「いかに学びを止めないかが何よりの課題」 全日中新会長に聞く

新学習指導要領が全面実施となり、節目の年度を迎えた中学校現場。全日本中学校長会(全日中)の新会長に就任した、東京都板橋区立中台中学校の宮澤一則校長は「昨年度以上に校長のリーダーシップが求められるだろう」と気を引き締める。コロナ禍の教育活動、GIGAスクール構想の推進など多くの課題にどう取り組むのか、方針を聞いた。

「学びを止めない」強い気持ちを
――コロナ禍の逆境にどう立ち向かいますか。

「昨年度以上に校長のリーダーシップが求められる」と語る宮澤校長

就任あいさつでも述べましたが、刻々と変わるコロナ禍でいかに学びを止めないかが、何よりの課題だと感じています。「学びの継続」や「学びの保障」とせず、あえて「学びを止めない」と表現しているのは、全国の校長の熱い思いを込めたからです。状態として継続させるだけではなく、一人一人の校長が「自分の学校の学びを止めないぞ」という強い気持ちを持ち、この制限下にある教育活動のかじを取っていただきたいと思います。

昨年度は一斉休校や学校行事の相次ぐ中止など、混乱の日々が続きました。3月の卒業式の答辞では、卒業生が「私たちの1年を返してほしい。このメンバーで学校生活を送ることは、もう二度とできない」と無念をにじませました。もちろん、私たち教師陣も胸が締め付けられる思いでした。昨年度、同じように悔しい思いをされた先生が多いと思います。

その無念を晴らすためにも、私たち教師は、今目の前にいる生徒の教育活動を全力で守らなければなりません。昨年度の反省や課題を洗い出し、知恵を出し合い、感染症と共に歩む新たな学校生活をつくりだす必要があるのです。

例えば昨年度は多くの学校で、修学旅行や体育祭、授業参観など、学校行事は軒並み中止になりました。今年度は生徒や教職員の健康を最優先にしつつ、さまざまな工夫を重ねながら、実現に向けて動きださなければなりません。これまで学校行事の時期や実施方法は、「こうあるべき」というルールにとらわれていました。しかし今年度からは各学校が裁量を持ち、時期をずらしたり、オンラインを活用したりとアイデアを駆使しながら検討していく必要があります。細かいことも含め、各校長に判断が委ねられる場面も増えるでしょう。昨年度以上に校長のリーダーシップが求められるだろうと、身の引き締まる思いです。

教師は学びの演出家
――今年度から、新学習指導要領が全面実施されました。

中学校教育は今まさに、大きな転換期だと受け止めています。昨年出された中教審答申「令和の日本型学校教育」にもあるように、新たな学習指導要領に基づく学びを着実に実施していかなければなりません。

これまでの学校教育では教師の指示に正しく従い、何でも平均的にこなせる子供が評価される傾向にありました。周りと違った意見を持つことや、個性を主張することについては、ほとんど重要視されなかったばかりか、どちらかと言えば否定的に捉えられていたように思います。

一方、これからの中学校教育は、生徒の主体性を伸ばすことが求められます。中学校の学びを通して、子供たちが自分の考えを持ち、それを主張できる力を鍛えなければいけないのです。そのためには学校の中で生徒自身が「やりたいことは何だろう」「ほしい物はなんだろう」と、自分の内面と向き合い、考える機会や時間を十分に与えることが必要でしょう。

――具体的にどのような実践が有効でしょうか。

例えば当校では「目安箱」を設置し、生徒が学校生活の要望やアイデアを自由に投函できる仕組みがあります。声が多かったものや、面白いものについては生徒会主導で教職員にプレゼンし、実現させています。

先日は生徒から、「ドローンを使ってみたい」という要望がありました。「面白そうだね、ドローンを使ってどんなことをしたいか、企画書をまとめてごらん」と伝えると、さっそくプレゼンしてくれました。ドローンを使って学校紹介のビデオを撮影したり、体育のハードル走で並走しながら撮影して学習に活用したりなど、ユニークなアイデアが次々に出てきたのです。

