共通テストの記述式と英語4技能「困難」 検討会議提言案

文科省の「大学入試のあり方に関する検討会議」(座長・三島良直日本医療研究開発機構理事長)は6月22日、2025年の大学入学共通テストでの英語4技能試験と記述式問題の実施について、いずれも「実現は困難であると言わざるを得ない」とする提言案を示し、導入は断念される見通しとなった。最終的な提言を受けて文科省が今年夏に正式に決定する。また、会議の中では19年に導入を見送った経緯について「反省や教訓が受け継がれるべきであることを記載すべき」との意見が相次ぎ、最終的に提言にどう盛り込むか調整されることになった。

同会議は、当初、今年1月の共通テストで予定されていた英語4技能を測る民間試験の活用や、国語・数学の記述式問題の導入が見送られたことを受けて19年12月、英語4技能の評価と記述式問題の出題を含めた大学入試の在り方を改めて検討するため文科相の下に設置され、議論を重ねてきた。

22日は、これまでの26回に及ぶ議論を踏まえて三島座長を中心にまとめた提言の原案が示され、川嶋太津夫座長代理(大阪大学高等教育・入試研究開発センター長)が内容を説明した。この中で記述式問題については、50万人以上が同日・同時刻に受験し、短期間で成績を各大学に提供しなければならない共通テストへの導入に一定の意義はあるものの、採点者の確保や正確な採点など採点精度の問題の克服は容易ではなく、「その実現は困難であると言わざるを得ない」と明記した。

また、英語4技能試験についても、共通テストでのスピーキングテスト、ライティングテストは、質の高い採点者の確保や正確な採点の担保等、記述式問題の採点と同様の問題や面接官・試験室の確保などの実施上の課題が生じるため、「その実現は、技術の飛躍的進展等がない限り困難であると言わざるを得ない」と記した。

この提言案の取り扱いに対する目立った異論はなく、25年の共通テストへの導入は断念される見通しとなった。

また、提言案ではこのほか、「地理的・経済的事情・障害のある受験者への合理的配慮等への対応」の章を設け、こうした事情のある志願者のための特別選抜は、実質的な公平性の追求や多様性を生かすキャンパスの実現の観点から意義が大きいとして、国に模範となる取り組みを促進する方策を講じることなどを求めている。また、入学時の納付金の負担が困難な学生に対して、納付時期の猶予や減額などの柔軟な配慮を積極的に講じ、募集要項に記述するよう国から各大学に求めるなど、受験から入学にいたるプロセスへの支援も必要だと指摘した。

提言案に対し、各委員からは文言の修正や追加を求める意見が出されたほか、19年に英語4技能試験と記述式問題の導入が見送られた経緯について、より明確に記述するよう求める意見が相次いだ。

末冨芳委員(日本大学文理学部教授)は「ずさんな意思決定で、多くの志願者や教職員に多大な混乱を引き起こしたことを、重く受け止めるべき。反省と教訓が受け継がれるのを記載することで、信頼できる教育政策の構築につながると思う」と指摘した。また、芝井敬司委員(関西大学理事長)も「大きな失敗で受験生の信頼を失ったことは明記して、今後、他の審議会や有識者会議も含めて、省として出直してしっかり対応することを掲げるべきだと思う」と述べた、検討会議は22日に各委員から出された意見を踏まえて提言案を修正し、次回会合での提言の取りまとめを目指す。

大学入試のあり方に関する検討会議提言(原案)の主な内容(一部抜粋)
第1章 大学入学者選抜のあり方と改善の方向性
1.大学入学者選抜に求められる原則

大学入学者選抜のあり方を検討する上では、我が国において大学入学者選抜に求められている原則的な考え方を改めて整理・確認しておくことが重要である。

原則①:当該大学での学修・卒業に必要な能力・適性等の判定

原則②:受験機会・選抜方法における公平性・公正性の確保

原則③:高等学校教育と大学教育を接続する教育の一環としての実施

3.コロナ禍での大学入学者選抜をめぐる状況変化

これまでも大規模災害等の不測の事態が発生した場合の対応については課題とされてきたが、令和2年春以降の新型コロナウイルスの感染拡大は、大学入学者選抜の実施に大きな影響を及ぼすこととなった。今後の大学入学者選抜のあり方の検討に当たっては、こうした状況の変化を踏まえることが不可欠になっていると考えられる。

(1) 大学入学共通テストの重要性の高まり

(2) 面接試験等におけるオンライン化の進展

(3) 緊急時に入試日程等を協議する仕組みの強化の必要性

(4)大学入学者選抜に活用される資格・検定試験の安定的実施の課題

(5)秋季入学等の入学時期弾力化への対応の必要性

4.入試システム全体に目配りした総合的な検討の重要性

大学入学者選抜の改善に当たっては、一般選抜の改善や大学入学共通テストの改善に過度に偏ることなく、一般選抜と総合型選抜・学校推薦型選抜との役割分担、大学入学共通テストと個別試験との役割分担を踏まえた総合的な検討が重要である。

