民間連携で変わる高校の就職指導 教員の負担軽減にも

 高校現場で教員の負担が大きいとされる進路指導が、民間企業との連携で新たな動きをみせている。生徒が就職を希望する場合、求人票の管理から面接指導まで、教員にはさまざまな業務が一気に押し寄せ、本来であれば最も力を入れなければならないキャリア教育の時間が十分に取れないまま、生徒を社会に出してしまうことも珍しくない。そこに民間企業が関わることにより、生徒にとって選択肢が広がるとともに、教員の働き方改革にもつながる動きが起きている。長年の慣行から抜け出せなかった高校の就職指導が変わるきっかけになるのか。模索を始めた現場を取材した。

求人票の電子化で就職指導が変わる

 就職希望者が多い高校で、大きな負担となる事務作業の筆頭に挙がるのは、企業から送られてくる紙の求人票の管理ではないだろうか。

 「索引のない電話帳を毎年必死になって作っている」

 埼玉県立川越初雁高校の上田祥子教諭は、その作業をこう表現する。

 例年、4割ほどの生徒が地元企業などに就職する同校では、7月に入ると2000件近くの求人票が郵送やファクスなどで次々届く。すると、進路指導担当の教員や3年生を担当する教員が総がかりでそれらの情報を表計算ソフトに入力し、さらに求人票に通し番号を付けて業種別の冊子を作成。ただでさえ成績処理などで忙しい学期末だというのに、この作業に20~30時間もの労働時間が割かれていたという。

川越初雁高校で膨大な手間と時間をかけて作成していた求人票の冊子

 この課題に着目したのが、企業の採用活動で使われるウェブ面接システムを提供しているIT企業のスタジアムだ。同社では紙の求人票を一括で電子化し、高校に届いた求人票を自動でファイリングするシステム「Handy進路指導室」を開発。川越初雁高校で試験導入したところ、求人票の電子化作業は進路指導担当の教員だけの手で、わずか2~3時間程度で完了。大幅な業務量の削減につながった。

 さらに、求人票を電子化した効果は教員の働き方改革だけにとどまらなかった。その一つが、システム上で生徒がスマートフォンなどから求人票の情報を閲覧できるようにしたことだ。「生徒が求人票を自宅から見ることもでき、家族と話し合ったり、いろいろな企業の情報を見比べたりと、生徒にとって選択肢が増えたことは大きい」と上田教諭。共に同校の進路指導部で就職を担当する池田美友貴教諭も「将来的に膨大な中から必要な情報を検索でき、生徒がどの求人を見ているかも教員側でチェックできるようになれば」と、閲覧データを活用して個々の生徒に合わせた指導につながることに期待を寄せる。

求人票を一覧で管理できるHANDY進路指導室のイメージ(スタジアム提供)

 これまでは、部数も限られていた冊子から行きたい企業を探さなければならなかったために、一つの企業の情報を入手するだけでも膨大な手間と時間がかかっていた。これが、電子化されたことで多くの生徒がいつでもどこでも求人票の情報にアクセスできるようになった。同校では、3年生だけでなく2年生などもこれらの情報を見ることができるようにして、早めの企業研究に役立たせることも視野に入れる。

 こうした試験導入の結果を踏まえ、「Handy進路指導室」は10月中の正式リリースを予定している。システムを開発したスタジアムの前澤隆一郎執行役員は「学校の様子を見ていて『もっと民間に頼ってくれたら』と思うところはまだまだ多い。『Handy進路指導室』は、学校に金銭的な負担が発生しないビジネスモデルになっている。全国の100校くらいで導入されると、就職指導は大きく変わる可能性がある」と手応えを感じていた。

生徒が理想の企業の求人票にたどり着ける

 千葉県立松戸馬橋高校では今年6月、高校生の就職活動を支援するジンジブの社員による求人票の見方セミナーや面接講座などのプログラムを、就職希望の生徒らに対して行った。求人票の見方セミナーでは、生徒がチームに分かれ、人事担当者や社長になったと想定して、高卒求人票を作成してみるワークショップにトライ。実際の求人票を見ながら、どんな情報が載っているかを主体的に捉えた。また、面接指導では、相手が普段見慣れている教員ではないこともあり、生徒も緊張感を持って取り組めたという。

