コロナ禍のICT活用「日本の弱さが露呈」 OECD局長

 経済協力開発機構(OECD)は9月16日、世界各国の教育を巡るデータを比較した報告書『図表でみる教育2021年版(Education at a Glance 2021)』を公表した。内容を説明したアンドレアス・シュライヒャー教育スキル局長は、新型コロナウイルスの感染拡大が日本の教育に与えた影響について、「公平性という意味では、世界の他の国よりもいい状態にある」と総括。一方で、日本の学校現場でのICT活用が国際的にみて遅れていることから、「パンデミックによって、日本の教育システムの弱さが露呈された。教育にテクノロジーをどのように統合させるかが問われている」と指摘した。

 図表でみる教育2021年版は、コロナ禍によって、教育における不公平や不平等が世界的に拡大していることから、公平や平等に焦点をあてて報告をまとめた。

『図表でみる教育2021年版』を説明するアンドレアス・シュライヒャー・OECD教育スキル局長

 シュライヒャー局長は同日、日本人記者向けにオンラインで説明会を開き、コロナ禍における日本の教育を世界各国と比較した上で、コロナ対策で初等中等教育への予算が増額されたことなどから、「不利な状況に置かれている人に対して、公平に教育の機会が与えられている」と評価。同時に「教育とその成果を巡る男女の格差解消という点では、日本は遅れている」と説明した。

 報告書によると、専攻分野別にみた高等教育入学者の分布で、男女間に著しい差異が見られる。STEM領域とされる自然科学、技術、工学、数学を専攻する女性は世界各国で少ないが、日本は特に少ない。2019年時点で、高等教育新規入学者で工学、製造、建築を専攻する学生のうち、女性が占める割合は16%だけで、OECD加盟国で最も低かった。一方、教育分野では、新規入学者の71%を女性が占めた。

 日本の社会的な平等について、シュライヒャー局長は生徒の学習到達度調査(PISA)のデータを踏まえ、「日本は、社会的な地位と学歴の相関関係を打ち破るという意味では、他の国々よりもよい成果をあげている」と評価。ただ、社会経済的な状況が下から25%の区分に属する家庭の子どもたちが、6段階に分かれた習熟度でレベル2までを達成できる割合は、経済的にゆとりのある家庭の子どもに比べて20%低いことがPISAのデータから読み取れるとして、「日本でも貧富の格差、社会的地位の格差によるギャップはかなり大きなものが残っている」とも指摘した。

 報告書では、新型コロナウイルス感染症が世界の教育に与えた影響について、「2021年時点でも依然、世界中の多くの国々で対面での教育活動の実施が難しい状況にある。2020年の初めから2021年5月中旬までの間に、37のOECD加盟とパートナー諸国が複数回の休校措置を取っている」と紹介。こうした世界各国と比べ、日本では全国一斉休校は2020年3月の約3週間にとどまったと指摘。「2021年時点で、日本は全ての初等・中等教育機関(一部の職業課程を除く)が完全に活動を再開した状態にある数少ない国の1つである」と、高く評価した。

 また、社会経済的に不利な立場にある児童生徒に対して、日本を含めた13カ国が追加資金を投入し、必要な教育のリソースを確保した、と説明。日本が小中学校の児童生徒の家庭学習を支援するため、インターネット端末を持たない家庭へのモバイルルーターの配布や、低所得世帯への通信費助成といった取り組みを実施したことを紹介した。

 こうした日本の対応を評価した一方、コロナ禍における日本の学校現場でのICT活用について、質問に答えたシュライヒャー局長は「パンデミックによって、日本の教育システムの弱さが露呈された。教育にテクノロジーをどのように統合させるかが問われている」と指摘。日本は、2018年実施のPISAで、学校現場におけるICT活用が参加79カ国・地域の中で最も遅れていたことを踏まえ、「(GIGAスクール構想によって)確かにハードウエアの整備は改善がかなり進んでいる。けれども、学習にICTを統合するという意味では、日本はまだ遅れている。日本はハイテクの国ではあるが、教育システムではまだローテクだと言わざるを得ない」と、厳しい見方を示した。
 
 さらにICT活用の必要性について「テクノロジーを使ったからといって、学習が向上する保証はない。しかしながら、学習をより意味のあるものにする、きめ細かいものにする、より双方向性のあるものにする方法の一つとして、テクノロジーがあると思う。生徒たちは、ただ単に教員が実験をするところを黙って見ているだけではなく、バーチャルな研究室で一緒に実験することもテクノロジーを使えば可能になってくる。テクノロジーを使うことによって、よりよい教育を提供できる機会はたくさんあるはず」と強調。

 日本の学校現場が抱える課題について、「(ICT活用は)ハードウエアの話ではなく、教育の概念に関わるものだ。教員がいかにテクノロジーを教育の実践に取り込んで、統合していくか。それをやる意思がどれくらい教員にあるか、にかかってくる。これは大きなチャレンジになる。長期に及ぶ、かなりの努力が必要であり、一夜にしてできることではないだろう」と述べ、GIGAスクール構想で整備された1人1台端末などのハード環境をどこまで学校教育の実践に生かせるかが重要だとの見方を示した。

 報告書ではまた、日本の就学前教育について、私費負担で賄われている割合が世界各国に比べて高い、と指摘した。それによると、日本では10人中7人以上の子どもが私立機関に在籍しており、2018年時点で就学前教育機関における総支出の48%が私費負担によって賄われた。これはOECD 加盟国の中で最も高い割合で、OECD平均17%の倍以上に当たる。ただ、これは19年10月から幼児教育・保育の無償化がスタートする以前の数字となっている。

 これに関連してシュライヒャー局長は「幼児教育と学校教育の間のつながりをよりスムーズにすることが大事だ。いま日本では、幼児段階は保育が中心で、学校に上がると勉強が中心になるので、その間にブレーク(断絶)がある。幼児教育に教育的な要素を導入して、社会、情緒、認知の能力をつけ、その上で学校に進んだときに勉強をするというような、漸進的な移行ができることがいい」と述べた。

 国内総生産(GDP)に占める教育支出の割合では、日本は引き続き、OECD加盟国で最も低い下位25%のグループに入っている。18年時点で、OECD加盟国の平均でGDPの4.9%が初等から高等教育段階の教育支出に充てられたが、日本では4%だった。

 日本の教員の勤務時間数はOECD加盟国平均をやや上回った。日本の場合、前期中等教育段階(中学校に相当)では、教員の法定勤務時間数の36%が授業に充てられており、OECD加盟国平均の44%でより少ない。授業時間数が相対的に少ないのに、教員の勤務時間数が多い理由について、報告書では、「日本の教員は勤務時間内に授業計画や準備、採点や保護者対応など、さまざまな教育活動に従事するためだ」と指摘した。

 これについて、シュライヒャー局長は「教員が授業以外に時間を費やしていることは、日本の教育の強みだと思っている。日本の教員は教室の中で教えるだけではなく、教室外で子どもたちと関わり、他の教員とイノベーティブな教え方を共有することは大変重要だ。ただ、事務的な作業をしなければならないとか、採点にかなり時間がかかるのは、時間の無駄だと思う」と説明した。

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