結果、当校ではドローンを購入することになりました。まずは生徒会で操作法をマスターして、その後、全生徒にレクチャーする予定です。

他にも昨年度は3Dプリンターを整備して、学習に生かしています。例えば世界史の教員がネアンデルタール人やアウストラロピテクスの頭蓋骨版をつくり、生徒に触らせました。「人類は進化するごとに、頭全体が大きくなった」などと、生徒たちが夢中になって、学びを体感している姿が印象的でした。

生徒と共に3Dプリンターで制作した、宮澤校長の顔のオブジェ

こういった機器はどうしても高価で、公立校では手が出せないというイメージがあるかもしれません。ですが実際調べてみると、そんなことはないのです。もちろん機器だけではありません。授業実践や学校行事などあらゆる教育活動に対して、「こんなことできるはずない」と最初から決めつけてしまうのは、あまりにももったいなさすぎます。

私は、教師は学びの演出家だと思っています。AIが台頭するこれからの社会では、感性を磨くことが必要です。教師はとにかく子供たちにいろいろな体験をさせて、子供自身が感じ、それを消化して、学びにつなげることが求められているように思います。

子供の人生を変え得る重責と対峙する
――今年度から1人1台端末も本格始動しています。

板橋区は、端末の配布は終えましたが、校内の通信環境が完全に整備されて全生徒が一同に利用できるのは9月になる見込みです。それまでは家庭学習に活用したり、一部の授業で使ったりなどの運用にとどまっています。

端末の活用状況を巡っては全国各地で相当なばらつきがあり、深刻に受け止めています。特に自治体の経済力格差が浮き彫りとなり、一部の地域ではかなりおぼつかない状況だと漏れ聞きます。導入期を何とか乗り越えたとしても、これから本格導入されるデジタル教科書や通信費などの維持費といった課題が待ち構えています。予算の問題で、活用できないと音を上げる自治体が出てきてもおかしくない状況です。

全日中として、文科省は端末を整備しっぱなしではなく、継続してフォローしてほしいと強く訴えていかなければなりません。

――教師という職業について、どう捉えていますか。

私が教師になったきっかけは、中学生時代に親友が白血病で亡くなったことでした。亡くなる少し前、お見舞いにいくと「今年は無理そうだから、来年こそ高校受験する。だから勉強を教えてくれよ」と、彼に声を掛けられました。しかし残念ながらそのすぐ後に、彼は亡くなったのです。

その頃から漠然と、子供を助けたり、応援できたりする仕事に就きたいと思うようになり今に至ります。

36年の教師人生で、さまざまな事情や背景を抱えた子供と関わってきました。学校や教師という立場ではできることの限界があることや、あれで正しかったのだろうかと自問自答することも、正直あります。教師という職業に誇りを持つ一方で、子供の人生を変えてしまえるのだと常に重責を感じています。

しかしそのプレッシャーに負けそうになった時は、中学生時代に抱いた「子供を助けて、応援したい」という気持ちを思い出し、ここまで駆け抜けてきました。

横のつながりで、難局に挑む
――全国の中学校現場にメッセ―ジをお願いします。

こんな時だからこそ、皆さんの力を結集して乗り越えていきましょうと改めてお伝えしたいです。

そのために会長として、全日中をさらに風通しのよい組織にしたいと思っています。全国の中学校現場が抱える悩みや、やってみたいことを各自治体の校長会などを通して、どんどん拾い上げていきたいです。

三田村裕前会長には、副校長会の設置をはじめ、縦のつながりを強固にしていただきました。それを引き継ぎ、さらに発展させるために、全国の校長会はもちろん全連小や全高長などの組織ともしっかり連携して、横のつながりを広げていきたいと考えています。

【プロフィール】

宮澤一則(みやざわ・かずのり) 1961年生まれ。東京都出身。筑波大学第2学群生物学類卒。東京都北区立豊島中で教職生活をスタート。東京都福祉局総務部総務課広報係課務担当係長、板橋区立志村第一小学校校長など中学校以外でもキャリアを積んできた。その他、足立区教委教育指導室室長などを経て現職。今読んでいる本は『自分の頭で考える日本の論点』(出口治明著、幻冬舎)。

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