第2章 記述式問題の出題のあり方
1.記述式問題の意義・必要性
  • 「自らの考えを論理的にまとめる思考・判断の能力」や「思考・判断した過程や結果を的確に表現したり、更には創造的に表現したりする能力」は、大多数の大学において、入学後、専門分野を学んでいく上で必要であり、高等学校教育においてもその育成が重視されているものと考えられる。
  • マーク式問題の出題でこうした能力を測定・評価することには一定の限界があることから、従前から「自らの考えを論理的にまとめる思考・判断の能力」や「思考・判断した過程や結果を的確に表現したり、更には創造的に表現したりする能力」をより直接的に評価する手法として記述式問題を出題する取組が行われてきた。
2.大学入学共通テストへの記述式問題の見送りの段階で指摘された課題

大学入学共通テストへの記述式問題の導入に関わっては、以下のように様々な問題が指摘され、令和元年12 月の導入見送りにつながった。

(1)採点者の確保

(2)正確な採点など採点精度の問題

(3)採点結果と自己採点との不一致

(4)大学への成績提供時期の遅れ

(5)民間事業者の活用に伴う利益相反の懸念の指摘

(6)採点をめぐる制約から評価できる力に限界があることの指摘

3.記述式問題に関する出題の実態や大学の意見
(2)記述式問題に関する大学の意見
  • 国公立大学においては、「大学入学共通テストで記述式を出題すべき」について、肯定的意見の学部が7.8%(国立6.0%、公立11.5%) 否定的意見の学部が90.4%(国立93.7%、公立83.3%)であった。一方、「個別入試(一般選抜)で記述式を充実すべき」については、肯定的意見の学部が77.9%(国立78.3%、公立77.1%)、否定的意見の学部が20.2%(国立21.5%、公立17.7%)であった。
  • 私立大学においては、「大学入学共通テストで記述式を出題すべき」について、肯定的意見の学部は17.4% 否定的意見の学部は81.5%であった。一方、「個別入試(一般選抜)で記述式を充実すべき」については、肯定的意見の学部は51.8%、否定的意見の学部は47.4%であった。
4.記述式問題の推進の考え方
(2)大学入学共通テストにおける取扱い
  •  50 万人以上が同一日・同一時刻に受験し、短期間で成績を各大学に提供しなければならない大学入学共通テストにおいて記述式問題を導入することについては、一定の意義はあるものの、課題の克服は容易ではなく、その実現は困難であると言わざるを得ない。
  • 大学入試センターにおいては、これまでの大学入試センター試験及び大学入学共通テストにおける思考力等を問う試験問題の作成で得られた知見もいかし、高等学校の学びと大学入学後の学修との接続の必要性を踏まえ、マーク式問題の中で、知識の理解の質を問う問題や思考力・判断力・表現力等を発揮して解くことが求められる問題を重視した出題を一層工夫していくことが適切であり、第1回大学入学共通テストに対する評価も踏まえ、不断の改善に努めていくことが期待される。
第3章 総合的な英語力の育成・評価のあり方
1.総合的な英語力の育成・評価の意義
(国際共通語としての英語)
  • 英語は世界で最も話者が多く、インターネット上でも最も使用される言語である。各種の国際会議や国際ビジネスの場でも国際共通語と位置づけられており、非英語圏の多くの国民が第一外国語として学んでいるなど、グローバル化に対応する上で、我が国の次世代を担う若者にとっても「読む」、「書く」、「聞く」、「話す」の総合的な英語力は欠かせないと言える。
  • なお、「読む」、「書く」、「聞く」、「話す」の各技能は、それぞれ別々に育成されるものではなく、例えば「聞いた情報を整理して自分の考えを話す」「自分の考えを書くために必要な情報を読む」といった、技能統合的な言語活動を通して、総合的に育成・評価するべきものであり、その観点から、本提言では「総合的な英語力」という表現を使うこととする。
2.「大学入試英語成績提供システム」の見送りの段階等で指摘された課題

大学入学者選抜における総合的な英語力の評価については、約 50 万人規模のスピーキングテストを同一日程・同一問題で大学入学共通テストとして実施することは困難であることを踏まえ、既に大学入学者選抜で広く活用され、一定の評価が定着している民間の英語資格・検定試験のうち、大学入試センターが参加要件を満たすものとして確認した試験の結果を一元的に集約し、各大学に提供する仕組みを導入することとなった。しかしながら、この「大学入試英語成績提供システム」に対しては、以下のような課題が指摘され、令和元年11 月に導入の見送りを行うこととなった。

