池田小事件から20年、祈りと誓いの集い 教訓の継承課題に

今日6月8日、大阪教育大学附属池田小学校に刃物を持った男が侵入し、児童8人の命を奪った「池田小事件」の発生から20年となった。同小では、児童や教職員ら約650人が出席して「祈りと誓いの集い」が開かれた。学校安全の在り方が根底から問い直された同事件。全国の学校現場でいかに教訓を継承し、防犯意識を高めていくかが課題となっている。

附属池田小で行われている不審者対応訓練(同小HPより)

「私を含め教職員は、自分の学校でありながら何が起こっているのか十分に理解することができなかったため、迅速な対応や組織的な対応ができませんでした。次々に伝わる被害の大きさにぼうぜんとするしかありませんでした。当時は『学校は安全なところである』という根拠のない思い込みにより、不審者侵入に対する想定ができていませんでした」

「祈りと誓いの集い」で20年前のこの日も同校の教員として勤務していた眞田巧校長は事件をそう振り返り、2度と子供の命が理不尽に奪われることのない、安全な学校づくりに向けた思いを新たにした。

事件後、同校は最新の安全対策が施された校舎に建て替えられ、独自教科である「安全科」の取り組みをはじめ、日本の学校の安全教育をリードする実践研究が行われるようになった。

「祈りと誓いの集い」で6年生の代表児童は「私たちは20年前の6月8日に起きたあの悲しい事件について知り、考えました。そして、一人一人かけがえのない命だからこそ、みんなで協力し、助け合うことで、全ての命が守られるような世の中になっていかなければならないと思いました。みんなと協力し、助け合っていくためには、毎日の生活から他の人に対して思いやりの気持ちを忘れずに接していくことが大切です。あの事件のように、つらい思いをする人がもう二度と起こらない社会を作るために、この事件のことをいつまでも語り伝え続けたいです。そして、亡くなった8人のみなさんの分まで精一杯生きていきたいと思います」と呼び掛けた。

毎月8日を同校では「安全の日」と定め、教職員による施設の安全点検を定期的に実施しているほか、年に5回ほど、実際に不審者が侵入した場合を想定した教職員による本格的な防犯訓練を実施しているという。

しかし、それでも教職員の入れ替わりによって、学校安全の重要性に対する切実さが薄れてしまうことが課題となっていた。そこで同校は昨年、「学校安全の手引き」の大きな改訂を行い、冒頭に事件発生時の教職員の動きや防犯体制の問題点、再開に向けた子供たちの心のケアなど、「あの日何が起こり、そして何が問題だったのか」をいつでも共有できるようにした。

池田小事件の後も、学校だけでなく登下校中の子供を狙った凶悪な事件はたびたび発生している。特に、一昨年に川崎市多摩区で起きた、私立カリタス小学校のスクールバスを待っていた児童と保護者が犠牲となった事件は記憶に新しい。現在、中教審の学校安全部会では第3次学校安全推進計画の策定に向けた議論がスタートしており、池田小事件をはじめとするこれらの事件の教訓が、全国の学校の防犯体制づくりに改めてどのような形で反映されるかが注目される。

6月8日の閣議後会見で萩生田光一文科相は、池田小事件から20年にあたっての学校安全の施策について問われ、「子供たちが学校で安心して活動し、安心して学べるようにするには、その前提として、学校での安全を十分確保することが不可欠」とした上で、「文科省としてもこうした過去の事件を教訓として、子供の安全確保に関し、関係機関や教育委員会などと連携しながら対応の取り組みを行っていきたい」と強調した。

眞田校長の言葉は次の通り。

今から20年前の平成13年6月8日、この時間に不審者の侵入を防ぐことができずに、8人の児童の尊い命が奪われ、13人の児童と、2人の教員が傷つけられるという大変悲しくつらい事件が起こりました。

