高校生の世界観が一変 鳥取発「地域連携」の醍醐味

 「遊びの選択肢がない……」。そうぼやいていた地方の高校生が、想像もつかない体験をしたらどう変わるのか――。私立鳥取城北高校の社会科教諭で、総合探究主任でもある大山力也教諭は、NPO法人やベンチャー企業、地域の会社など、さまざまな地域の団体と連携することで、世界観が一変するような探究活動を展開してきた。大山教諭は「『地方だからできない』と思っていることの対極にあるものをぶつけると、生徒はものすごく変わる」と実感している。これまでの探究活動の取り組みや生徒の変化、心掛けていることなどについて聞いた。

鳥取砂丘で月面体験
Zoomで取材に応じる鳥取城北高校の大山教諭

 都道府県の中で最も人口の少ない鳥取県。鳥取城北高校はその中でも県庁所在地の鳥取市内にあり、3つのコース、1151人(今年5月時点)の生徒を抱える大規模校だ。ただ都市部と比べると、どうしても体験の幅が狭くなりがちで、生徒が思い浮かべるキャリアの選択肢も乏しいことを、大山教諭は課題に感じていた。

 大山教諭自身は神奈川県出身。幼少期に海外で生活した経験もあり、「暮らす場所を変えるのに抵抗がない」タイプだという。山梨県の私立高校で非常勤講師として働いた後、「勢いで鳥取県にIターン」した。赴任初年度の2017年度から総合的な学習の時間を任され、昨年度から同校の「総合探究主任」に。同時に、ものづくりやイベントなどに関心を持つ生徒が集まる「アントレプレナー部」の顧問も務める。

「生徒にとっては地元が第一の地点。第二の地点として、自分の想像をはるかに超える比較点を持つと、『何が起きているんだ?』『知りたい、知らなきゃ』という思いに駆られる」。こうした生徒の変化を、さまざまな活動を通して大山教諭は目の当たりにしてきた。

 その一つが、国際協力などの分野で活動するNPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパンとの連携講座だ。総合的な学習の時間を活用し、各学年で世界の貧困問題に関する講座を行ったほか、19年の春休みにはフィリピンへのスタディツアーを企画。希望する生徒12人が現地に渡った。

フィリピンのスラム街を歩く生徒たち(大山教諭提供)

 そこでスラム街の子供たちが、極貧の中でも幸せを見つけて暮らしている様子を目の当たりにし、地方の高校生がそれまで感じていたリアリティーのなさや、「助けてあげたい」という「上から目線」の気持ちが揺さぶられた。「自分には何もできない」と悩み、急に専門書を読み始めたり、NGO職員を志すようになったりしたという。

 一方、鳥取県内にいながら最先端の世界に触れることもできた。宇宙体験のコンテンツ開発を手掛けるベンチャー企業「amulapo(アミュラポ)」が鳥取砂丘で行った実証実験に、「アントレプレナー部」の生徒ら約10人が参加した。夜には、まるで月面の世界のような姿に変わる鳥取砂丘。生徒たちはARグラスをかけて、「月面都市」に降り立った。

鳥取砂丘で行われたベンチャー企業のAR実証実験に参加する生徒たち(大山教諭提供)

 「テクノロジーに対する興味が育まれただけでなく、地方にいながら『自分は最先端にいる』という、良い意味での自尊心が生まれてきた。自分の足で歩んでいく子もいるが、教員が(外部と)結んであげることで、変わっていく子もいる」と大山教諭は話す。「都市部のベンチャー企業にとって、実証実験の場所がある地方はオアシスそのもの。われわれも最先端の教育の機会が得られ、ウィン・ウィンの関係になれる。そこに地方のチャンスがある」。

教員のエゴにしない

 こうした外部との連携は「人間関係の中で発生することが多い」という。貧困問題に関する連携講座は友人を介して、宇宙体験はスタートアップのイベントへの参加がきっかけで実現した。地元の立ち飲み屋で出会ったビール会社の社長と意気投合し、生徒が地ビールのラベルをデザインしたこともある。「地方ならではの意思決定の早さは魅力だ。しっかりした人間関係があれば、実現できてしまう部分も多い」。

 さまざまな体験を通して生徒に「非日常」を提供してきた大山教諭だが、ジレンマを感じることもあるという。フィリピンのスタディツアーから戻ってから「周りと世界観が合わなくなってきた」とこぼした生徒がいた。それまでの友人に対し「もっと真面目に勉強しないのか。どれだけ恵まれていると思っているんだ」と、距離を感じるようになったのだという。

 「世界を知らないままでも地元で楽しく暮らしていれば、十分に幸せかもしれない。とはいえ、何も知らないまま生きていくというのも残酷な話。今の自分の場所だからこそ、できることもある。生徒たちの選択肢を増やしておきたい」と大山教諭は語る。

 大切にしているのは、「教員のエゴにしないこと」。生徒たちが雑談の中で垣間見せる「こういう面白いことがあったら」「こういうことしたいな」という声を、丁寧に聞くようにしている。半年、1年という期間をかけて少しずつ準備を進め、小さな感動を積み重ねていくことで、生徒に見える「景色」が徐々に変わっていくのだという。

 鳥取城北高校での大山教諭の取り組みは8月21、22日にオンラインで開かれる「未来の先生フォーラム2021」で、2日目午前11時20分より配信される予定。

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