ウェルビーイング重視、学習者主体に 第12次提言の要点

ポストコロナ期における新たな学びの在り方を検討してきた、政府の教育再生実行会議が6月3日にまとめた第12次提言では、ニューノーマルにおける教育の姿として、一人一人の多様な幸せと社会全体の幸せ(ウェルビーイング)の実現を目指し、学習者主体の教育に転換していく構想を描いた。また、データに基づく現状把握や政策の効果検証がこれまで十分ではなかった面があるとして、「データ駆動型の教育への転換」を掲げた。第12次提言のポイントを整理する。

コロナ禍で再認識された「ウェルビーイング」

提言では冒頭、従来認識されながら解決されなかったさまざまな課題が、コロナ禍を機に明らかになったと指摘している。とりわけ「これまで日本の子供たちは幸福度・自己肯定感や当事者意識が低いと指摘されてきた」として、子供たちに限らず大人も含めた社会全体で、こうした意識を高めていく必要性を強調している。

また、過度な横並び意識を排していかに一人一人の自律と、社会における多様性を高めていくか、想定外の事象と向き合い対応する力や、不透明な未来を切り開く力を身に付けていくかといった点を、コロナ禍に改めて考えるべき課題として挙げている。

教育再生実行会議では、こうした課題を解決していくため、「一人一人の多様な幸せであるとともに社会全体の幸せでもあるウェルビーイングの理念の実現を目指すことが重要」と結論付けた。

ウェルビーイングの実現は、OECDが2019年に「学びの羅針盤(Learning Compass)2030」で目指したもので、経済的要因だけでなく教育、安全、生活の満足度のような生活の質(QOL)の要因なども関与するとされている。子供は自分自身のウェルビーイングを求めるだけでなく、仲間、家族、コミュニティー、地球のウェルビーイングにも配慮するように学ぶことが期待されている。

また、子供たちが社会を変革していくため自ら主体的に目標を設定し、振り返りながら責任ある行動が取れる力を「生徒のエージェンシー」として重視している。これは学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」に通じる部分もある。

これを踏まえ、提言では「わが国の教育を学習者主体の視点に転換していく必要がある」として、教員に対し、「学習者主体の視点へ転換をするという意識改革」を呼び掛ける。ウェルビーイングが実現する「多様性と包摂性のある持続可能な社会」を目指して、「一人一人が自分の身近なことから他者のことや社会のさまざまな問題に至るまで関心を寄せ、社会を構成する当事者として自ら主体的に考え、責任ある行動をとる」ことを求めている。

教育再生実行会議の第12次提言のポイント

学びの多様化と教育格差への対応

学習者主体の視点に転換する上で、提言では今年1月の中教審答申で示されたように「個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実することを通して、児童生徒の主体的・対話的で深い学びを実現できるよう、教師が授業の改善をしていくことが必要。当事者意識を持って、意見の対立やジレンマをどう解決していくかといった視点も重視」としている。

提言では「ICTの活用が効果的」と指摘し、「子供たちが主体的にICTを『文房具』として活用したり、電子書籍を含む多様な資料を選択・活用したりできるようにして、学びのスタイルを転換していくことも大切。また、こうした主体的な学びを通じて育成される資質・能力が、緊急時の円滑な学びの継続・保障にもつながる」と記している。

教員に対しては、「子供同士の議論をファシリテートする力やICT活用指導力がこれまで以上に重要になっていく」という点を自覚することや、「教師が全ての業務を行うという発想から、校長の下で多用なスタッフが専門性を生かしつつ共同して学校を運営することへの転換が必要」と述べている。

さらに、学習者主体の観点から「学年・学校段階を超えた学びや、高校教育と大学教育との円滑な連携・接続の観点からの大学教育の先取り履修など、学びの多様化を推進する必要がある」と指摘している。

ただし、個別最適な学びが教育格差につながらないよう、協働的な学びとうまく組み合わせることを重視。内閣官房教育再生実行会議担当室の池田貴城(たかくに)室長は「(子供同士の)議論の中で、学習の進んでいる子が教えてあげることもあるし、逆に学習が遅れがちな子の思わぬ一言で、他の子が気付かされることもある」と、実際の授業でのイメージを示す。

