わいせつ教員防止法案 衆院文科委が可決、今国会成立へ

わいせつ行為を行った教員を再び教壇に立たせないことを目指す「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律案」が、衆院文科委で5月21日、全会一致で可決された。教員免許の授与権者に「裁量的拒絶権」を与え、わいせつ行為で懲戒処分を受けた教員を事実上、再び教壇に立たせないようにする内容。25日の衆院本会議で可決された後に参院へ送られ、会期末の来月16日までに可決・成立する見通し。

わいせつ教員防止法案を全会一致で可決した衆院文科委(衆議院インターネット審議中継より)

この法案は与党が今年3月に立ち上げた「わいせつ教員根絶立法検討ワーキングチーム(WT)」で、10回にわたるヒアリングや議論を経て作成され、野党の合意を得て5会派共同の議員立法として提案された。

主な内容は、教員による児童生徒との性交やわいせつ行為などを、本人の同意の有無にかかわらず児童生徒性暴力と定義し、性暴力の防止等について国や自治体、学校、教員等の責務をそれぞれ明記。文科相は性暴力の防止などに関する基本的な指針を定めることとした。また、免許授与権者に「裁量的拒絶権」を与え、わいせつ行為で免許を失効した者への免許の再交付は「再び免許を与えるのが適当であると認められる場合に限り」認めるとし、事実上、再び教壇に立たせない運用を目指す。

21日の衆院文科委では、法案の趣旨説明に続いて2人の議員が質疑に立ち、教員以外に子供たちと接する保育士などについても対応が必要との指摘や、性暴力被害を受けた児童生徒に配慮した調査体制の整備を求める意見が出された。これに対し萩生田光一文科相は「成立されれば、調査に当たる専門家の役割や調査協力の在り方、公平性中立性の確保の留意点など、大臣が定める基本指針などを通じてしっかり示したい」と答えた。

このあと採決が行われ、法案は全会一致で可決された。また、5会派による附帯決議案も示され、同じく全会一致で可決された。

附帯決議では、政府に対して法律の施行にあたって、▽保育士についても免許失効者の扱いについて、教員と同様の仕組み作りを検討する▽部活動の外部コーチやベビーシッターなど、児童生徒と接触する職種で性的な被害を与えた者に関する照会制度の検討▽小児性愛の研究に関する支援の拡充検討▽全ての児童生徒に目が行き届くよう、教員の多忙や疲弊を改善するための人的配置、人材確保に努める――など14項目について、適切な措置を行うよう求めている。

わいせつ教員対策を巡っては、文科省が児童生徒へのわいせつ行為で懲戒免職処分を受けた教員が再び教壇に立つことがないように、懲戒免職で教員免許状が失効した場合、欠格期間を実質的に無期限とする教員免許法の改正に取り組んできたが、内閣法制局との調整の結果、刑法上の「刑の消滅」などとの均衡がとれないと判断。さらに小児性愛の診断を受けた人に教員免許状を授与しないとする法改正を検討したが、内閣法制局が「小児性愛は概念が十分に明確とは言えない」などと指摘したことなどから、萩生田文科相は昨年12月の会見で、「法制上乗り越えられない課題がある」として、今国会への法案提出を見送る考えを示していた。

これに対し、与党WTは、免許の授与権者に「裁量的拒絶権」を与えて事実上、わいせつ行為で懲戒処分を受けた教員を再び教壇に立てなくする形で法案づくりを進めた。懲戒処分で教員免許が失効した場合、「再び免許を与えるのが適当であると認められる場合に限り」免許を再交付できるとしたが、再交付する場合は都道府県教育職員免許状再授与審査会の意見を聴くことが必要であるとして、事実上、再び教壇に立つことがないことを目指している。

さらに国に対し、性暴力等による教員免許の失効者の氏名や失効事由の情報について、詳細なデータベースの整備を求める条文も設け、免許の失効者が他の都道府県で採用されることを防ぐ措置も盛り込んだ。

教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律案(主な部分抜粋)
第一章 総則
(目的)

第一条 この法律は、教育職員等による児童生徒性暴力等が児童生徒等の権利を著しく侵害し、児童生徒等に対し生涯にわたって回復し難い心理的外傷その他の心身に対する重大な影響を与えるものであることに鑑み、児童生徒等の尊厳を保持するため、児童生徒性暴力等の禁止について定めるとともに、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、基本指針の策定、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止に関する措置並びに教育職員等による児童生徒性暴力等の早期発見及び児童生徒性暴力等への対処に関する措置等について定め、あわせて、特定免許状失効者等に対する教育職員免許法の特例等について定めることにより、教育職員等による児童生徒性暴カ等の防止等に関する施策を推進し、もって児童生徒等の権利利益の擁護に資することを目的とする。

