元小学校教員が挑む理想の教育 今注目のHILLOCK初等部

教育起業家と小学校の教員が意気投合し、理想の教育を実現する――。東京都内で新たなオルタナティブ・スクールを創設するプロジェクトが今、来年4月の開校に向けて動き出している。自然環境と探究型学習、バイリンガル教育をコアに、個に応じた学びを行う「HILLOCK(ヒロック)初等部」に、今、教育関係者の注目が集まっている。ヒロックが描く学びとは、どのような姿をしているのか。都内の公立小学校の教員から転身し、スクールディレクターを務める蓑手章吾さんに、教育者としての挑戦を聞いた。

自然が身近にある都会の小さな学校

小さな丘で子どもも大人も自由に駆け回るイメージから名付けられたヒロック初等部は、東京都世田谷区にある都立砧(きぬた)公園のすぐそばに教室がある。募集する子どもの数は12人程度を予定している、小さなオルタナティブ・スクールだ。ヒロックとは、小さな丘という意味で、砧公園の自然の中で子どもも大人も思いきり自由に駆け回る姿をイメージして命名された。

ヒロック初等部を立ち上げる左から五木田さん、堺谷さん、蓑手さん(蓑手さん提供)

ヒロック初等部は「ワイルド」「アカデミック」「東京がキャンパス」を特徴として掲げる。「今の子どもは忙しすぎる。もっと無駄や自由で暇な時間をつくり、自然の中で遊びながら学ぶことをやりたい」と蓑手さん。さらに「ヒロックの学びはアカデミック。子どもの興味関心を見て、今必要だと思う先進的な学びを、スピード感を持ってやりたい。1~2週間に1度は校外学習に出掛けて、社会とつながることも考えている。都会でありながら自然が近くにある小さな学校だからこそ、それができる」と強調。また、バイリンガル教育では、あえて英語の割合は2割程度にし、日本語による思考力の育成を重視するという。

もともとは、教育起業家でソダチバ・プロジェクト代表理事の堺谷(さかいたに)武志さんが、就学前の子どもたちを対象に開いていたバイリンガル幼児園(ヒロック幼児部)の小学生版の構想を練っていたところ、蓑手さんや私立小学校の教員をしていた五木田洋平さん(現在、教育新聞で「『ICT×学び合い』はじめのデザイン」を連載中)がその理念に共感し、参画を決めたことで本格的に動き出した。

蓑手さんはスクールディレクター(校長)に、五木田さんはカリキュラムディレクターに就任。ヒロック初等部では、年齢や学年に関係なく、どの子どもたちも同じ空間で過ごし、それぞれの興味関心やペースに応じて学ぶ自由進度学習のスタイルを採り入れる。

公立小学校の教員でありながら、ICT教育や自由進度学習の実践者としても知られている蓑手さんは、どうしてヒロックの理念に引かれたのか。その理由を蓑手さんは「公立小学校でも自由にやっていたが、自分の理想が100パーセント実現できるかといえば、それは難しい。学びや成長は本来、一人一人違うが、公教育ではどうしても、学年や学級の集団に縛られてしまう。自分が考える理想をかなえてみたかった」と振り返る。そんな思いもあって、スクールディレクターへの就任は、蓑手さん自ら希望したそうだ。

教育を自由に一から創造する場に

ヒロックでは、教師を「先生」ではなくヒマラヤ登山のガイドをするシェルパにちなんで「ラーニング・シェルパ」と呼ぶ。開校に向けて、9箇条から成る「ヒロック宣言」もつくった。その中で、シェルパとコゥ・ラーナー(子どもたちだけでなく大人も含めた、共に学びをつくる学習者)は、かけがえのない個人として対等であり、お互いに自由を与え合い、高め合い、居心地の良い関わりを共につくり合うこと、自身についての理解を基に、学習を試行錯誤し、挑戦する権利を持つこと、活動への参加の有無や程度を自己調整し、選択する権利を持つことなどが定められている。このことからも、子どもたちと大人の新しい関係性を強く意識していることがうかがえる。

自然の中で子どもも大人も成長することを目指すヒロック初等部。写真は幼児部での活動(蓑手さん提供)

蓑手さんはヒロック宣言を「権力が暴走しないようにするための憲法だ。子どもと私たちがこの先すれ違ってしまったときに、立ち返るべきものを言語化して、ヒロックとして本当にやりたいことを、保護者も含めてみんなで共有しようと考えた」と説明する。将来的には、こうしたヒロックの教育をさまざまな人がいろいろな場所で実践できるようにしていくことも視野に入れる。

特別支援学校への赴任が、自分自身の教育観を変えるきっかけになったという蓑手さん。ヒロックの挑戦について教師にどのように見てほしいか尋ねると、次のような答えが返ってきた。

「いろいろな教育があると知ることで、教師は自分の実践を相対化できる。既存の公教育以外にも、教師の選択肢を増やしていき、教育を自由に一から創造する場ができれば、公教育に影響を与えることもできるかもしれない。ヒロックも、そんな教師をエンパワーメントできる場にしたい」

ヒロック初等部の取り組みは8月21、22日にオンラインで開かれる「未来の先生フォーラム2021」で、2日目午前11時20分より配信される予定。


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