ICTで広がる特別支援教育 「超福祉の学校」で実践発表

 これからの共生社会の実現に向けた障害者の学びを考えるイベント「超福祉の学校@SHIBUYA」(ピープルデザイン研究所主催、文科省、東京都渋谷区共催)が9月18、19日にオンラインで開催され、障害のある当事者や教育関係者による、ICTを活用して特別支援教育の可能性を拡張する試みなどが紹介された。

 初日のプログラム「【障害×テクノロジー】支援学校等の児童生徒のテクノロジーを活用した社会参加」では、障害者の社会参画や特別支援教育の現場を支援している社会起業家や研究者が登壇した。

 2017年にさまざまなスポットなどのバリアフリー情報をユーザーが蓄積・共有できるアプリ「WheeLog!(ウィーログ)」の配信を始めた織田友理子WheeLog代表理事は、特別支援学校での教員研修や教育実習などでウィーログを活用している事例を紹介。進行性の筋疾患「遠位型ミオパチー」で自身も車椅子で生活する織田代表理事は「ウィーログでいろいろな可能性に気付く。もっと学校と連携したい。障害者としてではなく、その人を理解していくことになる。体験することで自分事になる。こうした取り組みを特別支援学校で広げてほしい」と話した。

 ウィーログの開発にも協力した伊藤史人島根大学総合理工学研究科助教は、視線入力を応用したゲームなどで、重度障害児やコミュニケーション障害児であっても学習ができると強調。その上で「テクノロジーがあって方法があったとしても、それがなされない現状がある。支援者である教員が、その子の可能性を信じないと何もならない。教員の『パソコンは苦手』という言い訳が、子どもの可能性を殺している」と、特別支援学校の教員の意識改革を求めた。

アプリを使って人前で話すことへの苦手意識を克服した佐々木さん(YouTubeで取材)

 2日目に開かれた「【障害×ICT】特別支援教育におけるICTの活用 ~学びそして自立へ~」というプログラムでは、障害のある子どもたちの生活や学習を支援する研究の一環で、ソフトバンクと東京大学先端科学技術研究センターが特別支援学校にタブレット端末などを1年間無償貸与する「魔法のプロジェクト」の事例を紹介。神奈川県立平塚養護学校の児山(こやま)卓史教諭と、同プロジェクトの対象者で昨年度に同校を卒業した佐々木景都(ひろと)さんが、ICTを活用してどのように佐々木さんの課題を改善していったかを発表した。

 人前で話すことが苦手で、外出に不安を感じていた佐々木さんに対し、情報科の教員として関わった児山教諭は、タブレット端末のプレゼンテーションアプリや音声入力を活用して毎日、朝の会で今日の天気や過去のその日の出来事についてスピーチする練習を始めた。最初は「えーっと」「何だっけ」など、言葉が詰まることの多かった佐々木さんだったが、録音したスピーチを聞き直して振り返ったり、川柳を音声入力で正確な文章に変換したりする特訓を積み重ねるうちに、スムーズに話ができるようになった。

 また、ちょうど就職後の移動を考慮して電動車椅子を使い始めたこともあって、積極的に外に出るようになり、自身の経験から、学校の代表として行政に車椅子でも利用しやすい路線バスの在り方を提案するなど、主体的に情報を発信するようになった。現在は地元の農業協同組合で事務の仕事をしている佐々木さんは、職場での仕事について動画で紹介しながら、「コロナが収束したら、新幹線や飛行機に乗っていろいろな県を旅してみたい。おいしいものを食べたり、その県の魅力をYouTubeで発信したりしていきたい」と語った。

 児山教諭は「授業では、佐々木さんよりも話しにくい生徒がいるが、(プレゼンテーションアプリの)キーノートに写真を張り付けるだけでも、どんどん言葉が出てくる」と、個々の子どもに応じてICTを活用していくことで、学びの可能性が広がることを強調した。

 実践発表を聞いた文科省初等中等教育局特別支援教育課の菅野和彦特別支援教育調査官(肢体不自由教育担当)は「佐々木さんが学校教育の中で学んだことを、卒業後も最大限に生かしていてうれしく思った。自分で働いて得たお金を趣味に使うなど、本当に豊かに生きている。情報機器はアップデートされていて、(ICT環境の)状況が変わる中で、サポートできる社会づくりが必要だ」と指摘した。

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