この場所では、子供たちが恐怖におびえながら逃げ回りました。たくさんの緊急車両が並びました。上空には、たくさんのヘリコプターが飛んでいました。子供たちを心配するたくさんの保護者の方が駆けつけてこられました。運動場で待機する子供たちは、不安におびえていました。私を含め教職員は、自分の学校でありながら何が起こっているのか十分に理解することができなかったため、迅速な対応や組織的な対応ができませんでした。次々に伝わる被害の大きさにぼうぜんとするしかありませんでした。当時は「学校は安全なところである」という根拠のない思い込みにより、不審者侵入に対する想定ができていませんでした。

あのときから20年の年月が過ぎました。現在の学校は、安全に配慮され設備が整った校舎で子供たちは学ぶことができています。教職員は、当時の教職員の思いを受け継ぎ、学校安全の取り組みを進めています。8家族の皆様、本校保護者、地域の方々をはじめ、本校に関わってくださる多くの方々が、本校の教育活動を見守り、支えてくださっています。20年という年月の中で、一日一日の取り組みが積み重なり、一年一年の取り組みが積み重なり現在にたどり着きました。

児童は、校長室の8人の写真に会いに来てくれます。中には、絵や折り紙で作った作品を置いてくれます。6年生は花壇の植え替えの際やこの「祈りと誓いの塔」の前などで1年生にやさしく語りかけてくれます。事件後の取り組みを示したパネルを熱心に見入る児童の姿も見ることができました。安全科の授業の中では、学校の安全設備について真剣なまなざしで質問してくる児童もいます。

教職員は、事件当時の教職員の思いや願いに寄り添おうとし、本校のみならず、現在の全国の学校を取り巻く安全の課題に注目し、今、自分たちができうる学校の安全対策について熱心に語り合い、設備に頼ることのない不審者対応訓練の在り方や安全科の授業の充実にも力を注いでくれています。

本校保護者をはじめ、地域の方々や関係機関の方々は、本校の教育活動が安全で安心な環境で進めることができるよう、見守り活動や重要なアドバイスをさまざまな場面で寄せてくださっています。ときには厳しいご意見もいただきますが、それをもとに本校の教育活動を見直す機会とさせていただいております。

このような取り組みを続ける中で、20年の年月が経ちましたが、この節目がゴールではありません。学校安全の取り組みを進める次のステップに向かう通過点にすぎないのです。学校の安全を保障する近道はありません。これまでのような地道な取り組みを継続していくことが大切であると考えています。

しかしながら、子供が巻き込まれる悲しい事件が今もなお続いていることは残念であり、無力さを感じることもあります。しかし、あきらめては、これまでの取り組みが生かされなくなります。本校としては、これまでの地道な取り組みを継続するとともに、近隣の学校のみならず、全国の学校と手をたずさえて、それぞれの経験や知見を情報交換し、安全管理の徹底と、教育の力によって、人を傷つける側の人間ではなく、自他の命を大切にし、人を守る側、支える側の人間を育てることを目指していきます。そして、学校だけでなく、学校に関わるあらゆる方々と知恵を出し合い、目の前の子供が笑顔で元気に過ごせる学校生活を保障するために前を向いて取り組んでいきます。

さて、今年も、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、教育活動に制限がある中での今日を迎えています。本来なら、これまでの本校の学校安全の取り組みを支え、見守ってくださった方々にご参加いただき、本校保護者も参加しての集いを開催すべきところですが、感染拡大防止のため本日のような形での開催となりました。本来あるべき姿の集いが今年も実施できないことが本当に残念に思うとともに申し訳なく思っております。

最後になります。事件で亡くなられた8人のみなさん、みなさんが大好きだったこの附属池田小学校は、引き続き、日本中の学校と、さらには世界中の学校と手をたずさえ、学校が安全で安心して学べる場所であるようにこれからも努力を続けます。

この場所にいる大人は、決して事件を風化させることなく、目の前にある「祈りと誓いの塔」が建てられたその深い思いを受け継いでいけるよう、努力を続けていきます。

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