【デルタ株危機】感染症対策や心のケア 鍵を握る学校保健

 現在流行している新型コロナウイルスのデルタ株では、子どもの感染者も増加している。多くの学校で2学期が始まる9月以降、学校現場では感染防止対策や心のケアをはじめ、どのようなことに気を付けなければならないのか。感染症の専門医や学校保健の専門家、養護教諭に聞いた。

教育活動の維持を優先すべき

 2学期が始まるのを前に、日本小児科学会は8月26日、現在の第5波の中での学校の教育活動に関して緊急提言を発表した。

 提言では、全国一律の一斉休校ではなく、地域の感染状況に合わせて、やむを得ない場合は休校や学級閉鎖、分散登校などを考慮する必要があるとし、行政に対しては、休校などの判断をする際の具体的な基準やその期間の目安を提示して、日本学校保健会が運営する「学校等欠席者・感染症情報システム」で地域の感染状況をリアルタイムで把握し、関係機関がデータを利用しやすくする必要があると指摘。子どもの健全な発育のためにも、学校の教育活動の維持が優先事項であり、不織布マスクの着用や教室の十分な換気などの効果的な感染対策を徹底する必要があると強調した。

 また、休校となった場合は保護者にも負担がでることから、小学生の場合は、子どもの居場所や養育者の確保に向けた配慮や準備が必要なこと、中学校や高校は小学校よりも強い感染防止対策を行い、高校でのオンライン授業の実施や、部活動などの課外活動の制限も必要だとしている。

感染者が出た場合のシミュレーションを

 ところで、現在国内で感染が広がっているデルタ株の子どもへの感染リスクについて、どう考えればいいのか。

国立成育医療研究センターの大宜見医師(国立成育医療研究センター提供)

 国立成育医療研究センター小児内科系専門診療部感染症科診療部長の大宜見力(おおぎみ・ちから)医師は「これまで、新型コロナウイルスは子どもへの感染力が低く、学校などでクラスターが発生するケースも少なかった。しかし、最近は保育所や学校、学習塾で子どもが感染して、家族に広がるケースも増えてきている。一般にデルタ株の感染力は、これまでのものより強いといわれている」と解説する。

 感染者数の増加により、自宅療養を求められることが増えているが、子どもの場合は感染しても重症化する可能性は低いため、保護者は不安になっている子どもにもそのことをきちんと伝えつつ、まずは落ち着いて対応することが大切だという。国立成育医療研究センターでは、ホームページに子どもが新型コロナウイルスに感染し、自宅療養となった場合のポイントを紹介している。

新型コロナウイルスに感染した子どもの観察ポイント(国立成育医療研究センターHPより)

 また、学校では、消毒やマスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保、小まめな換気など、これまでの総合的な感染防止対策をしっかりと行うことや、授業中に少しでも風邪の症状を感じたらすぐに申告したり、家庭で風邪の症状があったら休んだりすることを徹底することが重要になるという。これらの対策は、子どもだけでなく、職員室での感染防止対策など、教職員にも求められる。リソースに応じて、オンライン授業を検討することも必要になるだろう。

 このまま感染の勢いが収まらなければ、学校で感染者が出る可能性も高まる。大宜見医師は「保健所の業務量がひっ迫していることから、学校で感染者が出た際に細かな対応ができない可能性もある。8月27日に文科省から公表された新型コロナウイルスが確認された場合のガイドラインを参考に、地域の感染状況などを踏まえながら、各学校で感染者が出た場合のシミュレーションをしておくことや、家庭で感染者が出たときに、誰がどのように対応するかを決めておくことが重要になる」と話す。

 「感染は日本中どこでも誰にでも起こり得る。できること、すべきことをお互いに徹底して、社会のため、自分自身を守るために行動する。重症化を防ぎ、コミュニティーの中のウイルスを減らすためにも、ワクチン接種対象者の多くの方々に少しでも早くワクチンが行き届くことを期待している」と大宜見医師は注意を呼び掛ける。

感染防止対策と学習保障、セーフティーネットの狭間(はざま)で

 「コロナ禍で子どもも保護者も精神的にしんどくなっている。貧血や起立性調節障害で保健室にやってくる子も増えた。不安やストレスを誰にも相談できず、学校だけが落ち着ける場になっている子もいる。感染防止対策と学習保障、セーフティーネット、この3つをどう守っていくかが課題だ」

 関西地方の公立中学校に勤務する養護教諭は、2学期が始まった学校現場で、感染防止対策と子どもたちへの対応に追われている。夏休みに入りデルタ株が広がると、子どもから子どもへの感染とみられるケースが報道されるようになってきた。この学校では、学校医や地域の病院との情報共有と連携も強化しながら、万が一学校で感染者が出た際の対応などを全教職員で共有。保護者には「保健だより」などを通じて、学校でどのような感染防止対策に取り組んでいるかを説明した上で、不安な場合は無理に学校に来る必要はなく、オンラインでの学習保障も行うことを伝えている。

 「これだけ地域に感染が広がっている以上、学校で陽性者が出てしまうのを防ぐのは難しい。でも、学校でクラスターを予防することはできる」と養護教諭は気を引き締める。

 一方で不安要素もある。教職員が陽性だったり、濃厚接触者になったりしたときに、教育活動が維持できなくなれば「学校崩壊」になりかねない。また、この状態が長期化すれば、学校行事や部活動がほとんどできなくなり、子どもたちの進路やメンタルにも影響が出てくる。

 この養護教諭は「消毒液の補充や発注作業、さまざまな感染防止対策を考えることに日々追われている。教員からの相談も増えた。何とかやっているが、増えた業務の分、自分でも気が付かないうちにどこかを削っている可能性はある。子どもたちの変化を見逃していないか心配だ」と、業務負担が限界を迎えつつある中で、子どもたち一人一人に目が行き届かなくなることを懸念する。

子どもの心身の状態にも注意を

 「学校でできる基本的な対策はすでに整っている。この時期だからこそ、警戒レベルを強めて、もう一度教職員や子ども、そして家庭に対して、強く注意を促すことを徹底する必要がある。感染経路を踏まえれば、学校はもちろんのこと、家庭の中にウイルスを持ち込まないようにするために大人の行動変容が求められる」

子どもへの心身の影響を懸念する戸部教授(本人提供)

 そう話すのは、学校保健が専門で、教育新聞で「コロナ禍の子供に寄り添う 学校保健のミッション」を連載した戸部秀之埼玉大学教授だ。

 地域によっては緊急事態宣言が長期化し、「コロナ疲れ」や慣れが生じている可能性もある。報道を見て保護者や子どもたちにも不安が広がっている中で、家庭と一丸となって、学校が組織としてぶれずに対応するために、校長の毅然としたリーダーシップが欠かせないと戸部教授は強調する。

 感染防止対策以外にも注意すべきことはある。

 戸部教授は全国の養護教諭に対して行った調査から浮かび上がってきたこととして、子どもの体力低下や生活リズムの乱れ、メンタル面への影響を挙げる。

 「この夏休みもいろいろなイベントが制限されたことで、家でゲームやインターネットばかりして過ごしていた子どもは多くいるのではないか。ただでさえ2学期は学校がしんどいと感じる時期で、そこにコロナへの不安も重なっているので、子どもたちは不安定な状態にある」と指摘。先の見通しが持ちにくい中で、意欲の低下など、子どもの心身の成長にしわ寄せが来ることに警鐘を鳴らす。

(藤井孝良)

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