【デルタ株危機】校長会会長に聞く 第5波でのかじ取り

 新型コロナウイルスの第5波が続く中で始まった2学期。感染防止対策をしながら学びを保障するという難題が学校現場に押し寄せている。この荒波を乗り越えるためには、改めてかじ取りをする校長のリーダーシップが問われる。各校長会会長と、部活動の大会運営で難しい判断が求められている全国高体連の奈良隆専務理事に、今後の感染防止対策や学校行事、部活動などの方針、教職員へのメッセージを聞いた。

「やれることはやろう。やったことはきっと子供の成長として返ってくる」

全国連合小学校長会会長 大字弘一郎・東京都世田谷区立下北沢小学校統括校長

大字全連小会長(今年5月20日撮影)

 新型コロナウイルスがデルタ株に置き換わり、夏休みの前後で状況は一変した。このことを念頭にもう一度、気持ちを引き締め直す必要がある。この状況が長期化すると、子供のストレスや成長面への影響が心配だ。この先どうなるのか分からないという不安を、子供は言語化して発散することが難しい。外からは見えづらい心の部分を、しっかり気に掛けてフォローしていかなければならない。

 本校のある世田谷区は9月1日から学校が始まるが、準備期間を経て9月3日からGIGAスクール構想で整備された端末を使い、オンライン配信を併用した分散登校に切り替える。ただ、全国的に見ると、オンライン授業に耐えられる通信環境があるか、教員のスキルは十分か、子供たちがオンライン授業に集中していられるかなど、課題は少なくないと感じる。

 学校行事を中止や延期とするケースもある。私自身は、学校行事はできる限りの感染対策を講じて実施したいと考えているが、実際はこの感染状況の中、通常通りの実施は難しいだろう。本校も10月初旬に運動会を控えており、分散登校が長引いた場合など、さまざまなケースを想定しながら準備を進めている。学校行事は、子供たちの成長になくてはならないもので、実施方法を変えるなど工夫をした上で、ぜひ実施していきたい。子供たちの声を聞き、その発想を生かしながら、現在の状況に応じた学校行事を作っていくこともできるはずだ。

 この1年半の間、正解のない中での判断を求められ続けた全国の校長先生たちは、気の休まる時がなかったと思う。それでも全国には約1万9000の小学校があり、それだけの数の校長仲間がいる。互いに情報共有をしていけば、少し安心して学校経営ができるだろう。子供たちの成長を第一に考え、できる工夫は何でもして、試行錯誤しながら前に進んでいくしかない。私は全連小の会長として、全国の校長先生をしっかりつないでいきたい。

 教職員に対しては、「ありがとう」という言葉しかない。先生たちにはかなり負担を掛けていると思うが、そうした中でも一生懸命取り組んでくれる姿に心から感謝したい。もちろん健康第一なので、無理はしてほしくないが、「やれることはやろう。やったことはきっと子供の成長として返ってくるから」と伝えたい。

「コロナと共に生きていかなければいけない時代、教師として、学校として生徒に何ができるのか」

全日本中学校長会会長・日本中学校体育連盟会長 宮澤一則・東京都板橋区立中台中学校校長

 全国的に急速に感染が拡大している状況を見ると、子供のワクチン接種を早急に進めてほしいというのが、現場の何よりの希望だ。デルタ株への置き換わりが進み、子供でも感染リスクが高まっている現状であっても、学校ではこれまでと同じ感染防止対策しか手だてがないことがとても歯がゆい。

宮澤全日中会長(今年5月25日撮影)

 再び急務となっているオンライン授業については、いまだに地域間格差が埋められていないのが現状だ。全日中でアンケートをとっても、各教委がリーダーシップを発揮し、動画や課題を積極的に発信している地域と、各学校に任せている地域とでは、進捗(しんちょく)
具合に大きな開きがある。全日中でも、各自治体や学校の効果的な事例を共有して、全国で同水準の教育を提供できる仕組みづくりを後押ししたい。

 長らく通常の学校生活を送ることができていない生徒たちにも、確実に弊害が出ているように感じる。特に今年度に入ってそれが顕著だ。複数学年で集まる行事が中止になり、後輩が先輩の姿を見て学ぶ機会が失われたせいか、集団生活ができない生徒が目立つようになった。また、生徒同士の話し合い活動も急速に減っており、コミュニケーションに課題を抱える子供も増えたように思う。

