GIGAスクール時代の情報モラル(上) 模索する学校現場

GIGAスクール構想によって小中学校で1人1台端末が配布され、学校現場で悩みの種になっているのが情報モラルの指導だ。中でも、1人1台環境を先行して実現していた東京都町田市の小学校で、端末上のチャット機能を悪用したいじめが起き、当時6年生だった女子児童が自死した問題は、これまで中学校や高校がメインで行われてきた情報モラル教育を小学校段階から実施する必要性を、教育関係者に強く認識させた。学校でも家庭でもインターネットが身近にある時代に、どんな情報モラル教育が求められているのか、先進校や専門家に取材した。前半では、模索が続く学校現場における情報モラル教育の実践を追った。

1人1台環境の実現で情報モラル教育が課題に

 1人1台の環境が実現することで、学校現場は情報モラル教育の課題をどのように認識しているのだろうか。

 情報モラル教育に取り組むLINEみらい財団が今年春に、すでに1人1台環境が整っている小学校の教員651人を対象に行ったアンケート調査によると、過去1年間で学習者用端末によるネットトラブルが、担任している学級で起きたと回答した教員の割合は、小学校で18.5%。具体的な内容では、コミュニケーショントラブルや長時間利用による健康上の問題、不適切サイト(有害情報)の閲覧が多く挙がった。

 ネットトラブルが起きるタイミングを複数回答で聞いたところ、家庭などの学校外が7割以上で最も多かったが、学校の授業時間中(31.7%)や授業時間外(27.5%)も3割を占め、校内でもネットトラブルが起きていた。

トラブルが発生したタイミング(複数回答)

 今後、情報モラル教育を教員自らが指導する必要性が高まることについて「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた教員は約8割を占めるなど、GIGAスクール構想で情報モラル教育の必要性が高まっていることが伺える。

 実際に今年度から本格的に1人1台端末の活用がスタートした小学校の教員に聞いてみた。

 ある教員は「1人1台になるまでの小学校の情報モラル教育は、デジタル機器を持つ子と持たない子がいたので、そのような観点でやっていた。しかし1人1台になった今は、避難訓練と同じで、定期的に見直したり、思い出したりすることが必要になってくる」と指摘。その上で「中学生以降は1人1台スマホの時代。小学校という安全なところで情報モラルを学び、少しずつ補助輪を外しながら『1人1台スマホ』というゴールに向かわせていくイメージだ」と気を引き締める。

 別の教員も「これまでのSNSに関する指導は、間接的な事例を使っての指導しかできなかった。教員としても、どれだけ指導効果があるのか実感がなかった」と振り返る。「しかし、1人1台になった今は違う。例えば、チャット機能で人を傷つける言葉を書いたり、絵文字を送ったりしたときに『そういうことをすると、される側はどんな気持ちになる?』『言葉で言うより言いやすくなるから、人を傷つけやすくなるんだよ』と、その場で指導することができる。失敗だと認識させ、改善していくことにつなげていける」と、実際の指導場面を紹介した。

 ただ、町田市で起きたいじめのように、学校の端末を使っていても教員の目の届かないところで起きるケースは、どのように防いでいけばよいだろうか。

 ある教員は「教員の目が行き届かないようなシステムを組まないことだと思う。例えば、係で1つのルームを使うならば、必ず教員もそのルームに入るようにするなど、工夫することで見える化するのがいいのではないか。また、学校全体としても具体的にチャット機能を使ってどんな指導をするのかを、保護者に伝えておく必要もある」と提案。

 また別の教員は「例えば、授業のときだけコメントできて、授業が終わってからは基本的にコメントができないようにするなどの基本設定があるだけで、教員はより有効にタブレットを活用することができるのではないか」と、システム上の設計に対する注文もあった。

文字だけのコミュニケーションの難しさを実感させる

 東京都杉並区立天沼小学校(松野泰一校長、児童数689人)は2015年から5、6年生と特別支援学級に、翌16年には4年生に、18年には3年生に1人1台のタブレットが配布されるなど、ICT活用と情報教育の先進校の一つだ。

 町田市のいじめ事件について松野校長は、「いじめに関わる情報モラル教育は、これまで以上に考えていかなければならない。デジタルタトゥーとも言われるように、ネット上の書き込みや画像というのは、半永久的に残り、広がってしまう」とした上で、「保護者や教員もネット上のトラブルへの不安があるが、だからと言ってICTを使わせないようにするのは違う」と指摘。セキュリティー面ではある一定の制限をかけつつ、子どもたちの情報モラルの意識を高めていくという、両面からの対策が必要だと強調する。

