【デルタ株危機】第5波のオンライン授業 1年半の進化

 新型コロナウイルスの第5波の影響が続く中、GIGAスクール構想で整備された1人1台端末を活用して、オンライン授業を始める自治体や学校も増えている。この1年半の間にオンライン授業はどこまで進化したのか。オンライン授業に取り組む学校を取材するとともに、ICT教育の専門家に話を聞いた。

ICT支援員と専用ポータルサイトを構築

 茨城県の南部にある守谷市では、夏休み明けの8月25日から9月12日まで、市内にある13の小中学校全てで、児童生徒は登校せずに全面的にオンラインで授業を受けている。

 同市では、昨年の一斉休校以降、いつでもオンラインによる学習に対応できるように準備を進めてきた。その一つとして、家庭と学校が円滑につながるために、昨年夏から市教委はICT支援員の協力により、グーグル・ワークスペースをベースにしたオンライン授業専用ポータルサイトを構築。今年6月から運用をスタートし、市内の児童生徒、保護者、教員が使用できるようにした。

 このポータルサイトでは、例えば「オンライン授業」のボタンをタップするだけで、健康観察用のページやZoomにつながるページ、宿題を提出するページにアクセスできるなど、小学校低学年でも操作しやすい設計になっている。

 市教委の奈幡正参事は「有事の際の練習は平時に行っておくべきだ。例えばこれまでも授業参観などでポータルサイトを活用するなどしてきた。1年半前の反省を生かし、環境構築だけでなく、オンライン授業をするだけのスキルも研修などを通じて高めてきた」と強調する。

 また、今回のオンライン授業の対応では、基本的に家庭にあるデバイスを活用しているのも特徴だ。同市では小学校低学年は、年内には端末の整備が完了する予定で、9月の時点ではまだ1人1台環境になっていなかったのだ。奈幡参事は「1人に1台の端末を配布すればオンライン授業ができるというわけではない。逆に、ポータルサイトがあれば、デバイスは選ばない」と説明する。

 8月中旬にはポータルサイトを通じて、各家庭のデバイスなどのICT環境を調査。家庭にデバイスやWi-Fiルーターがない場合は貸し出しを行い、今回はデバイスに関しては小学校で約30%、中学校で25%の家庭が貸し出しを希望し、8月25日までにはスムーズに貸し出し作業を終えることができた。

 8月25日から始まったオンライン授業では、最初は全小中学校でZoomによる「朝の会」と「帰りの会」を必ず実施するようにし、午前は学校ごとに3~4コマのオンラインによる授業が行われた。午後は基本的に自学自習の時間として、午前の授業の復習やeラーニングを活用している。

オンライン授業期間中も校内研修で創意工夫
2年生のクラスでは、担任による音楽の授業がオンラインで行われ、児童たちは自宅から歌声を届けた(大井沢小提供)

 同市立大井沢小学校(板谷亜由美校長、児童469人)では、8月25日からZoomの「朝の会」と「帰りの会」からスタートし、子どもたちが操作に慣れてきた8月30日からは、同時双方向型のオンライン授業にも取り組んでいる。

 例えば、2年生の音楽の授業では、担任のオルガン伴奏に合わせて子どもたちが自宅からZoom越しに歌ったり、鍵盤ハーモニカの演奏を行ったりした。

 関亜紀教頭は「すでに低学年でも同時双方向型のオンライン授業ができている。各学年で授業は複数の教員が協力して取り組み、授業を進める先生と、画面で子どもたちの反応を見る先生に役割分担をするなど、思った以上に創意工夫ができている。他にも、学年によっては教科担当を決めて授業を実施して、子どもたちも担任以外の先生の授業も受けられて楽しんでいる」と笑顔を見せる。

 また、同校ではオンライン授業の実施期間中も、複数のデバイスを使ってのオンライン授業のやり方や、グーグルの活用に関する校内研修に取り組んでおり、教員がアイデアを出し合いながらこの状況を乗り越えようとしている。

