【GIGA発進】「働き方改革との両立」依然課題 妹尾氏に聞く

 今春から本格始動したGIGAスクール構想を巡って、教育新聞が10月初旬に実施した教諭・学校管理職向けのウェブアンケート(有効回答数475人)では、初期の混乱をどうにか乗り越え、手応えを感じ始めている学校の姿が垣間見えた。一方で、依然としてGIGA端末の活用と働き方改革の両立に、頭を悩ませる教員の姿も浮き彫りとなった。教育研究家で本紙オピニオン執筆者の妹尾昌俊氏は、学校のICT化について「コロナ禍で急速に広まったぶん、コロナ前からの課題もくすぶり続けている」と、授業のスタイルや児童生徒の様子を今一度見つめ直す必要性を指摘する。アンケートで浮かび上がってきた現場のリアルな声をもとに、教員の働き方改革の観点も踏まえながら、GIGAスクール構想のこれからを考える。(関連記事:【GIGA発進】導入時の負担「スキル修得」最多 教育新聞調査【GIGA発進】3人に2人が制限感じる 教育新聞調査

高校の環境改善が課題に

――アンケート結果を見て、いかがでしたか。

オンラインでインタビューに応じる妹尾氏

 今年4月の前回調査と比べ、小中学校ではオンライン授業への自信を持つ声が増加していたり、端末の持ち帰りを許可している学校が増えたりなど、進展しているのはグッドニュースです。GIGAスクール構想が始まった当初の混乱や懸念を乗り越えて、ICTを活用できる学校が増えてきたことがうかがえます。コロナ禍だけでなく、さまざまな非常事態における休校や学級閉鎖などにも、ある程度対応できる学校が増えてきたのではないでしょうか。

 一方で、高校では心もとない結果となりました。文科省の調査などでも明らかになっているように高校の1人1台端末の整備は、都道府県によって対応にばらつきがあります。例えば端末を保護者が負担して購入するところもあれば、公費で整備するところもありますし、または各自のパソコンやスマートフォンなどで対応するBYODを基本とするところもあります。公費でない場合、家庭負担は重いですし、家庭環境によっては、置き去りにされてしまう生徒も一定数いるのではないでしょうか。高校の環境がどこまで改善していくかは、今後も注視していかなければなりません。

――導入時の負担感では「教員のスキル修得」と「児童生徒への指導」が特に多い傾向にありました。「児童生徒への指導」では、児童生徒の発達段階や習熟度に合わせた指導に苦慮している回答もありました。

 児童生徒それぞれに個別最適化された学びを推進していける土台は整いつつあるわけですが、そこに至るまでには先生たちの負担や苦労が相当あります。特に小学校は教員数がギリギリ、または未配置の状況で何とかやりくりしています。ローマ字入力に不慣れな児童も多いですし、特性があって丁寧なケアが必要な子どももいます。そうした対応の多くは、担任の先生が一手に引き受けるしかない学校も少なくありません。

 GIGAスクールが一気に進んだ良さは確かにありますが、全ての子どもを置き去りにせず進めるという点で、今一度見直すべきこともあるように思います。端末やネット環境などハード面の整備は整ってきましたが、子どもの支援の部分にさらにフォーカスをあてて手だてを考えることが必要でしょう。

ICT支援員の勤務体系の見直し必要か?

――アンケートの自由回答では、「研修の時間が取れない」「ICT支援員に相談する時間すら取れない」など、依然として学校現場の多忙さを訴える声が目立ちました。

 校種や地域で多少の違いはあるでしょうが、日中は授業や授業準備、児童生徒の対応に追われて、まとまった時間が取れない先生たちも多いです。ICT支援員が配置されていたとしても、彼らは非常勤であり、出勤日や勤務時間は限られています。現場の先生が求める時間とマッチしていないのであれば、非常にもったいないことです。

 実は、スクール・サポート・スタッフの導入時にも同じような課題がありました。仕事を頼みたいけれど、教員の余裕が生まれる放課後の時間帯には退勤しており、打ち合わせの時間が取れないといったものです。この場合は依頼書でコミュニケーションを取ったり、教頭や学校事務職員が連絡係を担ったりなど、各校が工夫して対応できました。しかしICT支援員の場合は、スクール・サポート・スタッフへの相談と比べ、込み入った話になることが予測されます。メモ程度のやりとりで、コミュニケーションや問題解決を図るのは難しいでしょう。

 国や教委はICT支援員を配備するだけでなく、学校の実態に即した勤務体系なのかを改めて見直して、活用しやすい体制を敷く必要があると思います。

――働き方改革との両立に悩む声も多数寄せられました。

 「今日、明日の授業をどうしよう」と日々、自転車操業のように時間をやりくりされている先生が多い中で、ICT活用の大切さについて頭で分かっていても、日々の業務に埋もれてしまう葛藤は理解できます。とはいえ、なおざりになってもいけません。アンケート結果を見ても、すでに、教員間で意識やスキルにばらつきがあることが読み解けます。

 私が提案したいのは、2つ。まず、夏休みや冬休みなど、授業のない日の使い方について考えてみてはどうでしょうか。

 次に、学校全体でGIGAスクールを巡る課題解決の優先順位を上げて、教員のスキル修得や研修など、教員の能力開発に時間を割いていただきたいと思います。そのために部活動の休養日を増やしたり、時間割を工夫したりして、時間を少しでもつくることが必要だと思います。「部活動が忙しいのでICTの研修ができません」では、本業はどっちにあるのか、という話です。個々の教員の問題とせず、学校が一丸となり、児童生徒の深い学びのためにどのようにICTを活用していくかを見つめ直す時間を設けてほしいです。