(定義)

第二条

3 この法律において「児童生徒性暴力等」とは、次に掲げる行為をいう。

一 児童生徒等に性交等をすること又は児童生徒等をして性交等をさせること(児童生徒等から暴行又は脅迫を受けて当該児童生徒等に性交等をした場合及び児童生徒等の心身に有害な影響を与えるおそれがないと認められる特別の事情がある場合を除く。)。

二 児童生徒等にわいせつな行為をすること又は児童生徒等をしてわいせつな行為をさせること。

三 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第五条から第八条までの罪に当たる行為をすること。

四 児童生徒等に次に掲げる行為(児童生徒等の心身に有害な影響を与えるものに限る)であって児童生徒等を著しく差恥させ、若しくは児童生徒等に不安を覚えさせるようなものをすること又は児童生徒等をして当該行為をさせること。

イ 衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の胸部、臀部部、陰部、大腿部その他の身体の一部に触れること。

ロ 通常衣服で隠されている人の下着又は身体を撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。

五 児童生徒等に対し、性的差恥心を害する言動であって、児童生徒等の心身に有害な影響を与えるものをすること。

4 この法律において「児童生徒性暴力等の防止等」とは、児童生徒性暴力等の防止及び早期発見並びに児童生徒性暴力等への対処をいう。

(児童生徒性暴力等の禁止)

第三条 教育職員等は、児童生徒性暴力等をしてはならない。

(基本理念)

第四条 教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策は、教育職員等による児童生徒性暴力等が全ての児童生徒等の心身の健全な発達に関係する重大な問題であるという基本的認識の下に行われなければならない。

2 教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策は、児童生徒等が安心して学習その他の活動に取り組むことができるよう、学校の内外を問わず教育職員等による児童生徒性暴力等を根絶することを旨として行われなければならない。

3 教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策は、被害を受けた児童生徒等を適切かつ迅速に保護することを旨として行われなければならない。

4  教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策は、教育職員等による児童生徒性暴力等が懲戒免職の事由(解雇の事由として懲戒免職の事由に相当するものを含む)となり得る行為であるのみならず、児童生徒等及びその保護者からの教育職員等に対する信頼を著しく低下させ、学校教育の信用を傷つけるものであることに鑑み、児童生徒性暴力等をした教育職員等に対する懲戒処分等について、適正かつ厳格な実施の徹底を図るための措置がとられることを旨として行われなければならない。

5 教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策は、国、地方公共団体、学校、医療関係者その他の関係者の連携の下に行われなければならない。

(国の責務)

第五条 国は、前条の基本理念にのっとり、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

(地方公共団体の責務)

第六条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策について、国と協力しつつ、その地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

(任命権者等の責務)

第七条 教育職員等を任命し、又は雇用する者は、基本理念にのっとり、教育職員等を任命し、又は雇用しようとするときは、第十五条第一項のデータベースを活用するものとする。

2 公立学校(地方公共団体が設置する学校をいう)の教育職員等の任命権者は、基本理念にのっとり、児童生徒性暴力等をした教育職員等に対する適正かつ厳格な懲戒処分の実施の徹底を図るものとする。

3 公立学校以外の学校の教育職員等を雇用する者は、基本理念にのっとり、児童生徒性暴力等をした教育職員等に対し、懲戒の実施その他の児童生徒性暴力等の再発の防止のために必要な措置を講ずるものとする。

(学校の設置者の責務)

第八条 学校の設置者は、基本理念にのっとり、その設置する学校における教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等のために必要な措置を講ずる責務を有する。

(学校の責務)

第九条 学校は、基本理念にのっとり、関係者との連携を図りつつ、学校全体で教育職員等による児童生徒性暴力等の防止及び早期発見に取り組むとともに、当該学校に在籍する児童生徒等が教育職員等による児童生徒性暴力等を受けたと思われるときは、適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する。

(教育職員等の責務)

第十条 教育職員等は、基本理念にのっとり、児童生徒性暴力等を行うことがないよう教育職員等としての倫理の保持を図るとともに、その勤務する学校に在籍する児童生徒等が教育職員等による児童生徒性暴力等を受けたと思われるときは、適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する。

第二章 基本指針

第十二条 文部科学大臣は、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な指針を定めるものとする。
基本指針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。

一 教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な方針

二 教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策の内容に関する事項

三 その他学校において児童生徒等と接する業務に従事する者による児童生徒性暴力等の防止等に関する重要事項

第三章 教育職員等による児童生徒性暴力等の防止に関する措置

(データベースの整備等)

