただ、一言でまとめると「1年前の反省はどこにいったの?」という、モヤモヤとした思いはあります。

本紙が4月7日に公表したアンケート調査では、同1日時点の状況を尋ねました。年度初めであることを踏まえると、現場は学級づくりに奔走していたり、5月の連休明けに端末を配布して活用する方針だったりと、それぞれに事情があるのは分かります。しかし、変異株を含むコロナの感染が拡大する状況を見ていると、全国一斉ではないとしても、地域を限定して休校措置や学級閉鎖がとられる可能性は大いにあります。前回の休校期間で、多くの教育関係者は、児童生徒の学びの保障や心のケア、つながりをキープするために、ICTが有効だと気付いたはず。休校などを想定して、全国の学校は迅速な準備や対策に乗り出してほしいと思います。

もちろんできている学校もありますが、かなりの学校で「あれもダメ、これもダメ」と厳しく規制したり、端末の配布すらしていなかったりなど、危機管理対応として疑問を抱かざるを得ない状況にあるのではないでしょうか。

――何が障壁となっていると思いますか。

犯人探しをしてもあまり生産的ではありませんが、教育委員会の姿勢に責任の一端はあります。

1人1台端末の活用を巡っては、個人情報保護や学校と外部システムの結合、家庭の通信環境、持ち帰りの可否など、さまざまな問題が山積しています。これら全ては1年前、あるいはコロナ以前から指摘されていましたが、いまだに具体的な策を示していない自治体も少なくありません。例えば、家庭とオンラインでつなぐには「個人情報保護のルールづくりが必要」とおっしゃる教委、学校はかなりありますが、「ルール作りをいつまでするの?」と思ってしまいます。もちろん水面下で解決に向けて準備をしていた教委もあるでしょうが、それが学校現場に十分に届いていないのかもしれません。

各教委の取り組みの差は、学校間格差にも発展しています。使用できるアプリや活用頻度、教える教員のスキルなど、さまざまな面ですでに差は広がっています。そもそもGIGAスクール構想は、これまで大きかった学校のICT活用の地域間格差を是正するための施策だったはずです。

ICT活用は、優先順位が高い課題
――具体的に、教委はまず何に取り組めばいいでしょうか。

ルール作りで混乱している現場が多いので、その整理に取り組んでほしいです。例えば課題に挙がっている個人情報の取り扱いや端末破損について、「保護者とこうした情報共有をする」「こういった文書で承諾を得る」など方針を示すと、教員や保護者も安心して利活用できるのではないでしょうか。

先進的な取り組みで知られる熊本市教委では、児童生徒の端末に関して有害サイトのフィルタリングのみで、細かいアプリの使用制限はしていません。一方で、各端末の使用時間を把握できるシステムを導入しており、夜間の長時間使用などの傾向が見られたときは、学校から本人や保護者に声掛けできる仕組みをつくっています。このように、教委が主導で大枠の方針や取り組みを示す必要があるでしょう。

一方、本紙のアンケート結果では、教委が現場のニーズに沿った施策を打ち出せていないのではないかと思える回答もありました。例えば、「教員専用の端末が整備されていない」といったものです。授業を担う側の教員に端末がなければ、どれだけ不便なのかは、誰にでも分かる話でしょう。

1年前の一斉休校時、ICTをうまく活用した学校では児童生徒とつながりを持てたり、励ましたりなどコミュニケーションを図れました。しかし多くの公立学校ではそれができず、心もとない思いをしたことを改めて思い出してほしいと思います。年度初めで忙しいのは理解ができます。ただ、教育行政に関わる方々は今こそ本腰を入れて、1人1台端末環境の推進に取り組んでいただきたいと思います。

――一方で、学校現場はどのように向き合うべきでしょうか。

学校現場も、教委が何かしてくれるのを待つだけの姿勢ではいけません。まず、ICT活用は優先順位が高い課題であることを今一度認識してほしいと思います。

仮に自分の学級の児童生徒が濃厚接触者となり2週間の自宅待機になった場合、どうしますか。2週間、ほったらかしというわけにはいかないはずですし、プリント学習だけでは限界がありますよね。福岡市や大阪府寝屋川市などでは、タブレットを教室の傍らに置いてリアルタイムで授業を配信し、自宅にいる児童も授業を受けられるハイブリッド型を実現させています。万が一の事態が起こったとき、柔軟な対応ができるように、どの学校も準備しておくべきでしょう。

先ほど申し上げましたように教委の役割も大きいですが、現場から何が必要か教委に訴え続けなければなりません。さらに今ある環境や人員で工夫できることはないか、改めて探るべきでしょう。