就職希望の生徒に対して行われた求人票の見方セミナー(ジンジブ提供)

 同校の進路指導部で就職指導を担当する金井祐太教諭は「さまざまな会社のことをよく知っているプロの大人が生徒と話すことで、幅広い視点で企業を選ぶことができる。面接についても、今は人物重視の企業が増えているので、従来の学校の指導だけでは十分に対応できない」と振り返る。特に、業種や仕事内容にこだわりがある生徒で、学校でその生徒の希望に沿った企業の情報がないときなどに、ジンジブがサポートに入ることで、条件に見合う求人を見つけ、面接を受けられるようになったこともあるという。

 生徒の選択肢が広がり、チャレンジできる機会が増えるというメリットがある一方で、悩ましい課題もある。自分の理想を求めてチャレンジした結果、内定に至らないケースも当然ながら出てくるからだ。金井教諭は「高校生の就職活動の場合、1社目がうまくいかないと、2次募集をしている企業の数はぐっと少なくなる。高校生がイメージするやりたい仕事と、実際に長く続けられる仕事は違うこともある」と指摘。その上で「学校としては、生徒がやりたい仕事に就くことも大事だが、早期離職を防ぐことも重要だ。生徒の話をじっくり聞きながら、夢と現実の間でどう折り合いをつけていくか。そうした指導は、生徒のことをよく知る教員の役割になる」と打ち明ける。

地元企業と高校が気軽につながるプラットフォーム

 地元の中小企業などと連携して、就職を希望する高校生のキャリア教育の場をつくっているのが愛知県豊田市だ。豊田市では昨年から、若者の進路選択を支援する活動を行っている「HASSYADAI social(ハッシャダイソーシャル)」と共同で、市内の高校に通う就職希望の生徒を対象とした進路支援プログラムを展開する。

 ハッシャダイソーシャルでは、高校側の要望に応じて地元の中小企業の社員が高校に出向き、生徒と対話をする授業をコーディネートしたほか、コロナ禍でリアルな企業見学が難しくなったことを受けて、各社の様子動画で撮影。生徒が長期休業中にそれを見ながら感想をまとめるなど、高校現場でもさまざまな形で活用されたという。

地元企業が協力して行われる対話型のキャリア教育の授業(ハッシャダイソーシャル提供)

 これらのプログラムを担当しているハッシャダイソーシャルの三浦宗一郎理事は「生徒が自ら進路を選択したという実感を持たせたい。地元の企業と学校の教員、生徒のつながりをつくることが、結果的に地域社会としてのつながりをつくることになる」と話す。

 今年はさらに、SNSを活用して高校の進路指導の教員と地元企業の担当者がいろんな情報を共有できるプラットフォーム「イキイキぷらっとホーム」の運営をスタート。例えば、高校側が生徒の希望に応じてインターンを受け入れてくれる企業がないか呼び掛けたり、企業側から説明会開催の告知を送ったりといったことを想定している。「こうしたプラットフォームがあれば、学校や企業で担当者が変わっても、関係性を保つことができる」と三浦理事。今後はアンケートなどを通じてプログラムを受けた生徒のキャリア観がどう変化したかなどを検証していくという。

 地元の企業と高校が負担感なく相互連携ができるようになれば、進路指導の中で生徒が自分自身のキャリアとじっくり向き合える時間を増やせるかもしれない。三浦理事は「社会人との対話型授業を高校に提案すると『3年生ならともかく、1、2年生の段階で外部の人に会わせることは無理だ』と言われることもある。しかし、企業からすればそんなことはない。人を育てることは教員だけが背負うものではない。企業が高校生の成長にもっと関わりたいと思っていることを知ってほしい」と、高校側の意識改革を呼び掛ける。

 (藤井孝良)

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