幼保小連携のプログラム開発を強調 中教審特別委がたたき台

 幼児教育の質の向上と小学校教育との接続を議論する、中教審の幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会の第3回会合が9月1日、オンラインで開催され、文科省は論点整理のたたき台(案)を示した。幼児教育のカリキュラムを「小学校以降のカリキュラムと連携・接続することで、社会に開かれたものとする必要がある」との基本認識を共有。同省が今年5月の幼児教育スタートプランで打ち出した「幼保小の架け橋プログラム」の開発・実践を進める必要性を強調した。プログラムの具体的な内容については委員会の中に作業チームを編成し、集中的に検討を行う。

「幼保小の架け橋プログラム」を議論した中教審特別委

 論点整理のたたき台(案)では、幼児教育を巡る国内の現状について、「質の高い幼児教育とは何かに関して、早期教育や小学校教育の前倒しと誤解されがちなど、社会的な認識が共有されているとは言いがたい。身体と感覚・感性を通じた体験が必要な時期であることなど、幼児期の学びの特性を幅広く伝えていくことが必要」「遊びを通じた学びの教育的意義や効果が、まだ十分に認識されていない」と社会的な認知が進んでいないことを説明。

 0歳から18歳まで見通して学びの連続性を確保する手だてが不足しているとして、「遊びや暮らしの中での気付きから探究へという学びのプロセスが幼児期に保障され、小学1年生以降との連携・接続により、小学校の教育活動や指導の在り方の改善にもつなげることが重要」と指摘した。

 また、最新の研究成果を踏まえ、「幼児期の教育がその後の生涯にわたる学業達成、職業生活、家庭生活等で多面的に影響を与える」「質の高い幼児教育・保育が子供の望ましい発達と学びに結びついていること、特に恵まれない境遇にある子供において、その傾向が顕著である」として、家庭環境などの格差にかかわらず、幼児期に学びや生活の基盤を育む重要性を明記した。

 こうした幼児教育の質を保証するためには、「各園や自治体の多様性と自律性を尊重しながら格差の是正を図ること」や「人材確保・キャリアアップ支援の体制」が必要との見方を示した。

 その上で、目指す方向性として、「小学校以降のカリキュラムと連携・接続することで、幼児教育カリキュラム自体が社会とつながり、開かれたものとする必要性を共有」することを明示。「一人一人の多様性に配慮した上で、全ての幼児に学びや生活の基盤を育む『幼保小の架け橋プログラム』の開発・実践を進める必要がある」と、文科省が今年5月に幼児教育スタートプランの中で示した「幼保小の架け橋プログラム」を推進する考えを強調した。

 プログラムの内容については「各園や各自治体の創意工夫を生かしたカリキュラムや活動の在り方が求められる」と、全国一律としない考えを示した。具体的な開発については、共通事項を委員会で整理した上で、モデル事業などを通じて各地域主体で行う方向性を示した。今後、委員会に設置する作業チームで共通事項の検討を進める。

 こうした論点整理のたたき台(案)について、委員の意見交換が約100分間にわたって行われた。

 溝上慎一・桐蔭学園理事長は「0歳から18歳まで見通した学び、という言葉はとても意義深い。これは決して小学校以降のプログラムを幼児教育に下ろすということではない。子どもが大きくなってから学習課題となることが、幼稚園や保育所の活動にどう関わるのか。その認識を幼児教育の指導者が持つことが大切になる」と述べた。

 鈴木みゆき・國學院大教授(前国立青少年教育振興機構理事長)は青少年の体験活動等に関する意識調査を元に、幼児期の自然体験などがその後の教育に大きな影響を与えると指摘。「幼児期の子どもたちにとって、体験は非常に大切。保育者も子どもたちとともに体験することで変わっていくことができる。ところが、生活困窮度の高い家庭が子育ての中で最初にあきらめるのが、旅行などの体験。就学前の教育で、具体的な体験がいかに大切かを考えれば、地域を含めたさまざまな機関との関わりの中で、子どもたちに体験を与えていくことが幼児教育の充実につながる」と、幼保小の架け橋プログラムを検討する中で幼児期の体験を重視するよう促した。