SNSは限定的な声しか拾えませんがツイッターを見ていると、1人1台端末活用について、「忙しすぎて、それどころじゃない」という先生たちからの意見が多く見受けられます。もちろん多忙は深刻な問題ですが、忙しさを言い訳にしていいことと、いけないことがあります。いきなりオンラインで質の高い授業を行うのは難しくても、オンライン上で先生が声掛けできたり、児童生徒が交流できたりする体制を整えておくことは、優先順位の高い事項ではないでしょうか。この1年間、何をしていたのかと問われるべきは、学校現場も同じです。その点は真摯(しんし)に反省しなければならないように思います。

足りないものを教委にしっかりと発信したり、先進事例を参考に自分たちでルールを作ったりなど、現場主体でできることもまだまだあるはずです。

意欲が高い教員向けの施策だけではダメ
――1年前の教訓を生かしきれていない学校や教委が多いということでしょうか。

問題を後回しにしてきた教委や学校長が多かったように思います。先ほど例示した熊本市では1年前の休校時の早い段階で、遠藤洋路教育長がリーダーシップを発揮し、休校期間が3カ月間になった場合を想定してオンライン授業などの準備をするよう呼び掛けたそうです。そういった最悪の事態を想定して準備をしておくことが、危機管理の上で最も大切でしょう。

また教委や学校現場が1年前の過去の経験から、どこまで学ぶことができているのかも問われるところだと思います。

というのも、昨年度末、全国20校ほどの学校評価シートを見る機会がありました。どの学校もおしなべて、「コロナ禍でも行事を工夫できた」などプラスの振り返りしかありませんでした。休校期間中にICT活用が十分にできず、児童生徒とコミュニケーションを取れなかったり、保護者とも十分につながれなかったりしたはずなのに、そこへの言及はありませんでした。できたことに焦点を当てることは大切ですが、失敗や課題と真正面から向き合うことができていないのではないかと、不安を抱きました。

GIGAスクール構想への動きが鈍い現状を見ていると、そんな悪い癖がまた出ているのかもしれないと思わざるを得ません。

――文科省や各自治体では好事例を発信するなどの策を講じています。効果はあるでしょうか。

私の専門である働き方改革でも事例集はたくさんあります。ただ当人がそれを読もうと思えるのかが問題です。好事例集の出来うんぬんよりも、もっと手前の方でつまずいている学校が多いのではないでしょうか。

文科省や教委が情報を発信しているのに、なぜ現場は読まないのかといら立つ気持ちも分かります。しかし情報を収集してICTをどんどん活用しようというポジティブな教員と、そこまでの余裕を持てない教員がいるのが現実です。

国や自治体は、意欲的なスーパーティーチャーだけを対象にした施策を打つべきではありません。ICTに関して苦手な先生や適応力が高くない先生もいることを踏まえて、策を講じなければなりません。好事例集はどちらかと言うと熱心な先生向けの策であり、それだけでは限界があります。オンラインで研修をする、支援員をしっかり付けるなど、さまざまな工夫が必要なのではないでしょうか。

もちろん各学校でも、取り組めることはあります。例えば一部の自治体や学校では、個人でICTを推進するのではなく、専門チームを結成し対応する仕組みをつくっています。得意な1人の先生に依存しては、異動したときに困ってしまいます。

ICT活用で学校の応援団を増やす効果も
――働き方改革と1人1台端末活用を両立させることは可能でしょうか。

導入期のセッティングやトラブル対応などを踏まえると、教員の負担感が増し、働き方改革に逆行する面もあります。ただ同時に導入期を過ぎ、児童生徒が端末に慣れ始めると、教員の負担を軽減するツールとして十分に活用できるように思います。

例えば宿題。これまで教員が用意して一つ一つ添削をしていましたが、ICTを活用することで負担を軽減できるでしょうし、一人一人の習熟度などに応じた課題を出すことも容易になります。すると本当に支援が必要な児童生徒に対して、これまで以上に丁寧に対応することができます。つまり学校教育でICTを活用すると、かける時間に対しての教育効果が高まり、教育の質が上がる場合があります。それは教員自身の負担感の軽減にもつながります。

また保護者との交流手段としても、有効活用できます。コロナ禍で、保護者と学校がつながる機会は大幅に減りました。そんな時こそ、学校への信頼感が下がったり、トラブルが起こりやすくなったりしがちです。オンラインを活用した授業参観や保護者会、簡単な連絡などを通して、学校の応援団を増やすこともできるのです。

働き方改革にすぐ結び付くわけではありませんが、長い目で見ると、教員も児童生徒も保護者も、ICTを仲良く普段使いできるようにしていくことが大切だと思います。


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