高校部活動のキーパーソン マネージャーが持つ可能性

 スポーツに打ち込んだ高校生が、その成果を発揮する全国高等学校総合体育大会(インターハイ)や全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)。しかし、部活動の当事者として活躍しているのは、選手や指導者だけではない。今、部活動を活性化させるキーパーソンとして、マネージャーの存在に注目が集まっている。マネージャーを軸とした部活動の可能性にスポットライトを当てた新たな動きを取材した。

マネージャーというポジション

 インターハイや夏の甲子園が盛り上がっている傍らで、100人近くのマネージャーや部活動顧問などが集まる初のイベント「全国マネージャー応援部」が8月21日、オンラインで開かれた。企画を立ち上げたのは、スポーツトレーナーの西山崇子さん。西山さんは選手のやる気を引き出す声掛けの技術「PEP TALK(ペップトーク)」の講師でもあり、部活動のメンタルサポートや研修に関わるうちに、いろいろな顧問が「マネージャーに助けられている」と話していることに気付き、部活動におけるマネージャーの存在に興味を持ったという。

 この日のイベントは西山さんによるペップトークの解説だけでなく、脳科学と心理学に基づいてプラス思考を強化する「スーパーブレイントレーニング(SBT)」のポイントや、大事な試合の前に各選手の好プレーシーンなどの動画を見せ、気持ちを高める「モチベーションビデオ」の作り方など、半日のプログラムにも関わらず盛りだくさんの内容。元バレーボール女子日本代表の斎藤真由美さんや、サッカーJ1のサンフレッチェ広島でトップマネージャーを務めていた浅津伸行さんらもゲストとして登場した。

全国のマネージャーが集まった「全国マネージャー応援部」(Zoomで取材)

 SBTのメンタルコーチ資格を持つ高木美賀さんは、SBTに関する講義の中で、マネージャーは「他喜力」を持っていると強調。他人を喜ばせたい、助けたいという思いを強く持ったマネージャーが関わることで、選手は感謝や使命感を抱くようになり、より高いパフォーマンスを発揮できるとし、「それぞれの選手のポジションに役割があるように、マネージャーというポジションがある」と力説した。

 こうした「他喜力」をより相手に伝わりやすくするスキルがペップトークだ。西山さんはペップトークの基本構造は①受容(事実の受け入れ)②承認(捉え方の変換)③行動(してほしい変換)④激励(背中の一押し)――だと解説。「つい『ミスするな』などと言いがちだが、脳は最初に入ってきた言葉に反応し、肯定形と否定形を区別できない。『ミスしないで』と言えば頭の中でミスばかり考えてしまう。ネガティブな結果はネガティブな結果に、ポジティブな結果はポジティブな結果につながる。だから『大事な場面、しっかり決めていこう』という言葉に置き換える。思い込みをプラスの言葉に直していくことがポイントだ」とアドバイスした。

 また、ゲストの浅津さんは、所属するサンフレッチェ広島が絶不調でJ2の降格が決まってしまった試合の後、当時は対戦相手の選手だった森保一・日本代表監督兼東京オリンピックサッカー日本代表監督に掛けられた言葉を紹介。「『今のチームの状況はきつい。お前が笑顔でなければ選手はもっときつい。だからいつも笑顔でいろよ』と。試合が終わって選手がロッカールームに戻ってくる。そんなときにマネージャーが選手と同じような顔をしていたら、一緒に暗くなってしまう。それ以来、試合前、試合後、練習中、移動のとき、常に笑顔でいようと思った。負けたときこそ笑顔でいる。監督は責任を持っている。選手も責任がある。でもマネージャーは勝っても負けても笑顔でいい」と振り返った。

 「全国マネージャー応援部」は、今後も定期的にマネージャーの仕事に役立つさまざまな講習会を開いていく予定だという。「マネージャーは影の存在だが、全国に同じ経験や悩みを抱えている仲間がいることを知ってほしい。気軽にマネージャー同士が相談し合えるコミュニティーになれば」と西山さんは期待を寄せる。

