「〇〇教育」でカリキュラム過積載 解決への道筋を探る

 学校教育の根幹となる学習指導要領のこれからを考えるイベントが10月3日、オンラインで開かれた。外国語やプログラミングなど新たな「〇〇教育」が追加される一方、既存の内容の削減がなされず、カリキュラムが過積載となる「カリキュラム・オーバーロード」についての問題提起がなされた。イベントではその解決策など、今後の学習指導要領の在り方についての活発な議論が交わされた。

 登壇したのは、野田敦敬・愛知教育大学長、田村学・國學院大教授、常盤豊・元国立教育政策研究所所長、奈須正裕・上智大教授ら。奈須教授は「新たな教育内容がカリキュラムに入ってくるのは、実際的な要求によることが多い。それが社会の変化によって不要になったり、価値が低下したりしても、一般的な能力の涵養や教養的意義が主張され、カリキュラム内にとどめられる」と、カリキュラム・オーバーロードの背景を説明した。

今回のイベントでメインの司会を務めた田村学・國學院大教授(オンラインで取材)

 そうした原理を踏まえ、「『何を知っているか』という内容を基盤としたコンテンツ・ベースの学力論ではもはや、解消は難しい。『どのような問題解決を現に成し遂げるか』という資質・能力、対象や場面と適切に関われる有能さを重視するコンピテンシー・ベースで考えるべき。知識は多い方がよいが、知識の量が増えれば増えるほど、問題解決がより良いものになるとは限らない。知識の質の向上や思考力・判断力の拡充を、限られたリソース上でどう最適化するかが、カリキュラム・メーキングの基本戦略だ」と述べた。

 それを踏まえ、「個々のコンテンツをバラバラに列挙する授業ではなく、個々のコンテンツを集約的に整理できるような教科の本質、つまり学習指導要領でいう『見方・考え方』を明示して、子供が『結局、この教科の勉強では、これが大事なのだ』『ここさえ押さえれば、だいたい分かる』と感得できるようにすることが重要だ」と指摘。「こうした教科の本質を体得するのに必要十分なコンテンツは何か、という観点から、減らすものは減らしつつ、欠けているものはないかを点検する必要がある」と提言した。

 これに対し常盤元所長は「カリキュラム・オーバーロードは量の問題。それを打開するには質を考えなければいけない。質を支える枠組みをしっかりと組み立てることによって、そこに学習内容を位置付けていけば、必要十分なものが自然に落ち着いていくということだと受け止めた。こうした構造的な理解をするべきだ、という点には賛成だ」と応じた。

教職の魅力向上を訴えた野田敦敬・愛知教育大学長(オンラインで取材)

 参加した教育関係者からは「現場では教科書を使って授業をしていくのが現実的。それが減らないと、現場として苦しいというのが正直なところだ」という声も聞かれた。それに対し、奈須教授は「教科書を薄くしても、かえって丁寧に網羅的に教えようとするはずで、教科書の位置付けを変えなければいけないと思っている。米国などではリソースブックとして使い、はなから全ページ教えようとしない。日本でもむしろ、教科書を分厚くしてみては」と応じた。

 奈須教授はまた「教科書が来たら右から左へ教えるというのが間違いで、根本的に大事なのは、教科書をベースにカリキュラムを作れるかということだ」と指摘。こうした議論を受け、司会を務めた田村教授は「学習指導要領の未来を作るのは文科省でも教育委員会でも有識者でもなく、教室で実践している先生方一人一人の、日々の授業の積み重ねだ」と締めくくった。

 同イベントは、野田学長と田村教授の編著『学習指導要領の未来』(学事出版)の出版を受けて開催。野田学長は「小学校教員採用試験の倍率が低下し、教職の魅力が薄れている。どんなに素晴らしい教育課程を作っても、最前線で子供と向き合い、探究を支える教職が魅力あるものでなければ、絵に描いた餅になる。教職は創造的、発展的な仕事であることを認めて支え、社会全体で教職の魅力を共創できるかが、未来の教育を充実・発展させる鍵になる」と述べた。

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