変革期の荒波をどう乗り越えるか? 全高長新会長に聞く

新学習指導要領への対応や大学入試改革など、これから本格的に変革の時期を迎える高校教育。コロナ禍への対応という喫緊の課題を抱えながら、この“荒波”をどう乗り越えていくのか。新たに全国高等学校長協会(全高長)の会長に就任した、東京都立小金井北高校の杉本悦郎(えつお)校長にインタビューした。

3つのポリシー生かして高校を魅力化
――高校教育は大きな改革が目白押しとなっています。

全高長の新会長に就任した杉本校長

まず、来年度から新学習指導要領に移行することになりますので、今はどの高校でも新しい教育課程に向けた準備が進んでいます。

特に、この新学習指導要領で学んだ生徒が受験することになる2025年実施の大学入学共通テストでは、それに伴い科目構成が変わり、「情報」が新たに出題されることになります。ただ、全国の高校の中には小規模であるために情報の専任の教員を配置できなかったり、情報の教員の採用が少なかったりしているため、対応に困っているという声も聞こえてきます。

また、「情報」を利用する大学が実際にどれくらいあるのかもまだ見えてきていません。

受験生の負担を増やさないためにも、そうした現場の不安や懸念は伝えていく必要があると感じています。

――1月に出た中教審答申では、高校改革も大きなポイントとして盛り込まれました。

答申で示された普通科改革やスクール・ポリシーをはじめとする「3つのポリシー」の策定、STEAM教育などの教科等横断的な学習の推進は、とても意義があると思います。

現在、高校では「総合的な探究の時間」が先行実施されていますが、一般的な普通科の高校や専門学科の高校で、教科等横断的な学習を校内の教員だけで展開するのはなかなか厳しいと言えます。そこで、地域連携や外部人材の活用など、各校で工夫をしていく必要があるでしょう。

東京都では、昨年度までに各校でグランドデザインを策定し、学校としてどんな生徒を育てていきたいかを明確にしました。これを基にして3つのポリシーに置き換えていくことになると思いますが、地域や保護者、生徒に分かりやすく伝えていくことで、学校の魅力化、特色化の取り組みを打ち出していけるかが鍵だと考えます。

制約下でどうすればできるかを考える
――GIGAスクール構想によって小中学校では1人1台環境が実現します。高校のICT化の課題は何でしょうか。

進学校でありながら部活動も盛んな小金井北高校

高校のICT化や生徒1人1台環境の整備方針は都道府県によってかなり異なるとは思いますが、多くの高校がICTを利用したくても満足に活用できないのが現状ではないでしょうか。本校の場合も、校内のWi-Fi設備の工事はこれからですし、教員が授業で使える端末の数も十分ではありません。今の中学生が1人1台環境で学んでいるわけですから、高校も来年度からは1人1台を前提としなければいけません。1日も早い環境整備が求められます。それによって、授業での教え方や学び方が大きく変わるでしょう。加えて、ICTが入ることで教員の仕事が増えてしまうようなことがあってはならず、働き方の改善につなげていかなければ意味がありません。

緊急事態宣言によって、都立高校では現在、分散登校を実施しています。生徒によっては、家庭の事情でネット環境や端末が確保できないということもありますが、何とか対応しています。

一方で、全国の高校の中には昨年の一斉休校が終わった後は、対面授業をはじめ、通常の教育活動を行ってきたという学校が少なくありません。しかし、いつどの地域で新型コロナウイルスの感染が拡大し、オンライン授業で対応せざるを得なくなるか分からない状況です。その意味でも、高校におけるICT環境や教員の活用能力の違いなどで、オンライン授業への対応により、生徒の学習機会の格差につながらないようにすることが課題として突き付けられていると思います。

――2年目のコロナ禍で、部活動の大会や学校行事なども依然として制約を受けています。

緊急事態宣言によって、東京都では部活動は原則禁止ですが、全国につながる大会は開催できており、それに向けて部活動も感染防止対策を徹底した上で、最小限の範囲で認められています。昨年のように、練習も大会も全面的に何もできないという状況ではありません。

また、学校行事は全校規模のものはできませんが、何とか工夫してできることを考えています。例えば本校では、今年度の体育祭は学年ごとに分散して実施することにして、騎馬戦やムカデ競争などの感染リスクの高い種目はやめました。

部活動や学校行事が安全にできる状況を早く取り戻したいですが、今は制約のある環境の中で、知恵を絞りながらやっていくしかありません。

しかし、それは決して消極的な意味ではありません。昨年、本校のコーラス部の生徒が、星野源さんの曲『うちで踊ろう』をそれぞれに自宅で歌って収録し、編集して一つの合唱に仕上げたことがありました。それがなんと、星野さん本人が出演するラジオ番組で取り上げられたのです。

今、生徒はコロナ禍で大変な思いをしていますが、その分、どうやって工夫すればできるのかを必死に考えています。彼らのそうした姿勢を、とても誇らしく思います。

改革進む高校現場の声を拾い、しっかり届ける
――課題が山積みの中、これからの時代に求められる校長の役割とは何でしょうか。

これからの校長は、ますますリーダーシップを発揮して、学校としての方向性を明確に示さなければいけません。教員一人一人を知り、チームとしてまとめ上げていきながら、ビジョンを持って学校の特色や個性をどう出していくかが、学校運営において非常に大切になるでしょう。

全高長としても、そうしたいい学校の取り組みやいろいろな校長のアイデアを共有して、一緒に改革を進めていく、そんな相乗効果を出していければと思っています。

コロナ禍で総会などは対面で開けず、オンラインでの会議が増えましたが、できるだけ対面かそれに近い形での意見交換ができるようにしていきたいです。

一方で、オンラインが普及したことで、これまでは遠かったり、日程が合わなかったりして、研究協議会などに来られなかった人も参加しやすくなりました。これまでのやり方ではもしかしたら拾い切れていなかった高校現場の声も、こうしてICTを活用すればしっかり集められるようになるかもしれません。

まさに激動と言える2年間の任期を務めた萩原聡前会長の意思を引き継いで、私も改革が進む高校現場の声をしっかり届けていきたいと思います。

【プロフィール】

杉本悦郎(すぎもと・えつお) 1961年生まれ。早稲田大学卒業後、1984年度に東京都立松が谷高校で数学科教諭として教員人生をスタート。都立日比谷高校副校長、都立北園高校校長を経て、2019年度から都立小金井北高校校長。休日は生徒の部活動の試合をよく観戦していたが、コロナ禍で中止や無観客となったことで、応援に行けなくなったことが最近の悩み。

関連記事