ウェルビーイングのための働き方改革 澤田真由美氏に聞く

学校の「ウェルビーイング」を実現していくためには、長時間労働をはじめとする働き方改革や業務改善が欠かせない。教育界のキーパーソンやイノベーターらに「ウェルビーイングとは何か」を聞くシリーズの第3回は、元小学校教諭で現在は学校専門のワーク・ライフ・バランスコンサルタントとして、数多くの学校改革のサポートを行っている澤田真由美氏に質問。澤田氏は学校や教員の現状について「いろいろなことを諦めすぎている」といい、ウェルビーイングを実現するためにも「小さなことでいいから、自分の可能性を感じられるような成功体験を積んでほしい」と語る。

「本当にいいと思ったこと」が試せているか
――ウェルビーイングという言葉が注目されていますが、その定義をどのように捉えていますか。

ズバリ「幸せ」に置き換えていいと思います。「幸せ」には、まず自由であるということ、そして一人一人が可能性を発揮しているということ、この2つが欠かせない要素だと思っています。

「自由=やりたいことをやっていいこと」だとすると、「可能性=やりたいことができると感じること」です。これがそろっていると、人生のハンドリングを自分自身ができていて、豊かで幸せだと感じられます。

「本当にいいと思ったことが試せる学校になって欲しい」と話す澤田氏

――これからの学校教育に必要なウェルビーイングについて、どう考えていますか。

社会を幸せにできる人を育てる教育を行うことで、子供、先生、学校組織、どれもが幸せである状態が、学校のウェルビーイングだと思います。

皆さんの学校は、先生たちが目の前の子供たちにとって「本当にいいと思ったこと」が、試せる学校でしょうか。現状は、時間的に余裕がないとか、横並び意識が強いとか、教育委員会や保護者から何か言われるからやめておこうといった理由で、「本当にいいと思ったこと」が選べなくなっていたり、試せなくなっていたりする学校があまりにも多いと感じています。

「どうせ無理だ」「どうせ変えられない」と、「諦めモード」「無駄な労力を使いたくないモード」に入ってしまっている学校や先生たちが一歩を踏み出すために、小さくてもいいので「可能性を感じられる」体験が必要だと考えています。

「自分も身近な社会を変えていける」体験を
――実現するためには、具体的にどのようなことが必要でしょうか。

例えば、昨年、業務改善のサポートで入った学校では、まず会議の長さをなんとかしたいと思っていました。しかし、当初は「どうせ変えられるわけがない」と諦めている先生が大半を占めていました。

ところが「このままでは3時間を超える会議になってしまう」と業務改善プロジェクトのメンバーが話して回ると、「それだったらうちは10分でいいよ」などと次々に声が上がりました。そして、実際に会議が始まると各チームが申告した時間内に収めようとするので、要点を意識して話すなど、会議自体のレベルも上がって予定時間より30分も早く終わったのです。

これには、みんなで顔を見合わせて「できた!」と喜び合いました。それがきっかけで、この学校では「他にもアイデアを出してみようか」と機運が高まっていきました。

学校全体の業務改善のリーダーをしていたベテランの先生は、これまで業務改善とは個人の努力で時短するべきことであって、学校全体でできることなんてないから、考えることすら無駄だと思っていたそうです。しかし、この出来事から「個人の努力と、学校全体の努力は両輪だ」ということに気付いて、考え方が180度変わったそうです。

これが「可能性を感じられる」ということです。「可能性」という言葉を知っているのではなくて、「自分たちにも身近な社会を変えていける」という体験をすること、これがウェルビーイングの実現に必要なのです。

また、「一人一人の教員が大事にしたいことは違う」ことを認め合っている学校ほど、幸せそうです。もちろん、学校組織として目指す方向性や、何にリソースを割くのかということは、統一されるべきでしょう。しかし、細かいところはそれぞれの先生のやり方があります。それが尊重されている学校は、幸せそうだし、総じて帰る時間も早いです。

ある先生が「お互いが違っていい」と認めてなかった前任校では、仕事の際限が無かったと言っていました。自分はここまででいいと思っているけれども、ここでやめてしまったら、他の先生から指摘されるかもしれない——。そう思うと、恐れからどんどん仕事を増やして、遅くまで帰れなかったそうです。

それが、現任校では「自分はここまででいいと思っているからやめられるし、あの先生はあそこをこだわっているから頑張っているんだな」と、お互いの仕事を尊重し合えているそうです。

こうした環境をつくるには、管理職からの発信が必要です。お互いを認め合えるような対話の場づくりに、ぜひ取り組んでみてください。

先生が幸せになることは、必ず子供たちの幸せにつながる
――教師のウェルビーイングについて、どうお考えですか。

教師のウェルビーイングにつながることを4つ上げるとすると、まずは、仕事でやりがいを感じられること。次に、仕事でチーム力を感じられること。そして、時間と心のゆとりがあること。最後に、私生活でリラックスでき、インプットができることです。

多くの先生は、日々の業務に追われていて、目の前の水面だけを見てボートをこいでいるような状態です。ずっと同じところをぐるぐる回っていないでしょうか? いったん、手を止めて「目的地はどこだっけ?」「今の波に乗っていていいのかな?」「風向きはどうかな?」と考えてみる時間が、日々の業務の質を上げ、自分自身を元気にします。それが圧倒的に足りてないと思います。

私が関わる先生たちからは「自分たちが幸せになっていいんですか?」と、良く聞かれます。先生たち自身が幸せになることは、必ず子供たちの幸せにつながります。だから、安心して自分たちを幸せにしてほしいと思います。大人が幸せな姿を見せられることは、何よりの教育だと思いませんか。

――いま、学校現場に伝えたいことは。

防災対策において「自助」「共助」「公助」という考え方があります。学校を幸せにするためにも、「個人でできること」「学校組織としてできること」「教育委員会や国ができること」と、それぞれの裁量でできることがあるので、そのように分けて考えてみてほしいと思います。

私が業務改善で学校に入るときには、なるべく多くの教職員に集まってもらって、「こうなったらいいのにな」というアイデア出しのワークショップをやります。そして、そこで出てきたたくさんのアイデアを、まず「自助」「共助」「公助」に整理してみるのです。

そうして「自分ができる範囲では何があるんだろう?」と見てみると、案外たくさんあることに気付きます。それに気付けたら、自分の可能性を感じることができます。そして、まず「自助」の範囲のアイデアをなんとかしてみましょう。小さくてもいいので成功体験が積めたら、もう一つ上の「共助」の範囲に働き掛けてみるなど、さらに新しいことにチャレンジできるようになると思います。

【プロフィール】
澤田真由美(さわだ・まゆみ) 1981年生まれ。 青山学院大学卒業後、東京都と大阪府の小学校教員として勤務。教師として悩みぬいた自身の経験から、幸せな先生・大人を増やしたいと、2015年4月に独立し(同)先生の幸せ研究所を設立。学校専門ワーク・ライフ・バランスコンサルタントとして、全国の学校や教育委員会で働き方改革と組織開発をサポートしている。校内コンサルタント養成講座なども開催。私生活では一児の母。著書に『「幸せ先生」×「お疲れ先生」の習慣』(明治図書)、『人生が変わる!先生のための仕事革命ワークブック』(学陽書房)。

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