 さらに、部活動の縮小や中止も、生徒の心に影を落としているだろう。もちろん生徒の健康を最優先にした上で、どうすることが生徒にとって最善なのか、現場の先生も苦慮していると思う。部活動は生徒にとって自己実現の場だ。地域の感染状況を踏まえながら、ガイドラインに沿って縮小して活動したり、活動自体ができなくても、顧問や部員同士で何かしらのつながりを維持したりするなど、工夫していく必要がある。

 一方で、秋の国民体育大会が中止になるなど、今後の大会の実施も難しい局面に立っている。状況が落ち着いた暁には、近隣校同士の試合など、規模を縮小しつつ、特に引退を迎える3年生のために何らかの場を設けることも心に留めておいてほしい。

 一見、表面的には穏やかに見える生徒たちだが、内面ではかなりの葛藤ややるせなさを抱えているだろう。さらに肥満や視力悪化など、身体的な影響もさまざまな調査で指摘されているのが大変気掛かりがかりだ。

 そして、生徒はもちろん、現場の教職員も不安でいっぱいだろう。本校でも通勤にバスや電車を使っている教職員が多く、「もし自分がウイルスを持ち込み、子供にうつしてしまったら」と不安を口にする先生もいる。万が一教員が感染した場合、学校活動を維持する策についても考えなければならない。

 何より、子供と教職員の健康を第一に、学びを止めないために何ができるかを考えてほしい。もう、どの学校で感染者が出てもおかしくない状況になっている。コロナと共に生きていかなければいけない時代、教師として、学校として生徒に何ができるのか。全国の中学校が一丸となってアイデアを出し合い、協力していきたい。今が踏ん張りどころだ。

「生徒の教育活動の保障と心身の健康維持の両立に全力で取り組む」

全国高等学校長協会会長 杉本悦郎・東京都立小金井北高校校長

 7月から続く緊急事態宣言下で、都立高校では各学校において、地域や生徒の急激な感染拡大の状況を踏まえ、オンラインを活用した分散登校や短縮授業を実施したり、公共交通機関が混雑する時間帯をより一層避けられるよう、始業・終業時刻の設定を工夫するなどの時差通学を徹底したりしている。夏休み明けも、生徒の健康状態の把握と適切な対応を目的として、当面の間は分散登校や短縮授業となっている。

杉本全高長会長(今年5月20日撮影)

 すでに、1人1台端末が実現できている地域や学校もあるが、多くの高校では、家庭のパソコンやタブレット端末、スマートフォンなどを活用せざるを得ない状況にあり、学校端末を持ち帰らせるなどの対応が必要な場合もある。Wi-Fiの設置や教員の授業用端末など、校内のICT環境の整備や、経済的理由でICT環境を用意できない家庭に対する通信費などの支援などが課題だ。

 学校の教育活動は、文科省や各都道府県教育委員会が作成したガイドラインなどに基づき、感染症対策と学校運営の両立に取り組んでいる。学校行事や部活動の大会などが中止となった場合の代替策は、学校行事については各学校が検討し、部活動の大会についてはそれぞれの競技専門部などが判断している。

 これらの活動ができなくなると、例えば、学校行事を生徒が主体的に実施・運営している高校では、1年間の空白ができるだけで行事の意義・目的や運営方法を下級生に正しく伝承できなくなるなど、その学校の伝統の継承に多大な影響がある。部活動についても同様で、大会の中止や出場辞退となった場合は、その結果を基に大学の公募推薦や総合型選抜の受験を考えている生徒にとって、ダメージは大きい。

 各学校では、緊急事態宣言下で、生徒の学習を保障するとともに、心身の健康を維持していくことに細心の注意を払う必要がある。緊急事態宣言が長期化したとしても、現在行っている感染防止対策を継続するだけであるから、それよりもむしろ、休校措置がなされた場合の方が、さまざまな懸念が考えられる。