3年間考え続けた理想のマネージャー

 「選手に水を渡すときも『この子は冷たい水が苦手』など、いろいろなことを頭に入れて気を遣っている。ただの雑用係じゃない。何気ない仕事の一つ一つに意味があり、やりがいがある」

 そう振り返るのは島根県立津和野高校の硬式野球部で、この夏までマネージャーを務めていた3年生の松浦幸美さんだ。

 「マネージャーとは何だろう」

 マネージャーの仕事をするうちに、そんな疑問が湧いた松浦さんは昨年度、校内のいろいろな部活動のマネージャーが集まり、話し合う場をつくったのをきっかけに、県内の高校に参加を募り「マネージャーサミット」を開催。その成果をカタリバ主催の「全国高校生MY PROJECT AWARD2020」で発表した。さらに春休みには、SNSで呼び掛けて「全国マネージャーサミット」をオンラインで開いた。

 地域も競技も違う部活動のマネージャーと意見交換するうちに、さまざまな悩みや共通点が見えてきた。「選手の体調を把握するために、毎日練習が始まる前に選手と1対1で話す時間をつくっていると聞いて驚いた」と、マネージャー仲間の実践から新しい気付きも得た。この言葉を意識して、松浦さんもずっと心を開いてくれなかった選手に毎日声を掛け続けたところ、最後はいろいろな相談をしてもらえるような関係をつくれたという。

 看護師になる夢をかなえるための受験勉強の合間を縫って、松浦さんは今でもSNSを通じて全国のマネージャーにアンケートを取りながら、マネージャーとしての成長ややりがいについて考え続けている。この春には1年生に待望のマネージャーが入り、ときどき手伝いに顔を出すこともある。「マネージャーサミットも、できればその子にバトンを託したい。だけど、マネージャーの仕事に慣れて落ち着くまで、もうちょっと待ってから」と、松浦さんは自分が同じ1年生マネージャーだったころを重ねながら、後輩の成長を見守る。

 松浦さんの学年はたまたま、部員が松浦さんともう1人の選手しかいなかったため、最上級生になると松浦さんは副キャプテンに抜てきされた。「キャプテンは優しい性格だから、プレーで引っ張ってもらって、普段は私が言うべきところを言わないとと思った。でも、マネージャーでもあるから、私が怒ったら選手の気持ちの行き場がなくなってしまう」と、チームの中の立ち位置に悩んだこともあった。

マネージャーの仕事について問い続け、実践してきた松浦さん(手前、津和野高校提供)

 そこで松浦さんは、部員が交代でつづっている「野球ノート」に、今チームとしてできていないことや良くなっていることを、マネージャーの視点で、言葉を一つ一つ選びながら丁寧に発信していくことにした。

 そして迎えた最後の夏。県予選が始まるのを前に、松浦さんは「野球ノート」に、こんな一言を添えた。

 「私にもう1回、ノートを回してください」

 次の試合に勝てば、もう一度、松浦さんにノートの順番が回ってくる。選手ではない松浦さんがあえて遠回しに「勝ちたい」という思いを込めた変化球は、部員の気持ちを一つにした。勢いのある相手チームとは一進一退の攻防。実力伯仲の好ゲームは、キャプテンのヒットも飛び出して8回に逆転し、3対2の接戦をものにした。ゲームセットの瞬間、監督が松浦さんにそっと手を差し伸べて言葉を掛けた。

 「よく頑張ったな」

 マネージャーとして、松浦さんは選手が練習について感じていることを監督に伝えたり、逆に監督の考えている選手の課題を、その選手にそれとなく話したりする仲介役になることがしばしばあった。監督と選手が直接話し合うと関係性がこじれてしまうようなことも、マネージャーが間に入るとうまく浸透し、チームの問題が解決することもあった。

 マネージャーの仕事とは何か。この質問に松浦さんはこう答えた。

 「選手はときどき、チーム全体が見えていないことがある。組織として部活動を回す。それが私の考えるマネジメント。そしてマネージャーは、選手に寄り沿い、一番信じて応援し続ける存在。それがマネージャーの理想像」

(藤井孝良)

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