オリパラ教育のレガシー 問われる大会後の成果検証と継承

 1年間の延期を経て、東京2020オリンピック・パラリンピック大会が先日閉幕した。大会期間中は新型コロナウイルスの感染が拡大する中での学校連携観戦の是非が問われたが、大会本番に至るまでに、多くの学校現場ではオリンピック・パラリンピック教育(オリパラ教育)がさまざまな形で実践されてきた。大会が終わった今、改めてオリパラ教育の成果と今後への継承の在り方が問われている。オリパラ教育のレガシーとは何か。関係者に取材した。

一過性で終わらせてはならない

 まずは、国のオリパラ・スポーツ政策のリーダーが東京大会終了後のオリパラ教育をどのように捉えているかを聞いてみた。

 9月10日に開かれた記者会見の場で、東京大会を振り返った室伏広治スポーツ庁長官。多くの学校や自治体で実現しなかった競技観戦は「コロナでなければ多くの児童や学生に見てもらえるチャンスだった。本当に残念だったが、テレビなどを通して応援したことも、教育的な意義は非常に高いと思っている」と話した。その上で、オリパラ教育については「一過性のものにするのではなく、大会後も取り組み事例などを幅広く共有するなどして、学校や自治体と連携して、しっかり支援していきたい」と強調した。

オリパラ教育の意義について話す丸川オリパラ担当相

 また、丸川珠代オリパラ担当相も同日の閣議後会見で、大会の教育的意義について「厳しい状況の中でも子どもたちの心にレガシーを残せたことは、大変に意義がある」と評価。「半年後には冬の北京大会が控えている。ぜひ今回の(東京大会での)気付きや感動をきっかけに(オリパラ教育を)継続していただき、共生社会をつくるという、子どもたちの柔らかい心に生まれた価値観を大事に育てていっていただきたい」と学校現場に向けて呼び掛け、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着けば、海外の参加予定国・地域との直接の交流も復活させていく考えを表明した。

教育はオリパラのソフトレガシーの代表

 今大会の開催都市であった東京都では、2016年度から都内の公立学校で年間35時間のオリパラ教育を実施してきた。オリパラ教育によって▽ボランティアマインド▽障害者理解▽スポーツ志向▽日本人としての自覚と誇り▽豊かな国際感覚――の5つの資質を伸ばすとし、そのために、パラスポーツを通じた特別支援学校と地域の学校の交流などを行う「スマイルプロジェクト」や、オリンピアン・パラリンピアンと子どもたちが交流する「夢・未来プロジェクト」などを実施してきた。

オリンピアン・パラリンピアンと交流する「夢・未来プロジェクト」(東京都江戸川区立大杉第二小学校で、2019年11月26日撮影)

 パラリンピック終了後の9月9日に開かれた都教委の定例会では、大会期間中の取り組みについて報告があり、一部の自治体・学校が参加したパラリンピックの競技観戦における新型コロナウイルスの感染防止対策に加え、競技観戦が直接できなかった学校でも、子どもたちがアスリートを応援するメッセージ動画を作成して、アスリートらと間接的に交流したり、他校とオンラインでつながりながら、テレビで競技観戦を楽しんだりする試みが行われた。

 また、肢体不自由部門、病弱教育部門がある特別支援学校では、仮想現実(VR)を活用して競技会場にいるかのような臨場感を味わいながらの観戦も行われた。

 これらの取り組みについて、都教委の担当者は「直接観戦ができないことへの代替というよりも、子どもたちにさまざまな形で大会に参加する機会を提供した」と説明。その上で「教育はオリパラのソフトレガシーの代表だ。これまでの5年半で各学校では多様な取り組みが行われ、いろいろな人とのつながりやノウハウが蓄積された。この実績を無理のない形で、どう今後に残していくかが重要になる」と話す。

