【GIGA到来】「先生の心に火を」 教委が冊子に込めた思い

神奈川県相模原市教委は、GIGAスクール構想の本格始動に合わせ、教員の授業づくりに役立つ資料「さがみはらGIGAスクールハンドブック」を作成した。小中学校の全教科と特別支援教育について、授業でのICT活用のポイントを盛り込んだ大作だ。作成には13人の指導主事が関わり、教科ごとに豊富な写真や図表を用いて解説している。同市教委の担当者は「先生たちの心に火をつけ、先生たちを信用したい」と、ICT活用に当たって教委が担うべき役割の大切さを語る。ハンドブックに込めた思いや今後のGIGAスクール構想の展望を聞いた。

小中学校の全教科、特別支援教育を網羅

「さがみはらGIGAスクールハンドブック」の表紙

相模原市では2017年度から、プログラミング教育に先進的に取り組んできた。国がGIGAスクール構想で打ち出した1人1台端末整備は、同市が独自にタブレット端末を追加調達するタイミングに重なったこともあり、スムーズに進んだという。端末整備は、中学校は昨年11月、小学校は今年1月に完了した。

GIGAスクール構想の本格始動に合わせ、今年3月に同市教委が作成した「さがみはらGIGAスクールハンドブック」はA4判で100ページを超える大作だ。冒頭には「GIGAスクールの一日ってどんな感じ」という章を設け、登校から下校まで学校活動のさまざまな場面が1人1台端末でどう変わるかを、イラストや画像を用いて紹介。続いて、GIGAスクール構想の目的や、必要な準備などについて丁寧に解説している。

ハンドブックの作成に当たった同市教委教育センター学習情報班の指導主事・渡邊茂一さんは「子供から大人まで、端末はゲームやチャットに使うものだと思っているふしがあり、学習に使うイメージが薄い。そこから変えていく必要がある」と問題意識を語る。冒頭の「GIGAスクールの一日」は、教育関係には携わらない市の職員にも、GIGAスクールの意義を理解してもらえるよう作成した資料がベースになっているという。

ハンドブックの中盤は「ICTを活用した授業づくり」にあてられており、小中学校の全教科について、端末の活用方法が解説されている。「小中学校の全教科と特別支援教育を網羅すること、また小学校と中学校を分けて解説することは、学校現場での活用を進める上で譲れないポイントだった」と渡邊さんは振り返る。

デジタルとアナログを効果的に使い分け

ハンドブックでは「GIGAスクールの1日」を紹介している

この各教科での活用方法に関する部分を執筆したのが、教員研修や学校への指導・助言を担う研究・研修班の指導主事13人だ。教育課程を担当しつつ、率先してオンライン研修を行うなど、日常的にICTの活用を進めている。

国語のページを担当した指導主事の表木誕(おもてぎ・じょう)さんは「国語科の教員の間では、デジタルではなく紙でなければいけない、ICTを使わなくても良い授業はできる、という雰囲気を感じていた」と語る。

そのため「先生たちに『これだったら取り組める』と感じてもらえるような事例を紹介することを重視した」。ハンドブックでは、教員が取り組みやすい事例から順に紹介。まずはスピーチや話し合いなど言語活動で、教材に掲載されているQRコードを読み取ってモデル映像を見る、自身のスピーチや話し合いの様子を録画して振り返る、といった活動を取り上げた。

表木さんは「小学校低学年では、しっかりと紙に平仮名を書く、マス目に合わせて縦書きに書くなどの練習も大事。発達段階に応じて紙とデジタルを使い分ける工夫をしている先生も多い」と話す。今年度からは市内の国語科教員と、学校現場でのICT活用の事例や工夫を共有する取り組みを始めている。

音楽のページを担当した指導主事の上田和子さんは、音楽科について「コロナ禍で一気にICT活用が進んだ教科。歌やリコーダーの演奏が制約される一方、飛沫の飛ばない活動として、端末でソフトやアプリを使った音楽づくりが広がっている」と語る。プログラミングソフト「スクラッチ」を用いて、自分が作った旋律を繰り返し確かめたり、その過程を記録したりすることも容易になったといい、ハンドブックでもそうした取り組みを紹介している。

相模原市では教員にも1人1台の端末が整備された。そのため、各校に1~2人しか配置されていない中学校の音楽科教員が他校の音楽科教員とつながり、情報交換をするのにも役立っているという。授業で使ったワークシートやアプリなどを互いに共有し、「すぐに授業に生かすことができている。中学校ではさらに端末の活用が進むのではないか」とみる。

一方で「音楽ではやはり、音色や声質の良さを味わうことも大切。何が何でもICTで完結するのではなく、端末上で試行錯誤しながら作った音楽を、最後には楽器で演奏してみるといった工夫も必要だろう」と話す。

先生が頑張っている姿を知ってほしい

相模原市教委の渡邊指導主事(右)、国語科の表木指導主事(中央)と音楽科の上田指導主事

学校現場でのICT活用を進めるためには、教委にもこれまでにない役割が期待されている。渡邊さんは「先生たちがICT活用に踏み出すまでの心理的なハードルは大きい。それを乗り越えてもらうため、ハンドブックのような明確な指針の提示に加え、授業力の向上への寄与、環境整備の3つを重視している。行政と学校現場、事業者などが連携しやすい組織作りも大切だ」と話す。

渡邊さんは元々、中学校の技術科教員。現在は市教委で技術科教育・情報教育を担うとともに、端末や通信設備の調達、工事の調整などの環境整備にもかかわる。「授業でこう使う、という観点をいかに環境整備に反映させるかが、(市教委に)学校現場から来た人間の仕事。こうした組織体制は強みになっている」と力を込める。

渡邊さんはまた「先生たちの心にいかに火をつけ、先生たちを信用するかを意識している」と話す。「それには『北風と太陽』のようなバランスが大切。端末を必ず使うよう全校に促す一方で、先生たちの考えた取り組みを発信して、頑張っている姿を広く知ってもらい、やる気を引き出すことも教委の役割だと思っている」。近々、現場の教員の取り組みを広く周知していくための「通信」を立ち上げるという。

現在の課題は、学校によって活用に格差があることだ。「小学校では学年、中学校では学校による差が大きい」と渡邊さんは感じている。相模原市教委では、指導主事が頻繁に学校現場に赴き、研修を行うようにしている。「泥臭いかもしれないが、(一部の教員だけが集まる)集合研修と異なり、全ての先生を対象に研修する効果は大きいと感じる」という。

国語科の表木さんは「今後は市内の小規模校同士をインターネットでつないで、討論会やスピーチをすることを計画中」と話す。また音楽科の上田さんは「端末は、調べたいことをすぐに調べられるなど、いつでも使えるものでなくてはならないと思っている。そのためにも今後は、情報モラルについてもしっかり考えていきたい」と意気込む。

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