不登校の要因は本人?教員? 文科省の2つの調査結果なぜ乖離

 児童生徒が不登校になった要因は本人にあるのか、教員との関係など別の事情によるものか――。文科省が10月に公表した不登校に関する2つの調査では、大きく異なる結果が示された。一方は調査対象が学校で、もう一方は実際に不登校経験のある児童生徒たち。新たな支援策を検討するために設置された文科省の有識者会議では、「この結果をどう受け止めるべきか」と戸惑いや問題提起する声が上がり、今後、調査結果も踏まえて支援策の検討を進める。有識者や不登校生の支援に当たる関係者は、この結果をどう見ているのか。

「無気力」など本人要因が最多

 文科省が10月に公表したのは、学校を対象に毎年実施している「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(2020年度)」と、「不登校児童生徒の実態調査」。後者の調査は「教育機会確保法」の成立を受けて、支援策の充実を図るために昨年度に初めて実施された。

グラフ①毎年実施の学校を対象にした調査結果

 学校を対象にした前者の調査では、小中学校を合わせて「不登校の要因」で最も多かったのは「無気力、不安」(46.9%)、次いで「生活リズムの乱れ、遊び、非行」(12.0%)と、本人に係る状況で過半数を占めた。これに続くのが「いじめを除く友人関係を巡る問題」(10.6%)、「親子の関わり方」(8.9%)、「学業の不振」(5.4%)で、「教職員との関係を巡る問題」(1.2%)と「いじめ」(0.2%)はごくわずかだった(グラフ①)。

「先生のこと」「身体の不調」など目立つ
グラフ②初めて実施された「不登校児童生徒の実態調査」結果

 一方、不登校を経験した児童生徒への調査で「最初に学校に行きづらいと感じ始めたきっかけ)」(複数回答)に対する主な回答は、「先生のこと(先生と合わなかった、先生が怖かったなど)」(小学校29.7%、中学校27.5%)、「身体の不調(学校に行こうとするとおなかが痛くなったなど)」(小学校26.5%、中学校32.6%)、「生活リズムの乱れ(朝起きられなかったなど)」(小学校25.7%、中学校25.5%)、「友達のこと(嫌がらせやいじめ)」(小学校25.2%、中学校25.5%)が比較的高い割合を占め、「きっかけが何か自分でもよく分からない」(小学校25.5%、中学校22.9%)との答えも多かった(グラフ②③)。

グラフ③初めて実施された「不登校児童生徒の実態調査」結果

 また、この調査では、「学校に戻りやすいと思う対応」(複数回答)について、「特になし」(小学校57.1%、中学校54.4%)が小中学校とも過半数に上り、次に多い「友達からの声掛け」(小学校17.1%、中学校20.7%)などを大きく上回って、改めて支援の難しさも浮かび上がった。

 ただし、この調査は、2019年度に不登校だった児童生徒(小学6年生、中学2年生)のうち、「昨年12月時点で学校などに通っている子供」と対象が限られているのに加え、回答率(小学校11.7%、中学校8.2%)も低かったため、「貴重な調査だが、この結果を不登校の子供全体に当てはめることはできない」と有識者会議では説明されている。

「選択肢から『無気力』を外すべき」

 先月、この調査結果を巡って文科省に新設された「不登校に関する調査研究協力者会議」では、各委員から戸惑いや問題を提起する声が上がった。伊藤美奈子委員(奈良女子大学研究院生活環境科学系教授)は「学校と子供を対象にした調査結果が異なるのに加え、支援ニーズで『特になし』が半数以上いることをどう解釈したらいいのか。分析を進めて新たな支援を考えたい」と述べた。

 「学校調査の不登校要因の選択肢から『本人の無気力』を外すべきだ」と指摘したのは、斎藤環委員(筑波大学医学医療系教授)。「これが選択肢にあるため、学校が何となく選択してしまっている状況がある。実態を反映しない結果に意味はないのでは」と問題提起した。

「複雑化に合わせ精度の高いアセスメントを」
有識者会議委員も務める立命館大学大学院の野田特任教授

 長年にわたって不登校を巡る問題に取り組み、有識者会議の委員も務める立命館大学大学院人間科学研究科の野田正人特任教授は、異なる調査結果が出たことについて、「毎年の学校調査は先生の視点からの結果であり、以前からそうした見方でいいのかとの意見はあった。それと異なる切り口が今回の調査であり、子供や保護者の思いが先生と違うことが示されたという意義もあった」と指摘する。

 むしろ野田特任教授は、一枚岩ではない多様な結果に注目する。「児童生徒への調査結果で不登校の要因が多様であるのに加え、例えば相談しやすい方法を尋ねた質問への回答では、『直接会って話す』と『メール・SNS』に二極化していた。不登校を巡る課題は多種多様でコロナ禍も加わって複雑化しており、個々の児童生徒のニーズを探る精度の高いアセスメントが求められる」と述べる。

 さらに児童生徒への調査の回答率の低さも気になったと指摘する。「調査は不登校の後、学校などに通っている児童生徒を対象としたにもかかわらず、8~9割が回答しない上、結果がこれほど分かれている。まだ背景に多様なジャングルが広がっている印象がある。いずれにしても子供も保護者も悩んでいることは間違いなく、多様な支援方法を選び出しながら的確にマッチングしていくことが必要だ」と強調する。

不登校の児童生徒の支援者「学校以外の相談場所の周知が必要」

 ところで不登校の児童生徒を支援する立場からは、2つの調査結果はどう見えたのか。自らも不登校の経験があり、不登校の子供や保護者向けに発行する「不登校新聞」編集長の石井志昴さんは「児童生徒への調査結果が実態に近いと受け止めている。不登校要因に小学生の25%が『いじめ』を挙げているのに学校調査で0.2%しかないのは、いじめが見えづらく、教員からも見えていないことが示されている」と指摘する。

不登校新聞の石井編集長

 また、石井さんも不登校を巡る状況が複雑化していることを挙げ、「例えばいじめを受けて教員に相談したときに『あなたも悪い』などといった不用意な言葉が引き金になることも多く、この場合は両方がきっかけとなってしまう。ただ、一方で学力向上を求める保護者が増えて神経質になっている先生も多く、一方的に教員が悪いとはいえない面もある」と分析。

 その上で、「学校に戻りやすい対応」の問いで「特になし」が過半数を占めていることが気になったと指摘し、「不登校の解決を教員だけに頼るのは限界だと示されているのではないか。不登校になる可能性は誰にもあり、悩みや不安を抱える児童生徒が学校に行かなくなる前に、学校以外にも気軽に相談できる場所をきちんと周知していくことが必要だと思う」と強調した。


 (山田博史)

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