【GIGA到来】文科省が考える学校現場支援策 幹部に聞く

全国の小中学生に1人1台端末を整備するGIGAスクール構想が本格始動してから1カ月が過ぎた。徐々に利活用が広がる一方、導入期で混乱している学校現場も少なくない。こうした学校現場での端末活用を支援するため、昨年12月に文科省内に設けられたGIGA StuDX推進チームは、今年4月に教育委員会や学校からの出向メンバーを増員。特設サイト「StuDX Style」を核として、今後、家庭の共通理解を得る方法や、教科別の活用ノウハウなど情報共有を進め、先進校だけでなく全国全ての学校で児童生徒を「誰一人取り残さない」学びの環境を実現するよう支援する方針を掲げている。文科省初中局の今井裕一・情報教育・外国語教育課長と、チームリーダーを務める板倉寛企画官に学校現場への支援策を聞いた。

現場の思いをダイレクトに聞く

文科省GIGA StuDX推進チームのオフィス

「これだけの改革を進めているのだから、学校現場での課題が出てくるのは、ある意味、当然だと思っている。ただ一番まずいのは、課題が怖いから(端末を)使わなくなるということだ」。今井課長は強調する。「小さな一歩をとにかく踏み出し、進んでいただくための支援は、きめ細かに行っていきたい」。

多くの自治体では端末の整備が完了し、利活用のフェーズに入りつつある。文科省初中局の関連部署が連携してつくるGIGA StuDX推進チームは4月、東京都・埼玉県・山梨県・大阪府・京都府にある自治体から、小中学校の教員籍を持つ8人の出向メンバーを新たに加えた。うち3人は教育委員会での勤務経験もある。

板倉企画官はすでにチームの変化を感じている。「非常に新鮮だ。現場の先生方の思いをダイレクトに、鮮度が高いまま、聞くことができている」。ICT先進地域から来ているメンバーもいれば、そうでないメンバーもいるが、「なぜ現場にうまく伝わらないのか、といったことを考えるには、先進地域のメンバーばかりで集まらない方が、かえって感覚的に分かるのではないか」と今井課長も応じる。

「このチームは学校現場をよく知っていることが大事。教育委員会で苦労した方や、学校現場で取り組んだ方、これからどうしようかと悩んでいる方などがいて、多面的な見方ができるチームであれば、現場に伝えるメッセージに深みが出る。進めることしか見ていないチームより、進めるためにいろいろなことを知っているチームの方が強いと思っている」(板倉企画官)

1人1台環境の導入期である現在は、地域や学校、さらには教員によって活用状況に温度差があるのが実状だ。すでに日常的に授業で活用している学校もあれば、ルール整備や教員研修の遅れなどから、ほとんど活用できていない学校もある。そして、それぞれが活用のフェーズに応じた課題に直面している。

文科省初中局情報教育・外国語教育課の今井課長

今井課長は「現場からはさまざまな悩みや課題が聞こえてくると思うが、好事例を横展開するだけで回避できることもあるかもしれないし、解決の糸口が見つかるかもしれない。事例を集め、情報発信を続けることが大事だと思っている。現場で解決しきれないものがあれば、国として引き受けて、解決策を提示していきたい」と語る。

学校現場が自走できる状態に

GIGA StuDX推進チームが運営する特設サイト「StuDX Style」では、端末の標準的な機能を使って利活用できる内容を前提に、「GIGAに慣れる」といった初歩的なステップから、教員、児童生徒、家庭とつながるさまざまな事例を紹介している。全国各地の教育委員会のICT担当者などに参加を促し、双方向の情報交換プラットフォームとなることが目標だ。

板倉企画官は「現状はウェブサイトに(活用事例の)情報を載せている段階だが、次のステップに進む必要がある」と認識を語る。「着実に進めている地域や学校だけでなく、そうでないところもしっかり底上げしていくことが、このチームの非常に重要な役割になる。学校現場が自走できる状態にしていくことが、まず大切だと考えている」。

ICTに慣れていない学校や教員の場合、多忙な日々の中で端末の活用方法を新たに習得することが負担となり、活用に二の足を踏んでいるケースも少なくない。板倉企画官は「GIGAスクール構想が成功するかどうかのポイントは、ICTに慣れていない人も含めて、この取り組みが大事だと思ってもらえるように、一歩一歩丁寧に進めていくことだろう」と話す。