 平川理恵・広島県教育長は「幼稚園や保育所をみていると、年長になったとたん、遊びからの学びを忘れて、小学校の目線にあわせてしまうところがある。一昔前の生活指導のような架け橋プログラムになってしまうことを大変懸念している。むしろ小学校の方が幼児教育の要素を取り入れてほしいぐらい」と辛口で切り出した。「新しい学習指導要領で個別最適な学びと書いていても、現実には、画一的な一斉授業から小学校はなかなか抜け出せない。不登校は5年間で2倍になっており、子どもの方から学校がボイコットされていると思った方がいい。そこで、この論点整理が目指す方向性の部分には、小学校に対して、着実に新しい学習指導要領に合わせて学びのスタイルを変えていくように、と書いてほしい」と注文を付けた。

 中井澤卓哉・一般社団法人ひとと代表理事(筑波大4年生)は、幼保小の架け橋プログラムについて「小学校教育の前倒しだとか、スタートプランで一斉にやりましょう、と受け取られてしまう背景に何があるのか、もっと敏感になってもいい。そのように受け取られてしまうということは、その人なりのロジックや背景、文脈がある。その人たちの目線に立って、なぜこれが早期教育と受け取られてしまうのか。教師の目線で立つと、どういう文脈の場合に接続とか架け橋が実現されたと感じられるのか。そうした認識をすり合わせていく作業が非常に重要な論点と思う」と述べ、委員会での議論と幼児教育や小学校の現場との認識のギャップを埋める努力が必要との認識を示した。

中教審・幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会
 論点整理のたたき台(案)の主な内容

1.議論の背景
○新型コロナウイルスの感染状況が幼児の生活や学び、各園の教育活動に与える影響を把握しつつ、今後の幼児教育の振興と小学校教育との接続等について議論していきたい。

○幼児教育の振興にあたっては、負担軽減策である幼児教育の無償化とともに、質的な充実も支援していく必要がある。

○幼児教育の質に関する認識が社会的に共有されているとは言いがたいのが現状。

○地域や家庭の環境にかかわらず、全ての幼児に格差なく学びや生活の基盤を保障していくためには、学校種や設置類型の違いを超えて連携・協働し、社会全体で質の高い幼児教育の実現に取り組んでいく必要がある。

2.現状と課題
(1)幼児教育の質に関する認識の共有

○質の高い幼児教育とは何かに関して、いわゆる早期教育や小学校教育の前倒しと誤解されがちであるなど、社会的な認識が共有されているとは言いがたい。身体と感覚・感性を通じた体験が必要な時期であることなど、幼児期の学びの特性を幅広く伝えていくことが必要ではないか。

○遊びを通じた学びの教育的意義や効果が、まだ十分に認識されていない。幼児期の「主体的・対話的で深い学び」について理解を深めていくべきではないか。

(2)発達の段階に応じた特性に配慮しつつ、0~18歳まで見通して学びの連続性を確保するための手だての不足

○幼保小(認定こども園を含む)連携への意識は高まっているが、連携・接続の深まりは地域によって差がある。

○ 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は到達目標として捉えるのではなく、幼児一人一人の発達していく姿を捉え、学びや生活の質を高めていくための、先生方の関わりや環境の構成を改善・充実していくための視点として活用すべき。

○遊びや暮らしの中での気づきから探究へという学びのプロセスが、幼児期に保障され、小学校1年生以降との連携・接続により、小学校の教育活動(スタートカリキュラムの実践を含む)や指導の在り方の改善にもつなげることが重要。

(3)格差なく学びや生活の基盤を育むことの重要性と多様性への配慮

○海外の研究では、幼児期の教育がその後の生涯にわたる学業達成、職業生活、家庭生活等で多面的に影響を与えることが実証的に明らかにされている。

○質の高い幼児教育・保育が子供の望ましい発達と学びに結びついていること、特に恵まれない境遇にある子供において、その傾向が顕著であることを、ますます多くの研究が示している。