第十五条 国は、特定免許状失効者等の氏名及び免許状の失効又は取上げの事由、理由等に関する情報に係るデータベースの整備その他の特定免許状失効者等に関する正確な情報を把握するために必要な措置を講ずるものとする。

2  都道府県の教育委員会は、当該都道府県において教育職員の免許状を有する者が特定免許状失効者等となったときは、前項の情報を同項のデータベースに迅速に記録することその他必要な措置を講ずるものとする。

(児童生徒性暴力等対策連絡協議会)

第十六条 地方公共団体は、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関係する機関及び団体の連携を図るため、学校、教育委員会、都道府県警察その他の関係者により構成される児童生徒性暴力等対策連絡協議会を置くことができる。

第四章 教育職員等による児童生徒性暴力等の早期発見及び児童生徒性暴力等への対処に関する措置等
(教育職員等による児童生徒性暴力等の早期発見のための措置)

第十七条 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校における教育職員等による児童生徒性暴力等を早期に発見するため、当該学校に在籍する児童生徒等及び教育職員等に対する定期的な調査その他の必要な措置を講ずるものとする。

2 国及び地方公共団体は、教育職員等による児童生徒性暴力等に関する通報及び相談を受け付けるための体制の整備等に必要な措置を講ずるものとする。

(教育職員等による児童生徒性暴力等に対する措置)

第十八条 教育職員等、地方公共団体の職員その他の児童生徒等からの相談に応じる者及び児童生徒等の保護者は、児童生徒等から教育職員等による児童生徒性暴力等に係る相談を受けた場合等において、教育職員等による児童生徒性暴力等の事実があると思われるときは、教育職員等による児童生徒性暴力等を受けたと思われる児童生徒等が在籍する学校又は当該学校の設置者への通報その他の適切な措置をとるものとする。

2 教育職員等、地方公共団体の職員その他の児童生徒等からの相談に応じる者は、前項に規定する場合において犯罪の疑いがあると思われるときは、速やかに、所轄警察署に通報するものとする。

3 教育職員等、地方公共団体の職員その他の児童生徒等からの相談に応じる者(公務員に限る)は、第一一項に規定する場合において犯罪があると思われるときは、刑事訴訟法の定めるところにより告発をしなければならない。

4  学校は、第一項の規定による通報を受けたときその他当該学校に在籍する児童生徒等が教育職員等による児童生徒性暴力等を受けたと思われるときは、直ちに、当該学校の設置者にその旨を通報するとともに、当該教育職員等による児童生徒性暴力等の事実の有無の確認を行うための措置を講じ、その結果を当該学校の設置者に報告するものとする。

5 学校は、前項の措置を講ずるに当たり、児童生徒等の人権及び特性に配慮するとともに、その名誉及び尊厳を害しないよう注意しなければならない。

6 学校は、第四項の規定による報告をするまでの間、教育職員等による児童生徒性暴力等を受けたと思われる児童生徒等と当該教育職員等との接触を避ける等当該児童生徒等の保護に必要な措置を講ずるものとする。

7 学校は、第四項の場合において犯罪があると認めるときは、直ちに、所轄警察署に通報し、当該警察署と連携してこれに対処しなければならない。

第五章 特定免許状失効者等に対する教育職員免許法の特例等
(特定免許状失効者等に対する教育職員免許法の特例)

第二十二条 特定免許状失効者等については、その免許状の失効又は取上げの原因となった児童生徒性暴力等の内容等を踏まえ、当該特定免許状失効者等の改善更生の状況その他その後の事情により再び免許状を授与するのが適当であると認められる場合に限り、再び免許状を授与することができる。

2 都道府県の教育委員会は、前項の規定により再び免許状を授与するに当たっては、あらかじめ、都道府県教育職員免許状再授与審査会の意見を聴かなければならない。

3 都道府県の教育委員会は、教育職員免許法第十条第二項の規定により特定免許状失効者等から失効した免許状の返納を受けることとなった都道府県の教育委員会その他の関係機関に対し、当該特定免許状失効者等に係る免許状の失効又は取上げの原因となった児童生徒性暴力等の内容等を調査するために必要な情報の提供を求めることができる。

(都道府県教育職員免許状再授与審査会)

第二十三条 前条第二項に規定する意見を述べる事務をつかさどらせるため、都道府県の教育委員会に、都道府県教育職員免許状再授与審査会を置く。

2 都道府県教育職員免許状再授与審査会の組織及び運営に関し必要な事項は、文部科学省令で定める。

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