地域住民と協働で課題解決型学習「シブヤ科」 東京・代々木中

公立中学校と地域が協働でつくり上げる課題解決型学習――。「社会に開かれた教育課程」の実現に向け、各校が試行錯誤する中、東京都渋谷区立代々木中学校(川上弘文校長、生徒388人)では3年前から「シブヤ科」という地域住民と共に行う課題解決型学習(PBL)に取り組んでいる。「シブヤ科」の学習を通して生徒たちが学んでいることや、地域社会と学校が協働して学びをつくっていくポイントについて、同校の川上校長、小間澤絢子教諭、同校の地域コーディネーター植野真由子さんに話を聞いた。

授業を行うのは地域住民

「シブヤ科」とは、渋谷区のビジョンである「ちがいをちからに変える街」を実現していくために、同区の街にある社会課題をテーマに、子どもたちが自分で解決法を考えていく課題解決型学習。今年度から同区の全小中学校でスタートしたが、同校では先行して3年前から取り組んでいる。

シブヤ科には、共通したプログラムがあるわけではなく、授業内容などは各校が考えることになっている。同校では1年生は「人を知り、自分を知る」、2年生は「街について学ぶ」、3年生は「シブヤの魅力を世界に発信する」と、各学年にミッションを設定しており、年間を通してそれに基づいた授業がデザインされている。

ファシリテーターとして自己紹介する植野さん

同校でシブヤ科の授業を行っているのは、地域住民のファシリテーターだ。同校の地域コーディネーターである植野さんが中心となって毎年、地域の人材を集めている。植野さんは「関わってくれる人は、地域のために、子供たちのために何かしたいなど、思いを持っている素晴らしい方ばかり」と、笑顔を見せる。

川上校長は「本校のシブヤ科では、各学年のミッションに合わせて講演会なども行っているが、そのコーディネートもファシリテーターの皆さんの人脈によるもの。教員だけでは実現できない人の輪が広がっている」と地域と協働する学びのメリットを挙げる。

さらにファシリテーターについて、川上校長は「とにかく生徒の意見を尊重して、否定せずにどんな意見も吸い上げてくれる」と話し、小間澤教諭も「私たち教員は、自分たちなりの授業スタイルがあって、それにとらわれてしまっている面もある。ファシリテーターの皆さんは、ご自身の職業とも兼ね合わせて、いろいろな視点から語ってくれるので、生徒たちもとても関心を持って聞いている」と、教員側が大いに刺激を受けていることを明かした。

130以上挙げられた、渋谷が抱える街の問題

7月、夏休み前に行われていた今年度2回目となる2年生のシブヤ科では、各クラスのファシリテーターが生徒たちに自己紹介をしていた。

2年生4クラスのファシリテーターには、同区で子育て世代の母親にロコワーキングを推進するNPO法人代表や、同区のSDGsを推進する一般社団法人代表など、多彩な顔ぶれがそろい、それぞれが渋谷の街で行っている活動を伝えたり、生徒から質問を受けたりするなどして、交流を深めた。

続いて、生徒たちは自分たちが考える「渋谷の街の問題」を出し合った。例えば、1組では「自然スポットの減少により、遊びに行くところがないから、子どもはゲームセンターに行ってしまう」「車も自転車も交通量が多すぎる」「ポイ捨てなど、街全体にゴミが多い」など、全部で130以上の問題が挙げられ、それらを「学校」「公共施設」「道」「人」「環境」のカテゴリーに分けた。

「渋谷の街の問題」について話し合う2年生

その後、班になってそれらの問題について「どうすれば解決できるか」「どんなアクションが取れるのか」をディスカッション。ファシリテーターからは「正解もなければ、間違いもない。自由に考えよう」とアドバイスが送られ、例えば「ポイ捨て」について考えた班からは、「道路に物を捨てないよう注意喚起できるような授業を学校で行う」など、具体的なアイデアが出されていた。

さまざまな渋谷の街の問題について話し合った生徒たちは、授業の最後にそれぞれが興味を持ったテーマを選んで提出。夏休み中は、1人1台端末を活用して、自分が選んだテーマについて調べたり、まとめたりするよう、ファシリテーターから指示が出された。

9月以降は、テーマごとにチームを作り、問題解決に向けてインタビューなどフィールドワークを行っていく。最終的には、来年1月にチームごとに問題解決策についてプレゼンする予定だ。

生徒の成長「自ら課題を見つけて探究していく力」

こうした地域住民と協働して行うシブヤ科の授業も3年目を迎えるが、当初は難しさも感じていたという。

例えば、生徒たちがどんな問題を見つけて、誰にインタビューしたいのかは、ふたを開けてみないと分からない。「最初は先生たちにとって『インタビューできない生徒がでたらどうするの?』など、不安だらけの授業だったようだ」と植野さんは振り返る。

「でも、先生たちに『こういうことをやってみたい』と相談すると、『うーん、できるかな、どうかな……』と言いつつも、やってみようという方向に進んでくれて、サポートしてくださった」

小間澤教諭も「3年目にして教員とファシリテーターが同じ目線で、同じ目標を持って、取り組めるようになってきた」と手応えを感じているように、地域住民と教員の関係も時間をかけて成熟しつつある。

さらには、生徒たちにも大きな変化が現れてきている。小間澤教諭は「生徒たちは、もともと与えられた課題に対して一生懸命取り組むのは得意だった。でも、シブヤ科に取り組むことで、自ら課題を見つけて探究していく力や、いろいろな発想を重ねていくことも得意になってきている。普段の授業でも、私たちが考えていることの一段上をいくような発想をするし、人前で話すことへの抵抗も少なくなってきている」と、生徒の成長に目を細めた。

同校の「シブヤ科」の取り組みについては、8月21、22日にオンラインで開かれる「未来の先生フォーラム2021」で、1日目の21日午前11時20分から「公立中学校と地域が協働で作り上げる、生徒が夢中になるシブヤ科の授業とは?」との題で配信される予定。

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