木村泰子氏に聞く 「コロナ以前と以後の学校の最上位目標は違う」

 長期化するコロナ禍の社会や学校現場について「学校も親も大変で、子どもに目が向いていない」と、大阪市立大空小学校初代校長の木村泰子氏は警鐘を鳴らす。また、「コロナ以前とコロナ以後の学校の最上位目標が同じであっていいわけがない」とも指摘する。これまでの当たり前が通用しなくなったコロナ禍において、学校は何を問い直し、具体的にどんな行動を起こせば良いのか――。今が学校組織や学びを変える大きなチャンスだと話す木村氏に、日々、奮闘する教員へのアドバイスを聞いた。

「子どもを育てる学校」から「子どもが育つ学校」へ

――長期化しているコロナ禍の社会や学校現場に対して、どんなことを感じていますか。

 この2年余りの間に、私たちは「コロナ」という想定外の危機に出くわしました。想定外の危機に遭遇して、大人が大変になってしまっています。例えば、コロナにかかった人は「困っている人」なのにも関わらず、日本社会はその人を排除しています。

 子どもたちは、この嫌な社会の空気をリアルに吸っています。そんな大人たちを見て、子どもはしんどい時に「助けて」と言えるでしょうか。学校も親も大変で、子どもに目が向いていません。そうすると子どもは独りぼっちになります。だから、これまで以上に子どもの自殺も増えています。

 コロナ以後も、私はありがたいことにオンラインでさまざまな教育委員会や教育センター、先生、保護者と学ばせてもらっています。そうした中で学校や先生に対して感じることは、思考し続けているか、思考停止しているか、そのどちらかに二極化しているということです。

 これは管理職だろうが、ベテランだろうが、若手だろうが関係なく、感じることです。思考停止している学校や先生は、上からの命令、伝達、指示に基づいて動いているだけです。つまり、同調圧力で動いています。例えば子どもが学校に来なくても「コロナだからね」で済ませて、なんでもコロナのせいにしてしまっています。

 コロナ禍の今、学校の最上位の目標を何にするべきだと思いますか。それは、「子どもの命を守ること」です。1人1台がうまく使えているとか、全国学力調査の成績を良くするとか、こういうことばかりを上位目標にしていないでしょうか。「子どもの命を守ること」を最上位の目標に置いたら、やらなければいけないことは、結果的にできているはずです。私自身がコロナ禍で、そういう考えに変わっていきました。

 学校は、社会の多様なニーズに対応し、生きて働く力を付けていくところです。コロナ以前と、コロナ以後の学校の上位目標が同じだったら、おかしいと思いませんか。今、学校という組織は、問い直しが必要です。コロナは学校組織を変える、学びを変える、大きなチャンスだと私は捉えています。

――学校をどのように問い直せば良いのでしょうか。

 私は今、オンラインでつながった先生たちに、「子どもを育てる学校」から、「子どもが育つ学校」にチェンジしようということを、共有しています。

「子どもを育ててきた学校文化から、子どもが育つ学校文化へ変えよう」と木村氏

 「子どもを育てる学校」の主語は、先生や大人ですよね。でも、「子どもが育つ学校」の主語は、子どもです。子どもを育ててきた学校文化から子どもが育つ学校文化に、どのように変えていったらいいのかという具体的なことは、一人一人の先生たちが考えなければいけません。

 これが、学校の当たり前を問い直すということです。この「学校を問い直す」という言葉は、横浜創英中学・高等学校の工藤勇一校長が広げてくれました。でも、みんなその言葉は知っているけれども、行動は変わっていないというのが現状ではないでしょうか。今こそ、行動に移すときです。

想定外の危機に対応する力を付けるチャンス

――コロナ禍では、修学旅行や運動会などの学校行事も中止や変更になるなど、学校や教員はさまざまな対応を求められました。

 一部では、「運動会がなくなって、修学旅行もなくなって、子どもたちがかわいそうだ」と報道されていますよね。でも、私はそうは思いません。コロナ禍に、これまでやっていた運動会や修学旅行は必要ないということです。なぜ大人がそう考えられないのでしょうか。

 この先、コロナが収束しても、子どもたちが大人になっていくまでに、彼らはもっと想定外の危機に遭遇するでしょう。コロナの次の想定外の時のための力を付ける、今は大きなチャンスです。

 修学旅行や運動会についても、「昨年までやっていた運動会や修学旅行ができないということは、今、あなたたちにとって必要ないのだと思っているけど、どう思う?」と、私は子どもたちに問い掛けると思います。そうしたら、子どもたちからは「でも行きたいな」「先輩たちは行っていたし、うらやましい」「運動会やりたい」などと、声が上がるでしょう。

 では、今コロナ禍という想定外の事態の中で、できることはなんなのか。それを子どもたちと一緒に考えればいいのです。

 また、こうして学校行事が中止や縮小になることで、実は運動会が嫌いだった子は喜んでいます。修学旅行がなくなったら、グループ編成しなくても済むし、行こうか行かまいか悩むこともなくなったと、ホッとしている子もいます。そういう困っていた子どもたちがいることにも、気付けたのではないでしょうか。

