独自IDで小中高大一貫型教育 前橋市のスーパーシティ構想

2030年の近未来を先取りして、ICTと規制改革によって、これまでにない学びを創る――。そんな壮大なプロジェクトが今、群馬県前橋市で動き出している。同市は4月に、内閣府の国家戦略特区である「スーパーシティ構想」に名乗りを上げ、独自のIDを活用し、学習指導要領に捉われない小中高大一貫型教育を柱とするアイデアを提案した。同市が目指す新しい学校の姿について、同市未来政策課の谷内田(やちだ)修課長に聞いた。

「めぶく」に込められたまちづくりのビジョン

医療や交通、教育、行政手続きなど、市民の生活に関する複数の分野でAIなどの最先端技術を活用し、同時に規制改革を進めて2030年の未来のまちを一足早く実現しようというのが、内閣府が進めているスーパーシティ構想だ。

内閣府では、国家戦略特別区域法に基づき、スーパーシティに指定する自治体を公募。4月16日の締め切りまでに全国31自治体が応じ、専門調査会による提案書の検討が始まっている。

そのスーパーシティ構想に手を挙げた同市だが、「もともと前橋市では、産学官が連携したまちづくりを進めてきた。スーパーシティ構想は、その取り組みの集大成と言える」と谷内田課長。人口約34万人の同市は、6つの大学と30を超える専門学校が点在する文教都市の顔を持つ。さらに、前橋市に所縁のある企業が「太陽の会」という団体を設立し、まちづくりに貢献するなど、教育機関と民間が地域の活性化に協力しようとする土壌がすでにあったという。

2016年には民間企業が資金を出し、コピーライターの糸井重里さんによって「めぶく。」と名付けられた前橋まちづくりビジョンを策定した。「『めぶく。』が掲げたまちづくりのビジョンと、スーパーシティ構想の目的が合致した。そして、前橋市ではまちづくりと教育を一体で取り組みたいと考えている」と谷内田課長。提案書では教育ではなく「学育」という言葉をあえて用い、未来人材が学び育つ場としての「まち」を明確に打ち出すことにしたという。

個別最適な学びを支える「まえばしID」

同市の提案書では、スーパーシティで実現したい先端的サービスの筆頭に「学育」が掲げられ、バーチャルとリアルが融合した市民による学びの空間の実現や、個別最適化されたプログラムを提供する小中高大一貫型教育、海外日本人学校とのグローバル連携などが並ぶ。
こうした先進的な学びを実現する鍵となるのが、同市が新たに開発しようとしている「まえばしID」だ。

この「まえばしID」は、マイナンバーカードの電子証明書とスマートフォンで行える電子証明書、顔認証の3つを連携させることで、安全性と利便性を高めながら、個人データの利活用を進める仕組み。これにより、さまざまな行政サービスを窓口での書面や対面で行うことなく、スマホなどからスムーズにできるようになると期待されている。

「まえばしID」を教育分野でも活用できるようにすれば、個人の意欲や関心、これまでの学習履歴などに応じて、個別最適化されたプログラムの提供も可能になる。谷内田課長は「そうなれば学年に縛られず、飛び級や学び直しもしやすくなるはずだ」とにらむ。

この「まえばしID」は前橋市民のみを対象としたものではない。例えば、これまで教育が届きにくかった海外の日本人学校に通う生徒や長期入院中の高校生に「まえばしID」を付与し、日本の高校教育に相当するプログラムを提供することや、「まえばしID」によって個人認証されたユーザーが仮想空間(VR)上で学び合うことなども想定している。

誰一人取り残さないまちへ

ただ、いくら優れた仕組みができても、既存のルールが利便性の向上や新たな価値の創出の足かせとなってしまっては意味がない。そこで、同市の構想では、さまざまな法令の規制・制度改革についても提案。中でも、個に応じた学びを提供するためには、学習指導要領に捉われないカリキュラムやオンライン授業によるプログラムの提供が想定されることから、それらを教育課程の特例として認めたり、単位として認定できるようにしたりすることを求めている。

そうして実現する小中高大一貫型教育について、谷内田課長は「市内にある全ての公立学校でやるといったものではなく、まずは新しい教育をする場所を市長部局の下で公設民営型でつくり、少しずつ広げていくことになるのではないか」と話す。

今回、全国の自治体が応募したスーパーシティ構想は、6月には選定結果が公表される。そこに同市の提案が残れば、さらに1年間を掛けて計画を練り直し、2022年度以降、実現に向けて本格的に動き出すことになる。

谷内田課長は「教育だけでなく、医療や選挙など、さまざまな分野で誰一人取り残さないようにすることが未来都市の姿だと考えている。未来人材とは、子供だけを想定していない。全ての市民が自らの意思で学び、新しい価値を生み出すまちを目指したい」と意気込む。

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