○幼児の発達の道筋は個々に目を向ければ異なり、幼児の家庭環境や生活経験は異なる。一人一人の特性と乳児期の経験を踏まえた指導が必要。

○園では個に対応することが全てではなく、日常的な幼児教育・保育の質の向上が支援の土台となる。

○外国人幼児や外国につながる幼児たちへの配慮が必要。日本の学校文化に戸惑う例もあると聞く。

(4)幼児教育の質を保障するために必要な体制

○イギリスなどは統一的な評価尺度を整えているが、多様性が失われるという懸念が示されている。一方で、アメリカなどは、質のばらつきや格差の拡大が懸念されている。わが国では、各園や自治体の多様性と自律性を尊重しながら格差の是正を図ることが必要であり、質保障の仕組みを構築していくことが望ましい。

○複数の施設類型が存在し、私立が多い幼児教育の現場において、人材の専門性の向上等の取り組みを一体的に推進する体制を各自治体で充実させることが必要。

○幼児教育における人材については、免許取得者が他業種へ就職する場合も多い、平均勤続年数が短い、離職者が多いといった課題があり、人材の需要の高止まりに供給が追い付いていない状況。人材確保・キャリアアップ支援の体制が必要。

(5)教育の機会が十分に確保されていない家庭や子供への支援

○教育の質以前の課題として、通園していない幼児がいるなど、教育の機会へのアクセスが十分ではない家庭もある。自分が育てられてきた環境とわが子を育てる環境の違い、核家族化による子育て応援者の不足、地域とのつながりの希薄さにより、親世代が苦しんでいる。社会全体で家庭や子供を支援する必要。

○特別な配慮が必要な幼児(外国人幼児等、障害のある幼児等)への対応も必要。

3.目指す方向性
(1)「社会に開かれた幼児教育カリキュラム」の実現に向けた、幼児教育の質に関する認識の共有

○幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領、保育所保育指針を手掛かりに、幅広い関係者と認識が共有できるよう、あらゆる機会を活用。

○小学校以降のカリキュラムと連携・接続することで、幼児教育カリキュラム自体が社会とつながり、開かれたものとする必要性を共有。

(2)「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」と各園や地域の創意工夫を生かした幼保小の架け橋プログラムの開発・実践

○一人一人の多様性に配慮した上で全ての幼児に学びや生活の基盤を育む「幼保小の架け橋プログラム」の開発・実践を進める必要がある。

○各園や各自治体の創意工夫を生かしたカリキュラムや活動の在り方としてのプログラムが求められる。共通事項を本委員会で整理した上で、具体的な開発は、モデル事業などを通じて各地域主体で行い、その成果を分析しさらなる改善に生かす形が望ましい。

(3)全ての幼児のウェルビーイングを高めるカリキュラムの実現

○日常保育における質の高い幼児教育プログラムを総合的にマネジメントできるよう、先進的な事例の形成・普及などを支援することが望ましい。

○幼児教育におけるカリキュラム・マネジメントの充実を図り、全ての幼児のウェルビーイング(一人一人の多様な幸せ)を高める観点から、教育活動の改善・充実が図られるようにすることが重要。

(4)幼児教育推進体制等の全国展開による、幼児教育の質の保障と専門性の向上

○組織的・計画的な園内研修、施設類型を超えた研修や小学校との合同研修の実施。

○幼児教育推進体制などの全国展開を推進する。

○国や大学のセンターの専門性や、地域の幼児教育センターを活用し、各園や自治体等による格差の是正を図り、幼児教育の質を保障していくための仕組みを構築。

○人材の養成・採用・定着やキャリアアップに必要な取り組みを総合的・効果的に実施。研修について体系化された取り組みが必要。デジタル技術の積極的な活用やICT 環境の整備。

(5)地域における幼児教育施設の役割の認識と関係機関との連携・協働

○各園だけでは対応できない課題については、支援ネットワークや協力リソースのありかを把握し、教育・福祉などの関係機関と連携・協働していくことが重要。

○データの蓄積・活用による支援策の改善。

4 .今後の進め方のイメージ(案)
・「論点整理のたたき台(案)」も踏まえ、目指す方向性を中心として、本委員会でさらに議論を進める。

・「幼保小の架け橋プログラム」の共通事項などの整理および幼児教育の質の保障の仕組みについては、委員長が指名する委員によるチームを編成し集中的に検討した上で、本委員会で議論する。

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