【GIGA発進】「現場は果敢にチャレンジ」 喜名校長に聞く

 教育新聞が10月初旬に行った教諭・学校管理職向けのウェブアンケート(有効回答数475人)では、GIGAスクール構想が本格化して半年がたった学校の「現在地」が浮かび上がってきた。教育新聞「オピニオン」の執筆者で、東京都江東区立明治小の喜名朝博統括校長(全国連合小学校長会顧問)は「学校現場が果敢にチャレンジしていることが分かる」と評価する。同校でも1人1台端末の活用を進めているといい、新たな学びへの手応えを語る一方、家庭との連携や学校・自治体間の格差など、残された課題も指摘する(関連記事:【GIGA発進】3人に2人が制限感じる 教育新聞調査【GIGA発進】子供は主役になれている? 教育新聞調査)。

1人1台で「全員参加」の授業が実現

――教育新聞のアンケートでは、1人1台端末のさまざまな使い方が始まっていることがうかがえました。明治小ではどうですか。

江東区立明治小の喜名統括校長(2021年7月撮影)

 端末の使い方としてトップに挙がったのは「デジタル教材(ドリル・資料など)」、2位は「インターネットを用いた情報収集」でしたが、これは1人1台環境が実現する前、限られた台数の端末を使って取り組んでいたことと、さほど変わりません。1人1台ならではの使い方といえるのは3位以下。これを見ると学校現場が、さまざまな使い方に果敢にチャレンジしていることが分かります。

 本校ではグーグル・クラスルームを使って、担任や児童がメッセージを送り合っており、うまく使えばものすごく良いツールだと実感しています。例えば、授業前に担任から児童に資料を送り、予習しておいてもらえば、授業では導入に時間をかけすぎることなく、すぐに本題に入れます。そして、対話的な学びの時間、思考する時間を確保できるようになります。

 図工の授業では「電動糸のこ」の使い方を説明する動画を、教員が作りました。全員で一通り使い方を体験したら、後はそれぞれが必要に応じて動画を再生し、使い方を確認しながら作業を進めます。作業時間に個人差が出る図工ならではの、有効な使い方です。子供同士のコミュニケーションも増えていて、子供たち同士でどうやって再生するのか、早戻しや早送りはどうするのか、などと教え合いながら、わいわいやっている姿が見られます。

 また、1つのグーグル・ドキュメントに全員でアクセスし、意見を書き込みながら話し合うなど、協働的な学びのツールにもなっています。これまでは、発表するのは一部の子だけ、という状況になりがちでしたが、全員が考えを出せるようになり、「全員参加」の授業が実現しつつあります。これまではなかなか発言できなかった子が、グーグル・クラスルームでメッセージをやりとりするうちに、教室でも発言できるようになってきました。

義務教育段階での端末の使途(複数回答、教育新聞アンケートより)

――端末がいじめに使われた例もありました。気を付けていることはありますか。

 「誰かがグーグル・クラスルームに投稿したら、必ずコメントを入れよう」と呼び掛けています。オンラインでも、無視されるのはつらいですから。そして、そのコメントにはできるだけ温かい言葉を使うということです。教員は、誰かを傷つけるようなコメントが書かれていないかをしっかり見て、必要があれば指導することになります。

 時には、児童自身が一度投稿したコメントを削除したり、修正したりすることがあります。担任にだけは削除の履歴が見られるようにしているので、児童がなぜそのコメントを取り消したのか、どういう言葉を自分で「まずい」と思ったのかを確認することができます。

 このように、子供が自分のコメントを「まずい」と感じるのはとても大事なことで、教員もその思考の過程に目を配る必要があります。子供たちは遅かれ早かれ、SNSを使い始めるようになります。学校で厳格なルールを課して制限するより、実際に使い、失敗しながら、言葉の発信の仕方を学んでいく方がよいと思うのです。

 そして、こうしたSNSの中に入っていくための準備は、オンラインで完結するのではなく、リアルな学級とのつながりの中で考えることも重要です。誰かがグーグル・クラスルームに書き込んだことを、リアルな教室の中でも話題に出しながら、ネット上でのよりよい振る舞い方を考えていけるとよいのではないでしょうか。

家庭でのオンライン学習「簡単ではない」

――現時点では「使うことが目的化している」という指摘もありました。

 子供にも教員にも、使ってみる時間、慣れる時間が必要なので、そのことを目的化というのは違うと思います。ただ仮に「1日〇時間以上使用すること」といった縛りがあるなら、それは目的化の最たるものです。端末はあくまでも学習用具として使うべきで、「教科書・ノート・筆箱」に端末を加えて、「学習用具4点セット」になるべきです。

 アンケートでは、1人1台端末を使うときのスタイルについて「教員の指示のもと、一斉に使う」か、「児童生徒が判断して、個別に使う」のどちらに近いかを尋ねていますが、77.6%が「教員の指示のもと、一斉に使う」に近いと答えています。端末はあくまでも学習用具なのですから、子供たちが必要に応じて、自らの判断で使えるようにするのが本来の姿ではないでしょうか。