GIGA進める鍵は、「児童生徒主導」
義務教育段階での端末の使途(複数回答)

――そのほかに、アンケート結果で気になる点はありましたか。

 小中学校で端末をどのように活用しているかについての問いで、「デジタル教材」「インターネットを用いた情報収集」「発表・プレゼンテーション」が多かった点に注目しました。これらが一概にいい悪いと言えるものではありませんが、端末の活用が多少の調べ学習と発表という程度にとどまっている可能性があります。どこまで深い学びや協働的な学びが実現されているのか、疑問に感じました。もちろん端末を活用すれば選択肢は広がりますが、特にこの3つはICTでなくともできる部分があります。

 一方でICTでしか実現できない「不登校児童生徒への遠隔授業」や「遠隔地との交流」は少ない傾向にありました。例えば、遠隔地にいるゲストティーチャーを迎え授業するなどといった学校は、まだ一部にしかすぎないのかもしれません。

 また、不登校の児童生徒は過去最多を記録し、多くの学校で課題になっています。これまでの電話やプリント主体の対応だけでなく、ICTを活用すれば、児童生徒の様子を見られたり、教員とコミュニケーションを取れたり、チャットでやりとりしたりなど、これまでよりも一歩踏み込んだ関わりができます。

 これからICTの活用の幅が広がって、児童生徒の学びがさらに深まることを期待しています。

――導入時の「取りあえず使ってみる」から、質をどんどん高めていく領域に入ったのでしょうか。

 そうかもしれません。そのためには教員だけでなく、児童生徒主導で学びをどんどん進めていくことが求められるのではないでしょうか。端末活用についてのアンケート結果を見ると、「教員の指示のもと一斉に使う」というスタイルが主流のようでした。個別最適化した学びを推進するのであれば、児童生徒の興味・関心を踏まえつつ、端末使用の有無も児童生徒が主体で決められるスタイルが望ましいシーンも多いように思います。

 そうすると、成果物や進捗(しんちょく)具合は児童生徒によってばらつきが生まれます。教員は一人一人の児童生徒を見ながら、励まし、アドバイスしながら進める、ファシリテーションやコーチングの能力がこれまで以上に求められるでしょう。研修について前述しましたが、「オンラインで授業ができる」「Zoomが使える」といったスキルだけでなく、ICTと学びを掛け合わせてどれだけ深く、協働的な学びに児童生徒を導けるかについても能力開発が必要でしょう。

教委が学校を厳しく縛りすぎている

――取りあえず使う状態からさらに一歩進むためには、何が必要でしょうか。

 コロナ禍で学校は一気に危機に陥り、その中でGIGAスクールは急速に広まりました。急速に広まったぶん、コロナ前からの課題もくすぶり続けているように見えます。

 その一つが、授業スタイルや教育観です。今回のアンケート結果を見ても、「教師が未熟な児童生徒に教える」という発想から、抜け切れていない先生も少なくないように思えます。教師からの投げ掛け(問い)や支援はもちろん重要ですが、児童生徒が主体となって関心や好奇心を広げる、深める授業になっていける余地はもっとあるのではないでしょうか。

 もちろん現場の先生だけに変化を求めて、教委をはじめたとした学校関係者は何ら対応しないということではいけません。

端末の利用制限の有無に関する4月時点と10月時点での比較

 アンケート結果では、アプリやソフトの厳しい使用制限について、いまだに多くの学校現場がネックに感じている現状も分かりました。「そもそも許可してもらえない」「許可が下りるまでに、かなりの期間を要する」など、現場の先生たちからも教委の対応で苦慮している声を耳にします。もちろん必要な制限もありますが、それ以上に教委が学校や教員を縛っているように思えてなりません。そしてその縛りが連鎖して、教員が児童生徒の端末利用についても管理しようとしているように見えるのです。

 私は、自分のことは自分で決められる学校であってほしいと思います。そのためには教員や児童生徒はもちろん、教委も意識とルールを変えなければいけません。果たして教委に、学校現場の悩みや不便さは正確に伝わっているのでしょうか。端末を整備して終わりではなく、引き続き学校とコミュニケーションを取り、現場の声に耳を傾け必要な予算や措置を取ってほしいと願います。

 教育新聞のウェブアンケートは今年10月1~7日に、教育新聞の購読者のほか、教育新聞の公式SNSなどで回答を募り、全国の小学校・中学校・義務教育学校・高校・中等教育学校・特別支援学校の教諭・学校管理職475人から有効回答を得た。
 アンケート回答者の基本属性は次の通り。
 【学校種】小学校47.4%、中学校27.6%、義務教育学校1.5%、高校17.1%、中等教育学校・中高一貫校2.1%、特別支援学校4.4%
 【学校設置者】国立4.0%、公立85.9%、私立10.1%
 【職位】教諭87.2%、学校管理職12.8%
 【学校所在地】北海道4.8%、東北5.9%、北関東5.3%、東京都内22.1%、南関東17.5%、甲信越4.4%、北陸0.4%、東海13.5%、近畿11.6%、中国5.5%、四国1.1%、九州・沖縄8.0%
 【性別】男性57.9%、女性40.0%、その他・答えたくない2.1%
 【年代】20代21.5%、30代30.5%、40代29.3%、50代16.4%、60歳以上2.3%

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