「まずは便利さをいろいろな観点で知ってほしい。端末の基本的な機能を知り、これだけのことができれば『教育が良くなるぞ』『働き方が変わるぞ』と実感すること、そしてそれが新学習指導要領とつながる一つの道になっているのだと理解することも大切になる」

文科省GIGA StuDX推進チームのチームリーダー、板倉初中局企画官

板倉企画官は、前任が新学習指導要領の総則を担当する初中局教育課程企画室室長で、端末の活用が、新学習指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」の実現に効果的であることを強調した。

だが、学校現場で端末活用を進める上で、懸念材料の一つがICTに対して苦手意識を持つベテラン教員の存在だ。教育新聞が4月に教員を対象に実施した学校現場の1人1台端末環境に関するウェブアンケートでも、「同僚がICT活用を前向きに捉えていない」と考えている教員が一定数いるという実態が浮かび上がった。

こうしたICTに対する一部教員の苦手意識について板倉企画官は、チームの若手メンバーと意見を交わす中で、「ベテランの教員はICTなど新しいものが入ってくると、これまでのやり方と違うので、初めは慎重になる。しかしいったんその良さが分かると、どんどん活用して、若手よりはるかに良い授業をする」という声を聞いたという。

「そういう視点はすごく大切だと思っている。やはり、『子供が変わる』というのが教員にとって一番の関心事。経験豊富で子供のことをよく理解しているベテランの先生方に、ICTを使うことで日本の学校教育が良くなっていくのだと思ってもらえるような雰囲気を、われわれがしっかり作っていかなければならない」と語る。

今井課長も「ICTを使うのが大変だという声もあるが、それよりも子供たちがこれから社会に出ていく上で、避けては通れないということを前提に取り組んでほしい。GIGAスクール構想で一気にICT環境が改善する中で、なぜICTが必要なのかということを、いま一度、先生一人一人に思い起こしてほしい」と訴える。

基本機能でできる教科別事例を紹介

端末の活用が始まっている学校現場の教員からは「児童生徒が授業に集中できない」「児童生徒のスキルに差がある」「家庭によってICTに対する価値観が違う」といった悩みも聞こえてくる。板倉企画官はGIGAスクール構想を進めていく上で、「学校、児童生徒、家庭の共通理解」が重要になると指摘する。

「まずは自分の児童生徒が今、どの位置にいるのかを考えてほしい。例えば、高校生ならタブレットで検索するだけでなく、タイピングスキルなどもある程度は身に付けたい段階。タイピングができて表計算ソフトを使えれば、社会に出た時にすぐにプラスになる。どのような段階を踏みながら情報活用能力を身に付けていくか、という観点から、学校と児童生徒、家庭が共通の理解を得ていく必要がある」

GIGA StuDXチームでは今後、学校が児童生徒、家庭との共通理解を醸成していく方法について、各地の教育委員会と連携しながら、さまざまな事例を発掘、共有していくことを目指すという。

さらに教科学習への端末活用について、「どの教科の、どの場面で端末を活用すればよいのか」と悩む声も学校現場から聞かれる。こうした課題に対しては、「1人1台・高速ネットワークを前提としたクラウド使用」といったGIGAスクール構想の環境に対応する形で、教科別のICT活用事例集を作成することを検討している。

文科省は昨年9月、「各教科等の指導におけるICTの効果的な活用に関する参考資料」を公表し、ICTを活用して「主体的・対話的で深い学び」の視点から授業改善を行うための事例を示している。

ただ「当時の(多くの自治体で端末が整備される前の)実態を踏まえた活用事例集になっており、先進地域の活用事例が中心だったため、有料のアプリを使っていたり、クラウドベースではなかったりなどの事例が含まれていた。改めてGIGAスクール端末の基本機能で対応できる事例集を出していきたい」と板倉企画官は話す。

「網羅的に全単元を押さえるというよりは、『こういう使い方をすると、その教科教育がより発展する』というポイントが中心になる予定。文科省には教科調査官、視学官といった教科教育のスペシャリストがいる。連携しながら進めたい」と意気込みを見せた。

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