 仮に全国あるいは都道府県ごとに一斉休校などの措置がなされた場合、進路に直接関わる高校3年生をはじめとして、学習保障が困難となる。昨年の休校期間は、最も長い地域でも年度末の3月から新年度1学期の5月までだったことから、夏休みを2週間に短縮し、休日や冬休みを削減して3年生の受験に間に合わせることができたが、今後の休校に対しては回復の方策がない。

 また、校内でクラスター的に感染が広がった場合、そのクラスまたは学年、学校は2週間以上の休校を余儀なくされるため、この場合も教育課程の回復は非常に困難だ。

 新型コロナウイルス感染症の一日も早い収束を願っている。今、学校でできることは、校内で感染を拡大させないように、デルタ株の脅威を正しく認識して、感染症対策を一層徹底することしかない。全国の高校現場とこの思いや問題意識を共有し、高校での学びを止めないために、生徒の教育活動の保障と心身の健康維持の両立に全力で取り組んで行きたい。

「感染防止対策を徹底して、児童生徒一人一人の命の安全を守る学校経営を推進していく。これに尽きる」

全国特別支援学校長会会長 市川裕二・東京都立あきる野学園校長

 特別支援学校の場合、公共交通機関を利用して通学している児童生徒もいれば、スクールバスで通う児童生徒もいる。地域によって新型コロナウイルスの感染状況も違うので、学校ごとに対応が異なる。いずれにしても、自治体のガイドラインに基づいて、感染防止対策を徹底して、児童生徒一人一人の命の安全を守る学校経営を推進していく。これに尽きる。

 国や自治体がさまざまなガイドラインを示す際には、特別支援学校や障害のある児童生徒のことを忘れないよう、これからも校長会として積極的に働き掛けていきたい。

 GIGAスクール構想で特別支援学校にも端末が配られているが、特別支援学校の場合は、子供一人一人の障害の特性や発達段階を考慮した活用になるので、まずは学校で個別最適な使い方を模索することになる。その点からも、端末はもう少し融通のきく仕様にしてもらいたいところだ。

 一番の悩みは、宿泊を伴う行事だ。本校の知的障害教育部門では、毎年高等部2年生で修学旅行を行っているが、昨年は中止にせざるを得ず、今年は2年生と3年生の合同で、年明けの1月に行う予定だが、この状況が続くと見直さなくてはならなくなる。宿泊場所や移動手段の確保を考えると延期にすることは難しい。特に卒業する3年生の生徒にとって、大切な修学旅行の機会がなくなるのは大きい。早く感染状況が収まり、修学旅行が実現することを願っている。

「規模を縮小しても選手の次のステップにつながる場を」

全国高等学校体育連盟 奈良隆専務理事

 全国高体連では、今年5月に全国高等学校総合体育大会(インターハイ)での新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための対策をまとめた基本方針を策定し、参加校に生徒などの健康チェックシートを提出させるなどして大会を運営した。デルタ株の流行など、刻々と変化する感染状況を見据えて、冬季の大会に向けた基本方針のアップデートや部活動での対策強化などを検討したい。

 部活動や大会は教育活動の一環として行っている。その大前提が安心安全である以上、部活動で感染の懸念が増幅している状況があれば、設置者や主催者の判断で中止することはやむを得ない。特に部活動を巡っては、練習中は監督・コーチが感染対策を指導しても、部活動の合間や帰宅時などに部員同士が接触することまでは、なかなか目が行き届かないなど、感染対策を徹底する上で難しい面もある。

 しかし、感染防止対策を徹底した上で、選手たちの活躍の場である大会は、できるだけ開催したい。試合のための部活動ではないが、大会は選手のモチベーションなどを維持する上での目標になるものであり、出場辞退などがあったときの生徒の心情を思うと忍びない。

 今年のインターハイは開催できたが、昨年のように中止になった場合などは、規模を縮小しても選手の次のステップにつながる場を考えたい。

 今後の大会開催を考えるとき、最も心配するのは、大会開催地で新型コロナウイルスの感染が拡大し、現地の医療体制がひっ迫してしまうことだ。幸い、今年のインターハイではこうした事例はなかったが、熱中症や競技中のけがなどがあった場合に、適切な治療を受けられないといった事態があってはならない。開催地の医療機関との連携が今後の重要な課題だ。

(【デルタ株危機】特報班)

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