幼児教育の質向上、小学校との接続で議論開始 中教審特別委

幼児教育の質の向上と小学校教育との接続を議論する、中教審の幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会の第1回会合が7月20日、オンラインで開催され、文科省は「幼児教育の質を支える要素」や「幼保小の接続期における教育の質の現状と課題」などの論点を提示し、同省が打ち出した幼児教育スタートプランのイメージを説明した。有識者のヒアリングでは、幼児期に非認知能力を育成する重要性や幼児教育を巡る国際的な動きについて説明が行われた。委員からは、幼児教育の質の向上を巡り、「小学校教育の前倒しではない」「一人一人の幼児に応じた学びが大事」「家庭教育との連携も重要」「経済的に不利な家庭では小学校入学時点ですでに格差がある」などと、さまざまな角度から課題が指摘された。

幼保小の接続について議論を開始した中教審特別委員会

特別委員会では、まず座長に無藤隆・白梅学園大名誉教授、座長代理に秋田喜代美・学習院大教授を選出。無藤座長は「日本の幼児教育はしっかりやってきた。小学校教育も国際的に評価されている。ただ、両者をつなぐのは、うまくいかない部分もある。幼児期に育った力が小学校教育の土台としてしっかり生きる形を模索したい」と抱負を述べた。

文科省の瀧本寛初等中等教育局長は、審議開始にあたり、中教審が今年1月に答申した「令和の日本型学校教育の構築」に触れ、「こうした学びの充実が図られる大きな節目にあって、最大限の配慮が必要となるのは、地域や家庭の環境にかかわらず、全ての子供が格差なく、質の高い学びへ接続できるようにすることだと考えている」とした上で、幼保小の接続について「どのように幼児期の教育の質を高めるかがイメージしにくく、接続期のカリキュラムの参考になる資料が少ないとの声も聞かれる」と指摘。委員に対して「五感を通じて学ぶ時期である幼児期の特性を踏まえ、こうした声に応えるための議論を専門的見地から行ってほしい」と要請した。続いて担当官が、経済財政諮問会議が「こども庁」創設について検討していた今年5月、萩生田光一文科相が同会議に提示した「幼児教育スタートプラン」などを説明した。

ヒアリングでは、まず座長の無藤名誉教授が「幼児教育の基本となる乳幼児の発達と遊びと学びの特徴」と題して、幼児教育を巡る基本的な考え方を整理した。「乳幼児期の成長は家庭での養育が基盤になるが、その中で幼児教育の積極的な意義は2つある。1つは家庭以上に成長を促すことで、もう1つは家庭教育が不十分な場合にそれを補うことだ」と説明。「子供の学びは何かを目指して粘り強く取り組む意欲と意志を通して生まれ、そうした自発的で能動的に周りの物事や人に関わっていく活動を『遊び』と呼ぶ」と、遊びの重要性を指摘。学びに向かう力として非認知能力の重要性を取り上げ、最近の研究では、教育を通して非認知能力の育成が可能であることが分かってきた、と述べた。

座長代理の秋田教授は、幼児教育の質を巡る国際的動向を取り上げ、OECD(経済協力開発機構)の研究から「質の高い幼児教育・保育サービスは、子供のその後の人生における成果にもつながるというエビデンスが増加している」と説明。日本でも幼児期に『がんばる力』を身に付けている子どもの方が、小学校高学年での思考力が高い、との調査結果を紹介した。その上で、日本の幼児教育について、▽施設類型に関わりなく、保育者が現職研修を通して質の向上へ向けた実践ができるような政策的支援が重要▽特に5歳児において、幼児期に培った遊びや暮らしの中での気付きから探究へという学びのプロセスが、小学校1年生以降にも保障されるための連携と接続が重要--と指摘した。

委員による意見交換では、大竹文雄・大阪大特任教授が「経済学の多くの研究で、大人になって社会的経済的にうまくいく上で、学力のような認知能力に加えて、我慢強くやり遂げるような自制心、実行機能と呼ばれる能力、人と協働できる能力などの非認知能力が重要だと明らかにされている。それらの非認知能力が就学前の段階でより発達することも知られてきている」と述べ、経済学者の視点からも幼児期における非認知能力の育成が重要だとの見解を示した。
さらに「親への介入も非常に効果的だという研究が多いので、うまく取り入れていくことが重要ではないか。また、どのような具体的な取り組みが効果的なのか、検証できるような枠組みを作っておくことも重要」と指摘した。

外国にルーツのある子供たちについて研究しているオチャンテ・村井・ロサメルセデス桃山学院教育大准教授は「外国人の保護者には孤立するような家庭や、さまざまな不安を抱えて悩んでいる保護者が多い。経済的に不利な家庭では、余裕がないため子供たちと関わる時間が少なく、小学校入学時点ですでに格差がある。保護者、地域との関わり、幼稚園、保育所、小学校の間の連携は非常に重要だと思う」と述べた。

幼児教育の現場からも、問題意識が次々と示された。宮下友美惠・静岡豊田幼稚園長は「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会という名前は、決して小学校教育の前倒しを意味しているのではないと思う」と指摘。「幼児教育の現場では体験の重要性は認識されている。しかし、重要なのは、活動そのものではなく、その活動の中で一人一人の幼児がどのような体験をして、その体験がその子にとって意味のあるものになっているのかどうかではないか。幼児期ならではの五感を通じた心動かす体験から、幼児が何を学んでいるか、その学びを次にどう生かしていくのかについて、幼児教育と小学校教育に携わるもの同士が、具体的な事例やデータをもとに議論し合って共通して理解していくことが大切ではないか」と話した。

渡邉英則・認定こども園ゆうゆうのもり幼保園長・港北幼稚園長は「私は母から幼稚園を継ぎ、その後、認定こども園も引き受けて、二つの園の園長をしている。母の時代は教えるとか、みんな一緒に何かをさせる、というところだったが、いまは『遊び』の中で子供たちが育つとか、丁寧に関わって一人一人の個性を発揮していくことが大事にされるようになってきた。そうした幼児教育が培ってきたことが、小学校教育とか社会にもっと浸透していったらいい、という思いを持っている」と述べ、幼児教育で重視されている「遊び」の取り組みを小学校教育にもっと取り込んでいくべきだとの考えを示した。

特別委員会では、各分野の委員からヒアリングを行った上で、重点的に議論すべき内容を整理し、今年度末までに報告をまとめる。

中教審・幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会の主な論点
  1. 幼児期の学びの特性
    • 五感を通じた体験の重要性
    • 「遊び」を通じ総合的に学ぶことの重要性
  2. 幼児教育の質を支える要素
    • 幼児の体験の幅を広げ、質を深めるための関わりや環境設定
    • 発達の段階に応じた関わりや環境の変化の工夫
    • 地域における幼児教育推進体制の充実
    • 家庭との連携 など
  3. 幼児教育と小学校教育の接続期における教育の質の現状と課題
    • 接続期の教育の意義や重要性の共有
    • 要領や指針の理念の普及
    • 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の実践への活用
    • 多様な施設における5歳児への関わりと、小学校における6歳児への関わりをつなぐ工夫(幼保小が連携した学びや生活の基盤づくりなど)
  4. 一人一人の成長を支えるために配慮すべき事項
    • 配慮が必要な幼児を早期の支援につなぐための方策
    • 乳幼児期も含めた家庭教育を支援する方策
    • データの蓄積・活用による支援策の改善

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