(1)地理的・経済的事情への対応が不十分であるとの指摘

(2)障害のある受験者への配慮が不十分であるとの指摘

(3)CEFR 対照表で目的や内容の異なる試験の成績を比較することに対する懸念

(4)国の民間事業者への関与のあり方

(5)英語資格・検定試験の活用に関する情報提供の遅れ

(6)コロナ禍における英語資格・検定試験の安定的実施の課題

3.英語資格・検定試験の活用の実態や大学の意見
(2)英語資格・検定試験の活用等に関する大学の意見
  • 英語のスピーキング・ライティングの評価方法について、「大学入学共通テストの枠組で英語資格・検定試験を活用すべき」について、肯定的意見の学部が31.9%、内訳は国公立25.3%(国立 27.1%、公立 21.4%)、私立 34.2%、否定的意見の学部が 66.7%、内訳は国公立 72.8(国立72.6%、公立73.5%)、私立64.7%であった。
4.総合的な英語力評価の推進の考え方
(2)大学入学共通テストにおける取扱い
(大学入学共通テストの枠組みにおける資格・検定試験の活用の実現可能性)
  • 大学入学共通テストの枠組みにおいて、英語成績提供システムを介して様々な英語資格・検定試験のスコアを一元的に活用する仕組みについては、試験によって会場数、受検料、実施回数や、障害のある受験者への配慮が異なるなど、課題を短期間で克服することは容易ではないと考えられる。加えて、コロナ禍で資格・検定試験の中止や延期が生じ、外部の資格・検定試験に過度に依存する仕組みの課題も認識された。こうしたことから、大学入学共通テスト本体並みの公平性等が期待される中にあって、この方式の実現は困難であると言わざるを得ない。
(大学入学共通テストにおける4技能試験の開発可能性、大学入学共通テスト「英語」のあり方)
  • 実態調査や外部有識者からのヒアリング、本検討会議における各団体からの意見発表においても、大学入試センターが英語4技能試験を開発すべきとの意見があった。しかしながら、大学入学共通テストでのスピーキングテスト、ライティングテストについては、質の高い採点者の確保や正確な採点の担保等、記述式問題の採点と同様の問題や面接官・試験室の確保等の実施上の課題が生じるため、その実現は、技術の飛躍的進展等がない限り困難であると言わざるを得ない。
  • このように考えた場合、大学入学共通テスト「英語」の試験形態は、引き続き、マーク式問題及びICプレーヤーを使用して実施する方式とし、出題形態としては「読む」「聞く」に関する能力を中心としつつも、「話す」「書く」も含めたコミュニケーション力を支える基盤となる知識等も評価するなど、高等学校までの教育で培った総合的な英語力を可能な限り評価する方向で不断の改善を図っていくことが望ましいと考えられる。
第4章 大学入学者選抜をめぐる地理的・経済的事情、障害のある受験者への合理的配慮等への対応
1.現状と施策の基本的な方向性
  • 「大学入学者選抜に求められる原則②」(受験機会・選抜方法における公平性・公正性の確保)を踏まえ、大学入学者選抜の結果を社会的に信頼されるものとするためには、受験機会や選抜方法における「形式的な公平性」を確保するとともに、地理的・経済的条件に配慮した受験機会の確保や、障害者差別解消法の規定に基づく障害のある受験者への合理的配慮の充実など「実質的な公平性」を追求することが重要である。これらの具体的内容を一律に定めることは難しいが、各大学においては積極的な取組が求められる。
3.障害のある受験者への合理的配慮の充実
  • 障害のある入学志願者に対しては、「障害者基本法」や「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の趣旨に十分留意し、その能力・意欲・適性、学習の成果等を適切に評価・判定するために必要な合理的配慮を行うことが重要である。この点について、例えば、事前の相談に教員、保護者、支援者等が加わることの可否が異なるなど、大学間での取扱いにばらつきがあるとの指摘もある。
  • もとより、合理的配慮は、その実施に伴う負担が過重でないときに障害の特性や具体的場面・状況に応じて提供するものであり、一律の措置を求めることは難しいが、令和3年5月の障害者差別解消法の改正により、私立大学についても合理的配慮の提供が義務化されたことを踏まえ、取組の一層の充実を図る必要がある。
第5章 ウィズコロナ・ポストコロナ時代の大学入学者選抜
1.令和6年度実施の大学入学者選抜に向けて
(3)入学後の教育に必要な入試科目の設定の推進
  • 「大学入学者選抜に求められる原則①」(当該大学での学修・卒業に必要な能力・適性等の判定)の観点からは、各大学への入学後の教育に必要な入試科目については、大学入学共通テストの活用や個別試験での出題により、適切に課すことが重要と考えられる。
  • 各大学においては、大学入学者選抜と入学後の初年次教育等との役割分担の観点も踏まえつつ、入学者の追跡調査等により、選抜方法の妥当性について検証を行いつつ、出題科目や出題内容を不断に見直すことが重要である。また、国においても、定期的な選抜区分ごとの実態調査の実施・公表や、他の模範となる取組を促進する方策を講じることが重要である。
5.大学入学者選抜の改善に係る実施・検討体制
(2)国による選抜区分ごとの大学入学者選抜実態調査の定期的実施・公表・分析
  • 本検討会議は、選抜区分ごとの詳細な実態調査を行い、データに基づく丁寧な議論を行ってきたが、第1章で整理したように、今後もデータやエビデンスを重視した意思決定を行うことが重要である。このため、今般実施したような国による大学入学者選抜の実態調査については、大学入試政策立案の基礎的な資料として、専門家の助言に基づき、定量的な把握の充実も含めて調査票の改善を図りつつ、大規模な調査を定期的に行うとともに、特に必要な調査は毎年度実施することが適当である。
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