 同校では、東京都教委が作成した教材「SNS東京ノート」をベースに、情報モラル教育に取り組んできた。「ICTの特性を扱う内容もあるが、基本的には『人を傷つけない』『危険なことはしない』ということに尽きる。ネット上のやり取りに限ったことではなく、モラルやマナー、ルールを教えることが大事だ」と松野校長。

 また、学校で使う端末は自治体から貸与されているものであり、いつ、どこで、何を見たか、何を書いたのかということは記録されていることを子どもたちに指導している。

子どもたちに心理的なセキュリティーの意識を持たせることが必要と話す松野校長(本人提供)

 「ネット社会は匿名社会だと思っているかもしれないが、そうではない。ICTの仕組みを分かりやすく、正しく伝えることで、子どもたちに心理的なセキュリティーの意識を持たせることも必要だ」と話す。

 特に同校の情報モラル教育で意識していることは「文字だけのコミュニケーションの難しさ」について、子どもたちに授業の中で実感させることだという。

 例えば「まじめだね」という一言を、うれしいと思う子もいれば、嫌だと受け取る子もいる。「授業の中で『こう言われたら、あなたはどう感じますか?』と問うようにして、自分とは捉え方が違う人がいることを気付かせるような取り組みを重視している」と松野校長。「文字だけで、自分の思っていることが本当に相手に伝わるのか、送信する前に『これでいいのかな?』と考えることなど、新しいコミュニケーションツールにおける人との付き合い方を学んでいく。それが小学校でできていないと、中高生や大人になってから大きな問題になるのではないか」と、小学校段階での情報モラル教育の重要性を訴える。

 GIGAスクール構想の進展により、今年度から1人1台での端末の活用が始まった学校も多い。松野校長はこれからの情報モラル教育について、「全ての学年で一気にやるのは難しい。学齢に合わせて、6年間の指導計画を立てることが重要だ」とアドバイスする。

デジタル時代のシティズンシップ教育へ

 自治体レベルでも、従来の情報モラル教育から「デジタルシティズンシップ教育」への転換が模索されている。

 ICT教育の先進地である埼玉県戸田市では、学習者用端末の導入が本格化した2016年から「情報モラルスクール」というコンテンツを開発。スマートフォンを含めたさまざまな情報活用の場面で気を付けなければいけない事柄について学べる環境を整備してきた。

 しかし、戸ヶ﨑勤教育長は「これからは、端末が教具として使い方の指導や管理をするものから、子どもたちが学ぶ際に文具として愛用するものに変わる。子どもたちがICTやインターネットを正しく怖がり、前向きに活用していくこと、安全な範囲の中で失敗し、そこから主体的に学んでいくことが求められている」と話す。従来のようにあらかじめ答えが決まったトピックを情報モラル教育として取り上げ、子どもたちに「やらせない」「必要なとき以外は触れさせない」といった対症療法的な指導では対応できないと指摘。授業などで端末を活用する中で、情報モラルに関連する問題に気付かせ、子どもたちがどうすればいいかを考え、判断していくことが大切だと強調する。

デジタル時代のシティズンシップとして捉え直そうとしている戸ヶ﨑教育長(2020年4月撮影)

 GIGAスクール端末が日常的に使われるようになれば、当然、情報セキュリティーやコミュニケーションのトラブルなど、さまざまなリスクは高まる。「そもそもデジタルネイティブである子どもたちの方が、教師よりもスキルが上回っているし、家庭ではインターネットをどんどん利用している。そんな状態で大人が子どもたちのICTの利用状況の全てを把握して、先回りして管理しようとする発想には無理がある」と戸ヶ﨑教育長。市内の小中学校でもICTに関するトラブルが全くないわけではないが、その際に児童生徒が気付き、お互いに注意し合ったり、自分たちで適切なルールを考えたりできるか、教師がヒヤリハット事例を校内や他校と共有し、より良いICT活用のための学びに生かせるかが問われるという。

 戸田市では今後、試行錯誤を重ねる学校現場の実践の蓄積や民間などとも協力しながら、デジタルシティズンシップ教育の大綱の作成に着手する方針だ。

 「子どもたちがICTの利活用を自分事として考えていくことで、これからの社会の創り手となっていく。そのようにデジタル時代のシティズンシップ教育と広く捉え、まだ完璧ではないがシフトしていきたい」と戸ヶ﨑教育長は話す。

(松井聡美、藤井孝良)

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