外国につながりのある高校生 日本語指導だけではない壁


 外国につながりのある児童生徒の増加に対応するため、文科省の「高等学校における日本語指導の在り方に関する検討会議」は9月22日、日本語指導の必要な生徒に対して、高校が「特別の教育課程」を設けて、取り出し授業などを可能とする報告書を取りまとめた。しかし、外国につながりのある生徒が直面している壁は、日本語の問題だけにとどまらない。高校の教員らは、彼らとどう向き合い、どんな課題を感じているのか。外国につながりのある生徒が多く在籍する高校現場の取材を通して浮かび上がったのは、受け入れる日本の社会の側の変革だ。

日本語指導のできる教員の養成・採用が課題

 神奈川県の中央部に位置する県立座間総合高校の入試では、原則として来日してから3年以内の生徒を対象にした在県外国人等特別募集枠が設けられ、毎年10人ほどの外国籍の生徒が入学する。この生徒たち以外でも、外国にルーツのある生徒が60~70人を占めるなど、国際色豊かな学校だ。かつてはベトナムや中国出身の生徒が多かったが、近年はスリランカやインドネシアなど、ルーツも多国籍になっているという。

 この特別募集枠を導入している県立高校は、同校を含めて県内に13校あり、入試問題にルビが振られ、試験時間も1.5倍になる。同校ではさらに、合格後に教科ごとにプレイスメントテストと呼ばれる日本語能力の診断テストが行われる。作文や教科書の音読などから、各教科の授業内容をどれくらい理解できるかや、個別の取り出し授業の必要性などを判断。さらに在籍していた中学校や日本語のフリースクールなどに問い合わせ、学校での様子や家庭環境なども把握し、1人1人に合った支援を検討しているという。

座間総合高校で行われている日本語指導(同校提供)

 同校では英語や体育などの一部の教科を除き、取り出し授業に対応しているが、1年生の途中から取り出し授業をしなくてもよくなる生徒もいれば、3年生になっても一部の教科で取り出し授業を続ける必要がある生徒もいるなど、生徒の日本語能力の習熟には差がある。こうした外国籍の生徒への対応のため、同校には教員の加配が行われており、取り出し授業への対応を考慮して時間割を組む必要もある。

 文科省の「高等学校における日本語指導の在り方に関する検討会議」で委員を務める額田豊一校長は「中には外国籍の生徒への指導を初めて経験する教員もいるが、少人数でゆっくりやさしい日本語で説明しながら、ちゃんと理解できたか丁寧に確認して進めていくので、教員の指導力の面でも勉強になっている」と話す。

 さらに、入学したばかりの1年生は、週3日、放課後に1時間半の日本語補習の時間を設け、日本語指導の資格を持った学習支援員が体系的に日本語を教える体制を整えている。2年生以降も希望すれば補習を受けることができるが、学校設定科目でもレベル別に日本語を学べるようにすることで対応している。

 日本語指導が必要な生徒に対して、高校が「特別の教育課程」を設けられるようにすることを求めた検討会議の報告書について、額田校長は「『特別の教育課程』にこうした補習を移すことができれば、単位にも認定されるので、2年生以降に設置されている日本語に関する学校設定科目と組み合わせ、より柔軟に対応できるようになる。単位になれば、生徒のモチベーションも上がる」と期待する。

 一方で、現状の補習で日本語指導を行う学習支援員は、教員免許が必須でなくてもよいが、「特別の教育課程」で単位として認められるには、教員免許を持った教員が指導に当たる必要がある。「日本語指導の資格を取るためのハードルは高く、日本語指導ができる教員は高校現場に多くない。どうやって養成や採用をしていくかが課題だ」と額田校長は指摘する。

