参加した教諭が号泣した理由とは 「涙活」の魅力伝える

参加していた男性教諭が突然、涙声になった――。3年前に教員を対象に開いた「涙の授業」のワンシーンだ。涙を流すことでストレスも洗い流してしまおうと2013年から始まった「涙活(るいかつ)」の提唱者であり、「なみだ先生」とも言われる吉田英史さんは、学校の生徒から教員、一般の社会人まで幅広い層を対象に「涙の授業」を開いてきた。そして今、コロナ禍で特にストレスを抱える医療関係者などからも注目されている。改めて涙活とはどんな活動なのか、活動に参加した教師はなぜ泣いたのか、吉田さんに話を聞いた。

吉田さんによると、涙活の定義は、「2、3分だけでも能動的に涙を流すことで心のデトックスを図る活動」。涙を流すことで自律神経が緊張や興奮を促す交感神経から、脳がリラックスした状態である副交感神経が優位な状態へとスイッチが切り替わり、ストレスをなくす効果があるという。

吉田さんが涙の効果を意識したのは、高校教員を務めていたときだった。スクールカウンセラーの資格を持つ吉田さんのもとに相談に来る生徒には、怒り出すタイプと泣き出すタイプの2通りあったが、不思議だったのは、怒る生徒が何度も来るのに対し、泣いた生徒は立ち直りが早く相談に来なくなること。「涙には人をすっきりさせて立ち直らせる効果があるのではないかと考えるようになり、本格的に調べ始めた」という。

涙が出る仕組みを紹介する資料

すると涙にストレスをなくす効果を立証する論文が見つかり、2014年に、脳生理学者で東邦大学医学部の有田秀穂名誉教授とともに「感涙療法士」という資格を創設。土日を利用して「涙の授業」を始めた。

涙の授業とはどんなものか。まず、2~5分程度の「感動して泣ける映像」を5、6本流す。「泣けるツボ」は人によって異なり、家族をテーマにしたものからペット、自然の映像などさまざまだ。詩の朗読や絵本の読み聞かせをすることもある。参加者は自分のツボにはまった映像を見ることで涙がこみあげてくる。

続いて吉田さんが「泣くことの効用」についてスライドなどを使ってレクチャーした後、「なみだ作文」を書いてもらう。参加者それぞれに体験などに基づいて泣ける話を書いてもらい、他の参加者の前で発表してもらう。自らの体験を交えて作文を書くケースが多いという。

そして最後に「涙友(るいとも)タイム」として、涙を流したことによる気付きや感想を、数人のグループに分かれてワークショップ方式で語り合ってもらう。

「参加者同士がお互い自分の気持ちを打ち明けることで、これまで知らなかった友人の意外な側面を見たりできる。涙は人をつなげる効果があり、コミュニケーション不足の解消につながっている」。実際、涙の授業の後、「いじめていた生徒といじめられていた生徒の関係が改善された」「クラスの結束が強まって体育祭で優勝した」といった報告が寄せられたという。

都内の中学校で「涙の授業」を行う吉田さん(写真右側)

涙の授業の対象は幅広いが、学校の総合的な学習の時間やホームルームに招かれる理由について、吉田さんは、▽なみだ作文によって表現力、発想力が鍛えられる▽家族の温かさをテーマにした動画などで生徒の感情を育てられる▽健康教育の入り口として扱いやすい――などが理由と考えている。

冒頭、紹介した男性教諭が声を上げて涙を流した場面は、3年前に教員を対象にした涙の授業で、なみだ作文を発表したときのことだった。「学校生活の泣きたいことや教師として泣けること」を意識して書いてもらった作文は、次のような内容だった。

男性教諭は中学時代、素行が悪く反抗的で教師から目を付けられる存在だった。ところが迷惑を掛けっ放しだったはずの先生が卒業式で泣きながら「おめでとう」と言葉を掛けて送り出してくれた。「自分は愛されていた」。そのことに気付いて自分も泣き、将来、教員になろうと決意したことを思い出したという。

「20年も前の決意を涙の授業で改めて思い出し、今の自分は初心を忘れて問題のある生徒にきちんと向き合っていないのではないかと語るうちに、涙が込み上げてきた様子だった」

コロナ禍でストレスをためる生活を送る人が増える中、最近は医療従事者から招かれることが増えたという。「人と会えない、話せない状況で全体的にストレスがたまりがちで、特にコロナ禍でケアをする立場の方はストレスを抱えても発散させる場所がない。涙活を知ったことで、『自宅で1人のときに涙活をすることで楽になった』といった感想も寄せられている」と吉田さんは語る。

吉田さんの「涙活」のセミナーは8月21、22日にオンラインで開かれる「未来の先生フォーラム2021」で、2日目の22日午前10時から「共感力と自己肯定感を高める涙の授業とは」と題して行われる。吉田さんは「総合学習の教材づくりなどで学校現場の先生が苦労されていると聞く。涙活セミナーを参考にして、生徒の感情を動かすという教材づくりのヒントにしていただきたい」と語っている。

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