【GIGA到来】先進校もまねから始めた 毛利校長に聞く

1人1台環境がそろう以前から、ICTを活用した取り組みを日常的に行ってきた茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校(毛利靖校長、児童生徒1593人)。2018年4月に開校したばかりの公立の義務教育学校ながら、子供たちはプログラミングやドローンなどを使いこなし、貧困や環境問題など地球規模の課題に挑む。今や萩生田光一文科相が視察に訪れるほどの「ICT先進校」だが、同校も最初の一歩は「他校の実践をまねすること」だったと毛利校長は振り返る。学校でICT活用を進めるための、組織の在り方やマインドについて聞いた。

まねも2~3年続ければ、自分のものになる
――GIGAスクール構想での1人1台環境がそろう前から、ICTを活用した取り組みを日常的に行っていますね。
つくば市立みどりの学園義務教育学校の毛利校長(Zoomで取材。バーチャル背景は同校がプロジェクト学習などに活用している教室)

これは新学習指導要領や、つくば市の教育目標を実現しようとしてやっていることで、ことさらに「すごい」というものではありません。新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」が大きく掲げられています。子供たちはこれから、今の大人たちが想像もできないほど進化した社会を生きていくわけで、こうした時代でも自分で生きていける、リーダーであり続けられるスキルを身に付けてもらいたい、というだけです。

ICT活用で「何をしたらよいか分からない」という声も聞きますが、文科省のウェブサイトにも事例が山ほど載っていますし、書籍もたくさんあります。それなのに、どうして「何をしたらよいか分からない」となってしまうのでしょうね。まずは、まねから始めたらよいのではないでしょうか。本校もまずは、つくば市の実践例をまねることから始めました。まねを2~3年も続ければ、自分のものになってくる。

だけど人間、とりわけ教員には「人まねはいやだ」と言う人も少なくありません。本校を見学に訪れて「この実践、まねしてみよう」とおっしゃる方も確かにいますが、中には見学に来る前から「先進的にやられているから、うちには無理ですね」とおっしゃる方もいます。

私の体験から言えるのは『できることから、まずやってみればいい』ということです。他の自治体や学校で「これだ」と思うモデルを見つけたら、まずはまねしてやってみて、「これは良いな」「これはうちに合っていないな」と改良していけばよいのです。計画を立てて、教員の研修をして、子供にどう教えるか考えて……というステップも大切ではありますが、頭であれこれ考えすぎると、逆にできなくなることもあります。

――教員はどのようにスキルアップを図っていますか。

「普段の授業だけでも大変なのにICT活用なんて、先生方は研修で大変なのでは」と聞かれることもあります。しかし、本校の先生たちは体系だった研修というよりも、放課後にICTの得意な教員に教えてもらう、といったやり方で学んでいる部分が大きいように思います。

これがもしAED(自動体外式除細動器)やエピペン(アナフィラキシーの自己注射薬)の講習会なら、誰もが必要になる可能性があるから、全員が受けなければなりません。でもICTは、全体で研修をしても「そんなの知っているよ」と思う人もいれば、「その機能はすぐには使わないな」という人もいます。だから、放課後に得意な先生に聞いてみる、といったやり方が、結局は有効なのだと感じます。

例えば、新しいプログラミングの実践を始める時、まずは一つのクラスでやってみます。そこで使った教材やプリントをもらって、次は別のクラスでやる。順番にやっていくうちに、授業はどんどん良くなって、最後の方のクラスはICTに不慣れな教員であってもうまくいきます。授業の時期にタイムラグが出ますが、子供たちも保護者も理解してくれています。

このように教員同士が仲良く、情報共有や話し合いをしていくと、ICT活用は案外うまくいくのではないかと感じます。

テレビや新聞ではベテランの先生が置いてきぼりになっているなどと言われますが、本校ではまるで逆です。うちの再任用の先生は、本当に上手にお使いになる。これまでのキャリアがある分、授業のどこでどうやって使えばよいかの発想が豊富にあるのですね。

ICTはベテランの先生こそ、あっという間に使いこなせるツールです。一方、ベテランが若手に使い方を教わる場面もある。そのためにもやはり、変なプライドや抵抗感を抜きにして、お互いに話し合えるようにしなければいけないと思います。