 検討会議の議論では、日本語指導が必要な生徒は、他の生徒と比べて高校を中退する割合が高いことも課題の一つに挙げられていた。

 額田校長は「国際理解教育に力を入れている本校には国際交流委員会があり、外国につながりのある生徒の歓迎会を毎年したり、先輩が経験談を語ったりしている。外国につながりのある生徒も日本の生徒も一緒になって活動し、仲間がたくさんいるので孤立感はあまりない。ただ、全ての高校でそれができるかと言えばそうではない」と話す。

 その上で「日本は人口減少社会を迎え、外国人に社会の一員になってもらわないと立ち行かなくなる。外国につながりのある生徒の高校での学びをしっかり保障し、その先の進学や就職につなげることが重要だ。本校に着任する教員は、外国につながる生徒の多さに最初は驚くが、半月もすれば慣れてしまう。外国につながりのある子どもと一緒に学ぶことが当たり前になれば、社会の意識も変わるはずだ」と強調する。

進路保障ができないジレンマ

 「授業の内容をどこまで理解できるか、日本語指導が必要かなどは、各教員が経験などを基に見極めている。できれば中学校卒業時点での日本語能力について、客観的な指標が欲しい」

 そう話すのは、東京都立飛鳥高校の東達康(あずま・みちよし)副校長だ。同校では全日制課程で半分近く、定時制課程では6~7割が外国につながりのある生徒だ。特に定時制課程には、夜間中学で学んでいた生徒や来日して間もない生徒が多く在籍し、日本語指導のニーズは高い。同校では、日本語を学べる学校設定科目や始業前・放課後の取り出し授業を行っているが、アルバイトをしながら家計を支えている生徒も多いため、なかなか日本語の習得に身を入れることができないのが悩みだ。

 そんな同校では、昨年度からカタリバが外国につながりのある高校生を支援する「ROOTSプロジェクト」と連携した授業をスタート。年間を通じて、外国につながりのある生徒のキャリア実現に向けたアドバイスや日本の生徒との相互理解のプログラムを実施し、必要に応じてオンラインでの面談などにも対応している。

カタリバと飛鳥高校定時制が連携して取り組む授業(カタリバ提供)

 また、同校では教員志望の大学生を日本語指導の補助員として受け入れており、こうした外部との連携について東副校長は「学校ではマンパワーに限界があるので、こうした外部のサポートはありがたい。学校のカリキュラムだけでは生徒の視野は広がらないので、民間や外部の人材が来ることで、教員自身も勉強になる」と話す。

 校内を歩くと、さまざまな国の言語が併記された掲示物を目にする。学校からのお知らせには、漢字に全て振り仮名があり、学校図書館にはさまざまな言語に対応した辞書や翻訳された日本の書籍などが並ぶ。「教員は、生徒の休みが増えたらすぐに電話で家庭と連絡を取るし、最初は言語が分からないと多言語翻訳機を使うが、次第に距離が縮まると、あいさつや身ぶり手ぶりでコミュニケーションする姿がみられる」と東副校長。こうした教員の面倒見の良さのおかげで、外国につながる生徒の中退率は低いという。

さまざまな言語が併記されている飛鳥高校の掲示物

 しかし、課題もある。その一つが進路で、大学では外国につながりのある生徒を優先的に受け入れる枠があるところは極めて少なく、家庭の経済的な負担も大きい。また、就職では在留資格の変更手続きを必要とする場合などもあり、就職後の日本語指導のサポートなど、企業の受け入れ態勢も十分とは言えないのが現状だ。

 東副校長は「日本では法的整備が追い付いていないため、進路の保障ができないジレンマを抱えている。外国につながりのある生徒の潜在能力は、これからの日本にとって必要不可欠。企業や大学、専門学校で彼らが活躍できれば、日本の社会構造を大きく変えるはずだ」と指摘。

 日本語指導のための特別の教育課程が開設できるようになったことは「入り口が少し開いただけに過ぎない。これからカリキュラムを含め、新しい学校をつくるくらいの意識が必要だ。国籍などで区別しない、本当の多文化共生の実現が学校現場に求められる」と話す。

(藤井孝良)

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