パラ学校観戦「本当に子供のためか」 現場に広がる戸惑い

 8月24日に開幕する東京パラリンピックでは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い無観客とする一方、開催地の児童生徒が学校・自治体単位で観戦する学校連携観戦については「教育的な要素が大きい」として、希望に応じて実施する方針が16日夜に決まった。ただ、学校現場では賛否両論が巻き起こっている。とりわけ現在、新型コロナウイルスが猛威を振るっていることや、準備期間が短いことから、不安を訴える関係者も多い。戸惑う学校現場の管理職や教員の声を聞いた。

実施を決めた自治体でも懐疑の声

 「緊急事態宣言が延長される中で、まさか観戦に行くことはないだろうと思っていたが……」。学校連携観戦の実施を決めたある自治体の公立小校長は、困惑を隠さない。

 会場までの移動には貸し切りバスを使うため、公共交通機関を使う場合と比べれば、引率の負担そのものはそれほど大きくない。とはいえ、会場の詳細などについてはまだ知らされておらず、観戦日までに下見する機会もない。観戦せず学校に残る児童の学習をフォローする体制もこれから作る必要がある。校長は「観戦ありきの見切り発車で、物事が進められている感が否めない」と憤る。

 何より不安なのは、新型コロナウイルスの潮目が変わりつつあることだ。「これまでなかった家庭内感染の情報が入るようになり、感染が身近になっていることを肌で感じている。夏休み明けに正常な教育活動ができない懸念さえある中で、感染のリスクを冒してまで、パラリンピックを観戦している余裕はない」と話す。

文科省の入り口に置かれた東京パラリンピックのカウントダウンボード(8月18日撮影)

 組織委はパラリンピックの教育的価値を強調するが、校長は到底納得できないという。「どんなに教育的価値があっても、それが危険ならばやらないという流れの中で、これまで運動会や遠足などの行事も中止・縮小してきた。それなのに、パラリンピックだけは危険を冒して観戦する、という矛盾をどう説明するのか。それは本当に子供のためなのか」。

 別の参加自治体の公立小教諭は現在、保護者にメールで参加の意向を尋ねている最中だが「夏休み中なので、全ての保護者の意向を速やかに把握することが難しく、夏休み明けの短期間に改めて確認する必要がある」という。同時に「保護者から『こんなに感染者がいるのに行くのか』『感染したらどうするんだ』という苦情に対応することになりそうだ」。

 観戦当日の準備にかかる負担も小さくない。「会場までは貸し切りバスなので、移動に関しての負担感はないが、各校、どの競技の観戦が割り当てられているかによって、出発時刻、解散時刻、さらには昼食をどうするのかが変わるので、時間の調整は大変だ」という。さらに「希望により行く子と行かない子がいて、扱い方が難しい。行った子には『経験できてよかったね』となるが、行かない子がいる以上は、それを口には出せない」。

 この教諭は「できることなら観戦させてあげたい、というのは、教員なら思うところ。しかし、感染リスクとのバランスを考えると、とても難しい問題だ。教員や学校は、子供や保護者に説明しなければならないので、本当は、『緊急事態宣言が解除されたから』といった明確な理由が欲しいところだ」と悩む。

「教育的意義は命あってこそ」

 検討中としている学校や、見送りを決めた学校の管理職や教員からも、学校連携観戦に対してさまざまな声が上がっている。

 「世界各国で障害者への偏見や差別が大きな問題となる中、パラリンピックでは、目の前でパラアスリートが高いレベルのパフォーマンスを見せてくれる。しかも国や地域を超えて、スポーツを通じた交流ができる。百聞は一見にしかずと言うが、見ることで感じることは多く、自国開催のパラリンピックを有意義なものにしたいという気持ちはとてもよく分かる」と、東京都のある公立小教諭は話す。

