【GIGA到来】へき地の学校から先進事例 玉井副学長が調査

離島や山間部などのへき地にある小規模校で、学校の垣根を超えた遠隔合同授業など、ICTを活用した新たな教育への挑戦が日々行われている。もとは小規模校の「関係の固定性」など、デメリットを解消するための手段だったが、他校の教員の授業を見ることでICTの活用方法を身に付ける「研修」状態が日常化し、教員のスキルアップが起きるなど、どこの学校にとっても参考になりそうな先進事例が生まれてきた。へき地の学校でのICT活用事例と、そこで働く教員のスキルに関する調査報告書をまとめた北海道教育大学の玉井康之副学長に話を聞いた。

他校との合同授業で教員の「研修」が日常化
――へき地の学校のICT活用状況は。

へき地の小規模校でのICT活用について研究する北海道教育大の玉井副学長(Zoomで取材)

へき地の小規模校でしばしば指摘されるのは、同じメンバーで長期間を過ごすという関係の固定性です。それ以外の人々とコミュニケーションをとったり、人間関係を作ったりしにくいと言われてきましたが、ICTを使ってこうした課題を克服しようとしたことで、逆に全国の最先端を行く水準のICT活用の事例が生まれています。

今回、私たちの調査で取り上げた鹿児島県徳之島町は、奄美群島の徳之島にある町で、最も大きい母間(ぼま)小学校でも全校児童数は43人です。徳之島町では近隣の学校をオンラインでつなぎ、毎週のように遠隔合同授業を実施しています。授業では、マイクロソフトの授業支援システム「チームズ」やウェブ会議システム「Zoom」を使って、他校の児童とグループワークを行うこともあります。

ICTはとりわけ探究学習で大きな役割を担っているようです。Zoomを使えば、他校の生徒でもまるで隣にいるような感覚で、しっかり顔を見ながら議論ができます。また「ロイロノート・スクール」などのクラウドによる授業支援システムを使って、教員が課題を指示し、各校の子供が作業して提出するなどの学びのスタイルもできています。
各学校では普段からインターネットで他の学校をつないでいて、子供たちが「そっちの学校、どう?」と話し掛けられるような環境にあります。それが、合同授業でも抵抗なく発言できる関係づくりや、他校の子供と競い合って学ぶ姿勢につながっています。

――指導する教員は、もともとICTが得意だったのですか。

それが「ICTが得意な教員を集めてきた」といったことは全くないようです。個々の学校に赴任した後に、先輩・後輩の関係の中で教えたり、学んだりしていくということでした。また「他校との遠隔双方向授業を行わないといけないから、そのために勉強する」という側面もあるようです。

特徴的なのは遠隔合同授業を通して、他校の学校の先生の授業を普段から見られる環境があるために、一種の「研修」を日常的に行っているような環境ができ、教員の力量がどんどん上がっていくということです。

若手の教員にとっては、小規模校は一人一人の子供に目が届きやすく、授業を覚えたり工夫したりといったスキルを伸ばしやすいのですが、ある年齢になると慣れてしまって自己研修ができなくなることもあります。それが遠隔合同授業を行うようになると、他校の教員の授業を日常的に見ることができるし、また自分も他校の教員から見られているという緊張感が出て、授業改善の工夫をどんどん進めていくようになるようです。

管理職などのベテラン教員も若い教員からICTの活用法を学んでいます。お互いに学び合う関係があれば、年齢や役職に関係なく、学校でのICT活用は進んでいくでしょう。

関係の固定性をICT活用でカバー
――へき地の事例から学べることは。

コロナ禍で急激に少子化が進行し、2030年には1学年1学級になる学校も数多く出てきます。小学校から高校まで、同じ顔触れの同級生と過ごすことも珍しくなくなるかもしれません。そうなると馴れ合いになり、あまりきちんと説明しなくても以心伝心でつながれてしまう。小規模校の難点である関係の固定性が、全国的な課題になる可能性は否めません。

子供たちの「生きる力」を育むためには、初めて出会う人と交流する社会性、コミュニケーション能力も非常に大切です。子供の数が減少していき、固定化が進む環境の中でも、ICTを使って地域を超えた交流学習ができれば、子供の可能性が大きく広がると思います。

またGIGAスクール構想が本格的に始まり、今後は単元に応じたデジタル教材が発達してくるでしょう。そうするとおそらく自学自習のスタイルが発展して、教員がいなくても学習するようになり、「まだ習っていません」と言わずに自分で考えて行動するという習慣ができてくると思います。これも次世代の「生きる力」には欠かせない側面です。
へき地では複数の学年が一つの学級で学ぶ複式学級も多く、教員が別の学年を指導している間、子供同士で学び合う間接指導をすることがあります。端末で検索して資料を集め、自分なりに論理立てて整理するといった課題も行っているため、自分で学ぶ習慣も身に付いています。子供たちが将来にわたり、学び続ける姿勢を身に付ける上では重要なポイントです。

――一人一人の端末に目が届くのは、少人数ならではの利点です。大人数では難しいこともあるのでは。

正直なところ、少人数の方が一人一人に目が届くので、ICT教育を進めやすい面はあります。教室に30人、40人といたら、1人の端末がフリーズして置いていかれてしまうこともあるでしょう。また後方の席の子供が、授業と関係ないウェブサイトを見てしまうこともあります。人数が少なければ子供の横に立つだけで全てが見られるのですが、30人、40人になるとそうはいかない。

その場合に有効なのは、子供の端末の画面を映し出すことのできるディスプレーを一定程度、取り入れることです。10人分ぐらいずつディスプレーに映し出して、お互いが何をしているかを全員で見ることができるようになると、それを見ながらの議論や、学び合う授業が進めやすくなります。これまで「前に出てきて、黒板に書いてごらん」とやっていた時間がなくなるので、授業時間の節約にもつながります。

――GIGAスクール構想の今後をどう見ますか。

端末やソフトを使いこなすのは教員ですから、これから最も大事になるのは教員の研修です。へき地の学校は、教員や子供が少ないという課題を克服するために、やむにやまれず遠隔合同授業で交流をしていましたが、結果的にはこのことが、日々の授業を通してある種の「研修」ができるというメリットにつながりました。
ただそれ以外の地域では、研修や授業公開の機会を除けば、互いの授業を見ることは難しいのが現状です。この春からGIGAスクール構想が本格的に始動していますが、まとまった研修の時間が取れる夏休みまでは、時間的に厳しいだろうと見ています。

授業時間中、端末をずっと使っているという授業はおそらく多くないでしょうから、今後は授業のどの場面で、どのようにICTを使うかというところが課題になるでしょう。発問やグループワークなど、どの場面でICTを使い、どの場面で紙のノートを使うのか。端末を使わず、対面で子供とやり取りするほうが効果的な場面はどこか、といったことを、今後は考えていくことになると思います。

そのためには、やはり互いの授業を見るような研修がものすごく重要になります。教育委員会が音頭を取って、教員の力量アップを後押ししていく必要があるでしょう。

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