特別支援学校が地域のパラスポーツの拠点に

 「オリパラ教育に取り組むうちに、『自分たちにもできることがある』『頑張ろう』と思う子どもが増え、主体性が育っていると感じる。地域の見る目も変わってきた」

 そう話すのは、千葉県立東金特別支援学校(唐鎌和恵校長、児童生徒143人)の唐鎌校長だ。同校は2018年度から県教委による指定を受けて、オリパラ教育に力を入れてきた。子どもたちの有志による「オリ・パラ推進隊」を結成し、彼らが中心となってさまざまなオリパラ教育の活動を展開。例えば、近隣の小中学校に子どもたちが出掛けていき、ボッチャの講師役として、一緒にプレーを楽しむ「オリパラ・キャラバン」や、夏休みに高校生や地元企業の社員、県庁職員らが参加して行うボッチャ大会「『オリ・パラ』サマーセッションin東金」の司会進行や運営を行ってきた。

 また、同校にあるパラスポーツの用具を近隣の学校に積極的に貸し出すなど、地域のパラスポーツの拠点にもなった。唐鎌校長は「地域の中で、パラスポーツをやりたければ本校に聞こうという雰囲気が定着した。大会は終わったが、地域でいろいろな人がパラスポーツを楽しむ文化を根付かせるためには、これからが本当の勝負だ」と意気込む。

 これらの取り組みが高く評価され、同校は国際パラリンピック委員会(IPC)が設立した、共生社会の実現につながるパラリンピック教育を実践した学校や、パラリンピアンをたたえる「I’mPOSSIBLE アワード」の開催国特別賞に選ばれ、パラリンピック東京大会の閉会式で表彰されることになった。

特別支援学校で行われたバリアフリーVR観戦(都教委提供)

 その一方で、やはり新型コロナウイルスは同校のオリパラ教育にも大きな影響を与えた。昨年や今年は「オリパラ・キャラバン」の開催も難しくなり、「オリ・パラ」サマーセッションはオンライン上で各チームがフープの中に入ったボッチャの数を競う形式に変更して行われた。

 学校観戦も当初予定していたオリンピック観戦は中止となり、パラリンピックの方も推進隊の中で保護者の同意を得られた子どもたちが代表で参加する予定だったが、感染拡大でやむを得ず中止となった。

 「安全であったなら会場で見せてあげたかった」と唐鎌校長。それでも、オリンピックやパラリンピックの聖火リレーを走ることになった同校の子どもたちがいることをメールで伝えるなど、オリパラに関連することをできるだけ多く発信したことで、大会が近づくにつれて校内は大いに盛り上がっていたという。

 「日本でオリンピックやパラリンピックが開かれなければ、オリパラ教育もスタートできなかった。オリパラ教育はどの学校でも取り組める。新たな子どもたちの可能性や持続可能な教育へのきっかけになったのではないか」と話す。

これだけ教育に資金を投じた大会はない

 近代オリンピックの歴史研究が専門で、スポーツ庁の「オリンピック・パラリンピック教育に関する有識者会議」の座長などを務めた真田久筑波大学特命教授は、異例づくしの東京大会について、コロナ禍でも大会をやり遂げられたことや、アスリートが1年間の大会延期という苦難を乗り越えた姿を世界に見せたことは、人類の団結を示せたと高く評価する。

 特にパラリンピックでは、世界人口のおよそ15%は障害やその可能性がある人だということを可視化し、共生社会の実現を訴えるキャンペーン「WeThe15」が打ち出されたことで、より強いメッセージを発信することに成功したと指摘。「日本でも多くの子どもたちが、パラリンピック教育の一環でボッチャやブラインドサッカーなどのパラスポーツを体験した。スポーツを通じて、共生社会の実現や多様性への理解が進んだ」と話す。

 「東京大会を通じて、学校へのオリパラ教育だけでなく、スポーツに携わる人材を世界に送り出すことでも日本は貢献している。これだけ教育に資金を投じた大会はこれまでなかった。5年後、10年後にこうした教育を受けた人が社会をどう発展させていくか、しっかり検証していく必要がある」と真田教授。オリパラ教育の継続でも、これらの成果も捉えていきながら、実践の継続を希望する学校には予算面で支援をし、好事例を発信していくなどの仕組みを国として整備すべきだと提言する。

(藤井孝良)

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