教育学って何? 高校生に大学の「知」を伝える高大接続


 教育学ってどんな研究をしているの――? 大学の志望校選びを始めた高校生のそうした疑問に答えようと、教員養成系ではない教育学部がある大学が、高校生と学部をつなぐ取り組みを始めている。教員になるためだけではない、教育学や心理学などを探究する「知」の魅力を、高校生にどう伝えるか。試行錯誤を続ける大学を取材した。

教育学の「広さ」を学生が紹介

 「ずばり広い! 広いんです。まずキャンパスが広い。それだけではなく学生の幅も広い。また、学べる学問領域が広いことも魅力です」

 少し緊張した面持ちで画面越しにそう切り出したのは、筑波大学人間学群教育学類2年生の野月和(やまと)さん。筑波大学教育学類では、昨年から高校生と学生のオンラインによる教育学協働学習プロジェクトをスタートさせた。今年度1回目となるこの日は、高校生や保護者ら約20人が参加を申し込み、学生や教員と教育学に関する交流が行われた。

教育学類で学ぶメリットを説明する学生(Zoomで取材)

 この日のために野月さんたちは、筑波大学ならではの広大なキャンパスの様子を動画で撮影したり、教育学について解説するプレゼン資料を作成したりして、筑波大学や教育学について興味を持ってもらおうと準備を進めた。教育学類の卒業生の進路が教員以外にも多様であることや、過去の卒業論文のテーマなどを紹介しながら、筑波大学で教育学を学ぶ意義について熱弁を振るった。

 グループに分かれて行われた後半のフリートークでは、参加した高校生から寄せられた「小学校の教員になりたいが、筑波大学で教員免許を取るメリットは何か」という質問に対し、学生が「小学校の教員免許を取るのはかなり大変だが、筑波大学では教育哲学や社会教育など、より幅広い教育学について学ぶことができ、広い視野を持てる」と、実際に感じている「本音」の部分も包み隠さずに答えていた。

 前半のプレゼンで「教育学とは何か」というテーマで教育学がカバーする領域の広さを強調した髙木滉太さんは「高校生にとっては『教育学って何?』という感覚だと思うが、実際に話してみると、クリアではないけれど教育に対する課題意識を持っていることが分かった。自分が学んでいることを説明することで、大学進学に際していろいろな学問へのイメージを持ってもらえたら」と話す。髙木さんもまた、理科の教員になろうとして入学し、大学でさまざまな教育学に触れるうちに、イエナプランの思想や地域と学校の関係などにも興味が湧いているという。

 このプロジェクトは、実際の教育現場に足を運ぶ前に、現状や課題を把握して自らの問題意識を明確にする科目「教育インターンシップ基礎論」の延長としても位置付けられており、高校生と接することで学生自身の学びにもなっている。教育学類長の樋口直宏教授は「実際に学校教育を受けていても、高校生は教育学が何かは分かっていない。それを知ってもらうのが、オープンキャンパスや大学説明会にはないこのプログラムの使命だ。理系の学部で実験を体験するといったことはできるが、教育学でどんなことを学び、どんな研究をしているかを高校生が知る機会は限られている」と話す。

 同プロジェクトは年内にあと2回予定されており、筑波大学ホームページから申し込むことができる。

研究志向の高校生を育てる

 高校が夏休みに入るのに合わせて、九州大学教育学部では2015年から、「高校生のためのリサーチトライアル」を開催している。単なる大学への進路指導やキャリア教育を目的としたものではなく、大学で教育学や心理学を研究したいと考えている高校生を対象としたもので、大学に入学する前から研究者を目指してもらうのが狙いだ。16年度からは海外版もスタートしている。

 7回目となる今年、リサーチトライアルには200人を超える応募があり、選考をした上で当日は62人が参加した。

 参加した高校生は、実際に同学部に所属する教員の講義を聞き、ゼミ形式のディスカッションも行う。その後も大学が主催するシンポジウムなどの案内も送られるため、興味があれば継続的に大学の学びにアクセスできるのが特徴だ。

高校生のためのリサーチトライアルに参加する高校生ら(九州大学教育学部リサーチトライアル実行委員会提供)

 新型コロナウイルスの影響で昨年からオンライン開催となり、講義やゼミもZoom上で行われるようになった。昨年から講師を担当している南博文教授は「当初は高校生を相手にオンラインでワークショップなどができるのかと心配だった。しかし、当日はトラブルもあったが思っていた以上にできた」と手応えを感じていた。オンラインにしたことで全国各地から応募があるなどのメリットもあったという。

 人間環境心理学が専門の南教授は、講義でコロナ禍でのソーシャルディスタンスが人間の心理に与える影響について解説。学生の実演を交えながら、人と自分自身の距離の違いによる印象の変化などを取り上げた。その後のゼミでは、コロナ禍でのオンライン授業と対面の授業の違いなどを巡って、高校生の議論は盛り上がったという。「大学教員が高校生とじかに話す機会はあまり多くない。高校生の考えや疑問に触れると、結構すごいことを考えていると驚くこともあるし、大学に来る前はこういう状態なのかと知ることもできる」と話し、高校生の問題解決力や想像力が垣間見えると笑みを浮かべる。

 高校で探究的な学びが重視されるようになり、総合型選抜など、大学への入り方も多様になれば、高校生が大学の学びにアクセスする機会は格段に増えることが予想される。

 実際、このリサーチトライアルを受けた後に、大学が主催するシンポジウムに参加してみたり、九州大学教育学部に進学する学生が現れたりするなど、研究志向の高校生は確実に育っているという。

(藤井孝良)

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