 ならば、誰もが安心して、誰もが参加できる、そういうものをゼロベースからつくり上げていけばいいのです。スポーツデーにしようとか、近場に卒業遠足に行こうとか、考えた結果は、どんな形になってもいい。この経験や力が、子どもたちがこの次の想定外に遭遇した時に必ず役立ちます。

学校は「知識」を「知恵」に変える場所

――コロナ禍では、GIGAスクール構想が始動し、オンライン授業への対応なども求められました。

 「オンライン授業と対面授業って、どう思いますか?」と、よく聞かれます。私は、オンラインでできることはやっていったらいいと思います。でも、大事なのは、先生たち自身が「オンラインでは絶対にできないことがある」ということを、自覚しているかどうかです。

 対面じゃないと駄目だとか、そういうことではないのです。「今やっているオンライン授業では、これができていない」ということを、先生がちゃんと分かっていることが重要です。

 学校は常に100%を求められるからそこを目指してしまうけれども、例えば「オンライン授業をやっているけれども、できていないことはたくさんある。漏れていることもあると思う」と、学校も先生も発信したらいいのです。オンラインだけではできないことがあるのに、それを「全部できています」と発信するから、世の中の空気が変わらないのではないでしょうか。

――オンラインではできないこととは、具体的にはどのようなことでしょうか。

 知識だけなら、今は学校に来なくても得ることができます。つまり、知識を吸収するための学校は、もう終わっています。それに、50年前は、知識は社会で有効に使えたけれども、今の知識は明日には使えなくなることも多々あります。

 子どもたちは、得た知識を自分の知恵に変えるから、大人になって生かせるようになります。知識を知恵に変えるには、一人ではできません。周りの環境が必要です。知識を知恵に変える環境こそが学校です。自分なりにつかみ取った知恵はずっと使えますし、それが社会に出て生きて働く力になります。これが、学校での学びなのです。

先生が思っている以上に、子どもは先生のことが好き

――コロナ禍で感染対策と子どもたちの学びを両立させるために頑張っている先生たちに、伝えたいことはありますか。

 言われた通りに動いているだけだったら、楽しくないし、うまくいかなかったら人のせいにします。でも、言われたことを自分なりに納得して、大事だと思うことを行動に移すようにしたら、楽しくなります。うまくいかなくても人のせいにしないし、やり直せばいいだけです。

 面白くなさそうな顔をしている、笑顔のない先生、それを一番身近にいる子どもたちは見ています。子どもが一番安心するのは、一番身近にいる先生が安心している時です。先生が安心していたら、子どもも安心できるのです。先生が思っている以上に、子どもは先生のことをよく見ています。それに、先生が思っている以上に、子どもは先生のことが好きですから。

 その先生が、いつも落ち着きがなく、自分たちじゃないところを見て不安になっているのが、このコロナ禍です。マスクしたり、距離をとったり、手洗いしたり、やるべきことは淡々とやっていればいい。でも、先生の心は、子どもの方を見ていないと駄目なんじゃないでしょうか。

――日々、悩み続けている先生たちに、何かアドバイスはありますか。

 自分が子どもたちに発する言葉は「指示」なのか、「問い掛け」なのか、自分の言葉をメタ認知してみるといいですよ。

 今は、どこにも正解なんてない時代です。いつコロナが収束するかも分からないし、いつ授業が落ち着いてできるようになるのかも分かりません。でも、これが今の“当たり前”です。だからこそ、指示、命令、伝達を、全て「問い掛け」に変えてみてください。ただこれだけのことで、変わります。

「先生の心は子どもの方を見ていてほしい」とメッセージを送る

 例えば「廊下は右を歩きなさい」、これは指示、指導ですよね。でも「廊下を歩くときに一番大事なことはなんだと思う?」に変えたら、問い掛けになります。こんなこともある、あんな方法もあるとみんなで意見を出し合って、最終的に決めるのは子どもたちです。それが、問い掛けです。また、荒れている子は、困っている子です。「やめなさい!」を、「どうしたの? 大丈夫? 何に困っているの?」に変えてみてください。

 こうして学校での1日の全てを「問い掛け」に変えてみたら、先生が見る世界も変わります。子どもとの関わりも、授業も変わります。それはつまり、子どもが育っていくということです。「子どもに教えない」というのは、「子どもに問い掛ける」ということです。

 教員はブラックな職業だと言われますが、これほど毎年自分をアップデートし続けられる仕事はありません。もし、楽しくないと思っている先生がいるならば、それは自分が学べていないからです。やらなくてはいけないこともたくさんあります。でも、まずは自分が学びを楽しみましょう。教える人から、自分が学ぶ人に変わればいい。その具体的な手段が、「指示」を「問い掛け」に変えてみることです。

(松井聡美)

【プロフィール】

木村泰子(きむら・やすこ)
大きな反響を呼んだドキュメンタリー映画『みんなの学校』で知られる、大阪市立大空小学校の初代校長。同校では「全ての子どもの学習権を保障する」という理念の下、教職員や地域の人たちと共に、障害の有無に関わらず、全ての子どもがいつも一緒に学んでいる。退職後は、全国で講演活動などを行う。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」をつくるために』(ともに小学館)など。

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