「ICTと生徒指導を包括的に」 小6女児自死、藤川教授に聞く

 昨年11月、東京都町田市の市立小学校6年の女子児童が、同級生からいじめを受けていたという内容の遺書を残して自死したことを巡り、文科省は9月14日、同市教委に遺族に寄り添って対応するよう指導した。学校側が当初、いじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」として対応しなかったことや、GIGAスクール構想で配布されたタブレット端末のチャット機能で児童の悪口が書き込まれたりしたことなどから、不信感を募らせた遺族と学校・市教委との間で深い溝が生じている。学校のICT化が急速に進む中、こうした事態に学校現場はどう対応すべきか。千葉大学教育学部で教育方法学・授業実践開発を専門とし、附属中学校の校長も務める本紙「オピニオン」執筆メンバーの藤川大祐教授に聞いた。

「重大事態」はいじめの可能性の段階で判断すべき

――いじめをうかがわせる遺書を残して昨年11月に女児が亡くなり、市教委が重大事態として対応を始めたのは今年1月以降とされています。この対応について、どう考えますか。

町田市の小6女児自死に関し、対応の問題点や課題について語る藤川教授(Zoomで取材)

 児童が亡くなった原因としていじめの可能性があるなら、その時点で重大事態として対応することはいじめ対応の初歩です。これは「いじめ防止対策推進法」を読めば明らかで、学校側が何に基づいて判断したのか理解に苦しみます。教育行政は基本的に法に基づくことが第一歩ですが、なぜかいじめに関しては恣意的に対応されるケースが多く、埼玉県や福島県、千葉県といった地域の市町村でも同様の事例がありました。構造的な問題があって繰り返されているように思います。

 いじめ問題については、教育委員会で教員出身の指導主事が対応することが多いのですが、そうした指導主事は法令に基づく対応ができない場合があり、現場の教員の肩を持っているとも見られがちですので、こうした問題では中立的な立場で法令を踏まえて対応できる行政職がもう少し関わった方がいいかと思います。

あまりに性善説に立ちすぎている

――学校が配布した端末でもいじめが行われたことが問題視されています。チャット機能で悪口が書き込まれたり、同じパスワードがクラスで使われていたりと、端末の管理の問題も指摘されています。

 ICTの利用を巡っては、積極的に推進する方がいる一方で、SNSに関する問題を懸念して慎重な方もいて、分断されている印象があることが気になっていました。町田市の学校ではICTに先進的に取り組んできましたが、報道を見る限り、あまりに性善説に立ちすぎているようで、子どものICT利用に関わる問題への対策が不十分であったと思います。パスワードは人に教えていけないと教えるのは基礎の基礎で、このようなセキュリティー意識なしにICTを使わせることは本来ありえないはずです。

 また、ICTを使うとよい方向も悪い方向も急加速しますので、利用をスタートする時点で考え方をきちんと共有することが重要です。税金で配布された端末を大切にし、自分たちが学習し成長するためにしっかり使うんだという意識を、共有してほしいと思います。

 これまでSNSの問題は基本的に保護者の責任で持つ端末で行われ、フィルタリングやアプリ制限などを保護者がコントロールできましたが、GIGAスクール構想で配布された端末では、学校がコントロールしないといけなくなりました。学校が持たせた端末でずさんな使われ方をされれば、保護者は割り切れない気持ちになるでしょう。


――チャット機能で悪口が書かれていたことについて、こうしたチャットの使用やログの管理なども、学校が積極的に関与した方がいいのでしょうか。

 チャットをどう扱うかは現場で問題になっています。学習に効果的に使われることもあると思いますが、教師の見えないところでいきなり最初から自由に使わせればトラブルが生じるリスクがあり、無責任です。特に使い始めの段階で、子どもたちは無茶なことをしがちです。大人でさえネットで誹謗(ひぼう)中傷をして問題になっているのに、子どもに何の指導もせずに安全安心に使うと考えるのは根拠がありません。

 ログをどこまで管理するかは難しい面もあります。通信の秘密というのは本来、子どもにもあるので、限られた人たちの間でのチャットについてログを取って教員が見るのであれば、少なくとも子どもや保護者にログを取ることについて同意を得る必要があると考えます。

第三者委員会も遺族の理解を前提に

――既存の調査委員会で調査を進める市教委に対し、遺族が新たな第三者委員会を設置してほしいと求めています。文科省は妥協点を見つけるよう市教委に指導しましたが、これについてはどう考えますか。

 最初にボタンをかけ違うと学校や教委と遺族との信頼関係が得られず、第三者委員会の設置すら難しいケースは結構あります。そうならないためにも、学校や教委担当者はすぐ遺族に寄り添って相談しながら、法律に従って対応することが必要です。 今回のケースは文科省が指導した通りで、改めて遺族に寄り添う基本姿勢を確立して対応する必要があると考えます。町田市の場合は、条例で、重大事態の調査は常設の委員会で行うことにしているようです。しかし、今回は遺族が新たな調査組織を立ち上げることを希望されているので、条例に即さない特例で対応できないか検討する必要があると思います。

 同様の条例が作られている自治体は多いのですが、被害者側が教委を信頼できない場合、教委附属の常設委員会での審査には理解が得られない場合が多いので、被害者側の意向が尊重されやすいように条例を見直す必要があるように思います。

ICT化でいじめ対策もスピードが求められる

――ICT化が進む中で、いじめ問題への対応がより複雑化していると感じます。学校現場ではどう取り組んだらいいのでしょうか。

 繰り返しになりますが、ICTが入ると何でも加速します。いじめも加速してしまいます。そのため、いじめ対策にもスピーディーさが求められるので、学校現場では改めていじめ対策を点検して迅速に対応できるようにしておくことが必要です。

 ICT端末の配布によって学校の責任が重くなったことを受け止め、学校がICT推進と生徒指導とを分けず、両方に包括的に取り組まないといけなくなったことを認識すべきです。ただ、これほど急激にICTが学校に入った経験がないため、どうしたら自由も認めながら問題なく端末を使えるようにするかのノウハウは、まだ確立していないのが現状です。

 初期段階では慎重に機能制限もした上で、ルールやモラルについて子どもたちが中心となって考えられるようにし、徐々に制限を緩和していくなど、子どもたちが参加する形で利用の改善に努められるようにすることが必要だと考えます。

(山田博史)

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