 関教頭は「本市は早くからICTを授業の中で取り入れてきたので、教員も子どもたちも慣れている。また、普段からICT支援員に相談しやすい環境が整っており、研修など教員が学ぶ機会もたくさんある」と、スムーズに移行できた要因を分析する。

 さらに同校は保護者から「午前中のオンライン授業中に、全体だと発言や質問がしづらい」との声が寄せられたことをきっかけに「学習相談タイム」もスタート。毎週月、水、金曜日の午後2時からの30分間、各クラスの担任がZoomをつないでおり、その日に質問や相談がある児童が入室する仕組みで、複数の児童が希望した場合は、Zoomの待機室で待ってもらうようにし、1対1で担任と相談できるようにした。

 「担任との個別のやりとりを通して、児童や保護者の不安を解消し、心のケアにもつながっている」と関教頭。このオンライン授業への挑戦に、確かな手応えをつかんでいた。

オンラインの一番の目的は子どもたちのケア

 埼玉県の中央部に位置する鴻巣(こうのす)市教委は、8月30日の学校再開にあたり、臨時休校はせずにオンラインを活用して学びを止めないようにするため、市内の全小中学校に対して「緊急事態宣言下におけるICTを活用した学習保障の対応方針」を示した。

 方針では緊急時の学びの保障とともに、平時からICTを活用し、スキルを高めることの大切さを強調。その上で①通常授業形態における登校不安による欠席者がいる場合②短縮授業・分散登校の場合③ある程度の期間を要する休校・学校閉鎖の場合――に分類し、それぞれの場合でのICTの具体的な活用イメージを示している。

 例えば、①の場合は授業の様子を定点カメラで撮影して、欠席者と教室をオンラインでつなぐ方法をイメージとして示している。一方、②や③の場合は学習支援動画の配信を中心とした家庭学習をしながら、学習の補足説明や質問対応、課題の提示・回収、そして朝の会や昼食については、オンラインによる双方向のやりとりを重視する。

 市教委は「オンラインでつながる一番の効果は、子どもたちの気持ちをケアすること」という大きな目的を掲げつつ、インプット(講義)の部分には学習支援動画の活用を推奨する一方、アウトプット(話し合いや発表)の部分ではオンラインによるリアルタイムなつながりを積極的に活用するよう呼び掛けている。

負荷を掛けずに改善を模索
夏休み明けに行われたICTを活用した教育活動に関する教員研修(鴻巣中央小提供)

 同方針を受けて、同市立鴻巣中央小学校(清水励校長、児童372人)では9月2日、市教委から示された資料を基に教員研修を行った。一部の児童とオンラインでつなぐ場合、分散登校で半数ほどの児童とつなぐ場合、全児童が家庭にいる場合を想定して、ICTを活用してどのような教育活動ができるかを教員同士で考えた。

 同校ではすでに、濃厚接触者になり出席停止となった児童や、不安で登校を見合わせている児童に対し、教室と家庭をつなぐ同時双方向型のオンライン授業を実施している。教室内に定点カメラを設置し、黒板の方向を映して配信したところ、児童から「教室よりも集中できる。話も聞きやすく、黒板も見やすい」との反応があったという。

 しかし、分散登校などになった場合は、教室にいる児童と家庭で学習する児童に同時に対応しようとすると「授業を行うための教材研究や教材作りで、かなり教員の負荷が増すと思う」と清水校長は指摘する。また「さまざまなニーズが学校に集まってしまい、教員の責任感と熱意で成り立っている部分がまだまだ多い」とも明かす。

 4年生の担任で、情報教育主任も務める榎原未晃(みあか)教諭は「どの学習にどの機能、どのソフトを使うと分かりやすくなるか、試しながら進めている状況。オンライン授業についても、端末内蔵のカメラよりも別のカメラを付けた方がやりやすいなど、実際にオンライン授業をしながら改善策を見つけている」と話す。

 清水校長は「休校時のオンライン授業は、朝の会に加えて2~3コマ程度とするのが、児童や先生たちにとっても適量ではないか。児童が個人で進める学習の時間とうまく組み合わせながら、オンラインの良さを感じられる授業を行っていきたい」と、教員に過度な負担を掛けず、児童の学びをうまくサポートできる方法を模索する。