一律の9月入学でなく、入学時期を多様化

昨年度のコロナ禍による一斉休校では、学習の遅れに対する懸念から9月入学への移行が議論されたが、今回の第12次提言では「入学時期を一律に4月から秋季に変更するのではなく、入学・卒業時期の多様化・柔軟化を進めていくことが重要である」と結論付けた。

一律の9月入学への移行については議論の過程で、移行期の児童生徒の就学・卒業年齢が国際的に見て遅くなること、未就学の子供たちが小学校に入学する際、学年が分断されること、移行期間中の児童生徒数の増加やこれに対応するために必要な教師・施設の確保、秋季の入学・卒業を前提としている社会生活のさまざまな面や行事への影響などの課題が示されている。

そのため「初等中等教育段階の学校を秋季入学へ移行させることとした場合、国民生活や社会全般に大きな影響を及ぼす」として、まずは大学で入学・卒業時期の多様化・柔軟化を進めることを提言。大学に対して多様な履修モデルの提供や、入学者選抜の方法、授業料の設定・徴収の在り方などを検討するよう求めた。

また「大学への飛び入学の制度は、高校卒業資格が得られないという現行制度の隘路(あいろ)については、早急に制度を改善する必要がある」とした。具体的には、国が「飛び入学した大学での一定の単位の修得状況をもとに、高校の3年間の課程を修了した者と『同等以上の学力』を有することを文科相が認定し、高校卒業資格を付与する制度を創設する」と提言した。

データに基づく現状把握・政策立案へ

提言全体を通じて掲げられているのは「データ駆動型教育への転換」だ。「各種のデータを効果的・効率的に取得し、学術的な知見を踏まえ分析するとともに、これらの結果を活用して効果的な政策を立案・実施していくことが強く求められる」として、児童生徒や教員、学校などに関するデータの利活用を推進。また、提言内容が確実に実行されるため「提言内容の取り組み状況を確認するフォローアップを実施する必要がある」と指摘している。

教育政策の効果はテストの点数に現れる学力だけでなく、多面的な観点から分析する必要があることや、効果が得られるまでに時間を要する場合もあることに留意する必要があるとしつつ、「数値化が難しい側面についても、可能な限り情報を収集・分析し、総合的に判断して取り組むことが求められる」と述べている。

その上で、データのひも付けや長期的な縦断調査などを通じたデータによる政策立案、ユニバーサルIDや認証基盤の検討などの基盤の整備、調査・分析・研究体制の強化といった改革を進めるべきだとした。

初等中等教育ワーキンググループ(WG)の議論の過程では、WG有識者の松岡亮二・早稲田大学留学センター准教授が、現状の教育政策について「データを取らずに、こういう実践がよい、こういう時代だからこういう改革をやろう、で、実践と政策を変更するわけだが、効果検証が計画されていないし実施もされないので、結局どうなったか分からない」と問題視し、「データを取るべき。研究に基づいた議論をすべき」と訴える場面もあった。

こうした考え方に基づき、例えば少人数学級については「多面的な観点から検証を行う」と記すにとどめ、今年度から始まっている小学校での35人学級をさらに少人数化する、中学校にも拡大する、といった方向性にまでは踏み込まなかった。

池田室長は「少人数学級を進めようという(有識者の)意見もあったが、厳しい財政事情のもとで、そんなに簡単に教育予算が増えるわけではない。同じ予算を、より効果のある政策に投入した方がよいという意見があった。今後5年間でまずはエビデンスを集めて、より効果的なものを5年後に進めましょう、ということだ」と、背景を説明した。

「例えば学級はそのままで、教科担任制によって(教育内容を)充実する、学習集団を教科によって少人数にする、常に同じ学級で授業を受けるのではなく科目によって習熟度別にするなど、いろいろな手がある。よくよく検証をして、より有効なものからやっていくべきではないか」という考え方を示した。

関連記事