 つまり「はい、今日はクロームブックだよ」という授業ではなく、常に手元に置いて、辞書代わりに使うというのが基本です。本校では高学年を中心に、イヤホンが必要ならば持ってきてもよいし、ホーム画面の壁紙を変えたければ変えてよいことにしています。自分が使いやすいことを基本に、いろいろな使い方があってよいと思います。

――アンケートでは、今年7月以降の新型コロナウイルスの感染拡大第5波をきっかけに、一段と活用が進んだことがうかがえました。

 確かに、ここで劇的な変化がありました。端末や通信環境の整備が完了した矢先に、子供の感染が急増したことで、端末を活用する必要に迫られたのでしょう。本校でも8月に高速ネットワークの整備が完了したことで活用が一気に進み、8月末から9月初旬にかけての臨時休業中、オンラインでの朝の会・帰りの会や、学年ごとに時間を決めたオンライン学習を進めました。

 とはいえ、やはり家庭でのオンライン学習は簡単ではないと感じました。子供たちが教室にいれば、様子を見ながらすぐに声を掛けたり、追加の説明をしたりできますが、オンラインではその「空気感」を感じにくいのです。

 コロナ禍で皆がマスクをしはじめた頃、教員たちの間では子供たちの表情が読み取れず、「子供たちが本当に分かっているか、分からない」という戸惑いが広がりました。それでも教員たちはさすが、教えることのプロ。そのうち目だけで子供たちの気持ちを感じ取れるようになりました。そんな教員たちでさえ「オンラインは難しい」と言います。

 加えて、低学年などでは時間の管理や学習のフォローなどで、家庭の協力がどうしても必要になります。保護者が朝、先に家を出てしまって、オンライン朝の会が始まる時間になっても、子供が起きてこないということもあります。

 本来はそうしたことも含めて、自分で課題を見つけ、解決していく自己調整力の育成が重要で、勉強が「与えられるもの」という意識から脱却しなければなりません。ただ現状では、それができる子と、できない子がいる。自分の力で勉強できる子は、オンラインでも十分にできますが、サポートがないと厳しい子は、どうしても厳しい。

 これが長期化すると、学力差が広がっていくことも懸念されます。オンライン授業はあくまで臨時的な手段であって、義務教育段階の子供にはなじまない部分もあると感じます。

1人1台端末活用のスタイル(教育新聞アンケートより)
保護者から「家でゲームをしている」

――現在、感じている課題はありますか。

 1つは、家庭での端末利用です。本校では「端末を使って、家でゲームをしている」という連絡が保護者から入りました。インターネットに接続できれば、規制をかいくぐってゲームができるため、保護者によっては「ゲーム機を与えられた」と感じているでしょう。子供たちの間では「『ゲームの名前、スペース、攻略』でグーグル検索すれば、攻略サイトが出てくる」なんて情報交換もしています。

 そこで「規制をかけるべきだ」という意見もあるのは確かです。ただ、規制をかけてもいたちごっこになるだけですし、自分で適切な使い方を考えさせる必要もあります。それならば、ゲームをする暇がないほど、面白い課題をどんどん出すしかないのかもしれません。グーグル・クラスルームに課題を配信すれば、教員も取り組みの状況が見られますし、子供たちの関心のあるドリルなどをどんどん進めていくのもよいでしょう。

 もう1つの課題は、自治体間、学校間の格差です。アンケートでも、いまだに1人1台端末の整備が完了していないという回答がありましたが、教育環境の格差をなくすのが設置者の職責のはずです。また、端末の持ち帰りをいまだに許可していない学校や自治体もあるようです。「紛失・破損の恐れがあるから」が理由のトップですが、紛失・破損は当然生じるものとして、家庭でも使える体制を整えるべきだと思います。

 さらに、どんなソフトやアプリが入っているかによっても、学習での使い勝手は大きく変わってきます。児童の回答によって出題傾向が変わるようなAIドリルなら、個別最適化された課題への取り組みが可能ですし、瞬時に回答データが教員に送られるので、負担も減らすことができます。ただ、利用できるソフトやアプリの状況は、自治体の財政力によりかなり差があるようで、今後はその実態も把握していく必要があります。

 教育新聞のウェブアンケートは今年10月1~7日に、教育新聞の購読者のほか、教育新聞の公式SNSなどで回答を募り、全国の小学校・中学校・義務教育学校・高校・中等教育学校・特別支援学校の教諭・学校管理職475人から有効回答を得た。

 アンケート回答者の基本属性は次の通り。

 【学校種】小学校47.4%、中学校27.6%、義務教育学校1.5%、高校17.1%、中等教育学校・中高一貫校2.1%、特別支援学校4.4%

 【学校設置者】国立4.0%、公立85.9%、私立10.1%

 【職位】教諭87.2%、学校管理職12.8%

 【学校所在地】北海道4.8%、東北5.9%、北関東5.3%、東京都内22.1%、南関東17.5%、甲信越4.4%、北陸0.4%、東海13.5%、近畿11.6%、中国5.5%、四国1.1%、九州・沖縄8.0%

 【性別】男性57.9%、女性40.0%、その他・答えたくない2.1%

 【年代】20代21.5%、30代30.5%、40代29.3%、50代16.4%、60歳以上2.3%

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