 「一方で、この『教育的意義』と、『命を守ること』がてんびんにかかってしまっている時点で、やるべきではない。教育とは命ある存在に対して行うものであり、命あってこそのものだ。コロナと熱中症でその命を守ることができない可能性がある以上、行うべきではない。教員の働き方としても、今から現場の視察、保護者への伝達、日程などの調整を行うのは、率直に言ってかなりハードだと思う」。

 千葉県の公立中教諭も「リアルで観戦する感動も分かるが、今は違った方法で子供たちに届けるシステムを考えた方がよい。自治体によってはワクチンを接種できていない教員も多い。子供たちはもちろん、先生たちを守るための判断も必要だ」と指摘する。

 別の東京都の公立小教諭は「私自身はとても楽しみにしていた。一生に一度あるかないかの機会だし、子供たちには現地で、生で観戦をしてほしい。もちろんコロナや熱中症などの心配はたくさんあるが、それでも個人的には連れて行ってあげたい」と語る。

 ただ、「引率や観戦にそこまで負担感はないが、問題はその前後。公教育で実施するとなると『全員連れて行かなければならない』という思い込みが強いので、行かない子への対応や、どのような順序でコンセンサスを取っていくかに気を遣う」。

 東京・多摩地域のある都立高では当初、観戦を検討していたが、学校に帰る時間が夜遅くなるため断念したという。同校の教諭は「教員の仲間からはいろいろな心配の声が出ている。熱中症の心配もあるし、余裕のない家庭ではあまり深く考えないまま子供を参加させるケースも考えられる。なぜここまでこだわるのか分からない」と批判する。

 「一定の教育効果はあると思うので、例えば観戦したいという生徒に直接、チケットを渡して保護者が付き添って……という形なら理解できるが、学校行事にすることで仲間外れにされたくない生徒も行かざるを得なくなるなど、さまざまな問題が生じる。また、コロナで医療機関がパンクしている中で、引率の教員に責任を負わせる形で実施することも問題だ。そもそも決定するのが遅いし、下見もできないままで強行するのはおかしいと思う」。

 埼玉県のある公立小校長は「緊急事態宣言下で大人は不参加、子供は教育的意義から参観を承認するということには、アンバランスな判断を感じる」と疑問を呈し、「この状況下ではまず、各学校の創意工夫により安全・安心を担保しながら、さまざまな教育活動を止めないことを優先すべきだ」と訴える。

 「国が十把一絡げにして参加を認めることは、一方で不要不急の外出自粛や、三密の回避を求めておきながら、判断の方向性にあまりに飛躍がある。各学校の独自性を尊重する機運が失われる危険性があるし、子供の命をどう捉えているのかにも疑問を感じる。これでは、先生たちのモチベーションも下がる。今は、日常の学校教育を創意工夫して粛々と進めることがとても大切だし、そこに学校の価値がある」。

全日中会長「安全第一で判断を」

 全日本中学校長会(全日中)の会長を務める、東京都板橋区立中台中学校の宮澤一則校長は「子供たちの安全を最優先で考えると、(パラリンピック観戦は)難しいのではないか」と厳しい見方を示した。板橋区教委は6月末時点で、オリンピック、パラリンピックともに学校連携観戦プログラムの中止を決めている。区教委の担当者は8月18日時点で、「中止に変更はない」と回答している。

 宮澤校長は「アスリートの活躍を目の前で見られることは、児童生徒にとって貴重な体験になるだろう」と観戦の意義を認めつつも、「しかし今の1都3県の感染状況を見ていると、大変心配だ。変異株が猛威を振るい、子供でも感染するケースが増えている。そんな中で危険を冒しながら会場に行くよりも、テレビを通して応援することがベストではないか」との考えを示した。

 自治体によって対応が分かれている現状については、「特に会場から遠い自治体の見学は、安全確保という点で困難なのではないか。熱中症も含め、子供たちの安全を第一に判断してほしい」と慮った。

(秦さわみ)

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