「心理的安全性」が情報共有のベースに
――教員同士が情報共有できている、その秘訣(ひけつ)は何でしょうか。

「なぜうまくいっているのかな」と考えていたら、「心理的安全性」というテーマに行き当たりました。つまり、うまくいかないときにみんなで助け合えるような職場の雰囲気作りです。

新型コロナウイルスの感染拡大前まで、本校では週末を利用して職員旅行をしていました。私は校長として付いていくけれど、実際はおもてなしをする幹事役。小さなお子さんのいる先生などは参加が難しかったものの、当時60人ほどいた教職員のうち、養護教諭の先生、事務の先生も含め45人ほど参加してくれました。

そこで若手の先生が提案してくれた謎解きイベントに参加したり、デジタルアートを体験したり。仕事は一切抜きの、本当の親睦旅行です。こういう機会を通じて、困った時には同僚の先生に尋ね、お互いに助け合えるような雰囲気ができていったのだと思います。

あとは、多少失敗しても大目に見るということでしょうか。コロナ禍の一斉休校でオンライン授業の配信を始めた時、先生たちは「お家の人も見るのだから、完璧にしなければ」と心配していました。でも、ちょっとくらいの言い間違いは普通の授業でもありますよね。毎日配信することがとにかく大事でしたから、いちいち「検閲」することはしませんでした。

ICTを使おうとして、うまくいかないこともあります。そんな時は「この授業は無駄だった」と思ってしまうかもしれませんが、失敗したということも大切な学習です。そこで目くじらを立てても先に進まない。そういう小さな失敗が気になり始めると、何もできなくなってしまうのではないかと思います。

せっかく1人1台の環境が整ったのだから、楽しく使ったら面白いですよ。今年度は、情報セキュリティーやモラルに関わること以外なら、「こんな使い方じゃだめだ」と言わずにやってみるべきです。せっかく整備された1人1台の端末を苦しみながら使うなんて、先生たちもかわいそうですから。

――環境整備や教員のスキルが軌道に乗るまで大変では。

GIGAスクールの端末は、1週間借りてすぐ返さなければならない、というものではないのですから、トラブルがあっても「今日は調子が悪いから、黒板でやろうか」などと臨機応変に切り替えながら、少しずつ使えばよいと思います。

ネットワークの整備が後回しになっていて、まだスイスイと動かない地域もあるかもしれません。「だから使わない」ではなく、グループに1台でやってみる、隣のクラスと相談して同時に接続しないようにするなど、フレキシブルに使えばよいのではないでしょうか。

アクセスが集中すれば接続速度が遅くなることもある。ネットワークとはそういうものなのだ、と教員も理解しなければなりません。これまでのように「いっせいのせ」で全員が同時に接続したら、つながらないことも当然あります。準備できた人からログインするなど、これまでの一斉指導のやり方を変えていく工夫が必要です。

ICTは新しい技術で、今の教員がみな、大学で学んできたわけではありません。偉そうに子供に操作を教えようと思っても、いずれ化けの皮は剥がれます。(プログラミングソフトの)マインクラフトやスクラッチの操作なら、今の子供たちは自然にYouTubeや友達から学んでいる。

教員はむしろ、「マインクラフトで、子供がどういう学習成果を得られたのか」を正しく評価できればよいのであって、操作が苦手でも、子供が教員をバカにすることはないでしょう。むしろ、得意な子供に「○○ちゃん、すごいね。他の子に教えてあげてね」と声を掛ければ、子供もモチベ―ションが上がる。

先日、廊下で小学4年生の女の子が話し掛けてきました。「家でレゴブロックを作っていて、すごく良いのができた。学校には持ってこられないけれど、みんなに紹介したい。どうしたらよいか?」と言うのです。私が「おうちの人に撮影してもらう、それともDVDにするのがよいかな」と迷っていたら、「端末が1人1台あるから家に持って帰って、そのカメラで撮影して、また持ってきてもよいか」と提案してきました。

この子はすでに授業で、端末を使って撮影した経験があったのかもしれません。目的に応じてデバイスを上手に使うスキルが身に付いているのだ、と感じました。これがきっと、究極の目的なのでしょう。大人なら、会議中に紙にメモを取ったりパソコンを使ったり、難しい言葉をウェブで調べたりと、普通にやっていることですよね。


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