 一方で、学習支援動画は昨年度の一斉休校時に作成した経験があることから「活用は可能だと思う」と自信を見せる。「市教委の示した、オンデマンドの学習支援動画とオンラインでの交流による授業は、本校でも取り組んでいきたい授業方法。学校課題研究で、平時の授業の方法として実践的に取り組み、授業法として確立していければ」と話す。

 最初の新型コロナウイルスの感染拡大による一斉休校から1年半。清水校長は「昨年の休校時、ICT活用による児童・家庭とのつながり、学習保障における有効性と必要感を先生方が理解したことや、動画作成の方法などの技術的なスキル習得について『自分もできる』と自信を持てたことが大きかった」と振り返り、「できることから、できる人たちで進めていき、それを無理しすぎず、学校全体の流れにしていくことが大切。無理は続かないし、先生たちが意味や狙いを理解しないことは続かない」と語った。

平常時の活用が非常時に生きる

 感染防止対策として、夏休み明けからオンライン授業に踏み切った学校が増えていることについて、中教審の委員や文科省の「GIGAスクール構想に基づく1人1台端末の円滑な利活用に関する調査協力者会議」の座長代理などを務める堀田龍也東北大学大学院教授は「教員の意識は1年半前の一斉休校の頃とは大きく変わっている。コロナ禍でも子どもたちの学びを止めないために、オンラインでつなぐということだけでなく、教員がこれまで子どもたちに自分で学ぶ力を付けさせていたかを振り返り、授業のやり方を変えることを促している側面もある」と話す。

 一方で、8月30日に文科省が公表した7月末時点での公立小中学校における端末の利活用実態調査では、端末の持ち帰り学習の状況について、非常時に実施できるよう準備済みと回答した小中学校は64.3%、平常時にも実施しているのは25.3%だった(=グラフ)。

端末の持ち帰り学習の実施状況(出所:文科省「端末利活用状況等の実態調査(令和3年7月末時点)(速報値)」)

 「授業で日常的に端末を活用している学校は、この非常時でもオンライン対応がうまくいっている。学校でやり方を教わっているからこそ、自宅でも学習に使える。平常時から使っていないと、いざ非常時にいきなりオンライン授業はできない」と堀田教授。非常時だけ持ち帰りを行うという発想から、できるだけ端末を「普段使い」していく意識に転換する必要があると指摘し、「今は経験値を上げることが大切だ。まだ全員が活用できないからやらないのではなく、やれる学年だけでもいいから挑戦すべきだ。経験しないと分からないことがたくさんある」と強調する。

時間や同時双方向にとらわれず、できるところから

 「1コマの授業の全てを同時双方向でやる必要はない。さまざまなツールやコンテンツも組み合わせながら、効果的なやり方を模索してほしい」

 そう話すのは、中川一史放送大学教授だ。「GIGAスクール構想に基づく1人1台端末の円滑な利活用に関する調査協力者会議」の委員でもある中川教授は、1コマの授業を全てオンラインで行うのは、子どもの集中力や学習内容によっては難しいと指摘。特に第5波で分散登校にしている場合は、学校に来ている子どもたちの感染防止対策とオンライン授業への対応で教員の負担感も大きいことから、まずは時間や同時双方向にとらわれずに、柔軟にできるところから始めることが大切だとアドバイスする。

 例えば、朝の会や帰りの会で、子どもたち全員が顔を合わせてコミュニケーションをすることから始めてもいい。あるいは、自宅で過ごす時間が増えることを生かして、子どもたちが各自で探究学習を進めつつ、教員によるフィードバックやオンライン上での子ども同士の協働学習にチャレンジしてみる絶好の機会にもなるという。

 「GIGAスクール構想は、単に1人に1台の端末が整備されることだけではない。これまでの授業や教員の教え方、学校の在り方を再構築するきっかけになる。今こそ、その可能性を探っていくときだ」と中川教授。ピンチをチャンスに変え、端末を活用することの先にある真のゴールを目指すべきだと強調する。

(【デルタ株危機】特報班)

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