問いが対話を生む 教師の声生かした「どう解く?」

 小学校で特別の教科「道徳」が始まってから間もなく4年。学校現場では、考え、議論する道徳の授業に向けて試行錯誤が続いている。そんな中で注目を集めた絵本が『答えのない道徳の問題どう解く?』(ポプラ社)だ。今月には続編となる『答えのない道徳の問題 どう解く? 正解のない時代を生きるキミへ』が刊行された。さらに、日本マクドナルドが「どう解く?」とタイアップして、小学校向けオリジナル教材「みんなで!どう解く?」を開発。年末には全国の子どもたちから寄せられた問いを掲載した絵本を制作する予定だという。なぜいま、答えのない問いが大切なのか。教師の声を生かして進化を続ける「どう解く?」の魅力に迫った。

対話を促し思考を深める答えのない問い

 「ちょっと意地悪なことを聞いてもいいかい。大人になってから結婚したお父さん・お母さんと、生まれてからずっと一緒のきょうだいでは、どっちの愛情が深いかな」

 東京都千代田区にある暁星小学校の視聴覚室では、6年生の子どもたちとの対話を楽しむ、クイズプレーヤーで知られる伊沢拓司さんの姿があった。

議論が進むうちに、子どもたちから生まれた視点を整理し始めた伊沢さん(中央、2021年10月撮影)

 この日の授業では、クイズに関するウェブメディア「QuizKnock」のメンバーがアンバサダーを務める「みんなで!どう解く?」が教材として用いられ、「友達」をテーマに子どもたちが答えのない問いをつくり、お互いに交換して、それについてどう考えるかをディスカッションした。子どもたちからは「友達はなぜ必要か」「友達と親友の違いはあるのか」「友情と愛情の違いは何か」「やっていいけんかと、やってはいけないけんかとは」など、本質的な問いが次々生まれ、そこからさらに新たな問いが派生したり、反論が飛び出したりするなど、2時間連続の授業だったにもかかわらず、子どもたちの議論が尽きる気配はなかった。

 子どもたちの自由な発想や思考力を伸ばそうと、日本マクドナルドでは1月から「みんなで!どう解く?」プロジェクトをスタート。子どもたちが参加するオンラインワークショップや、小学校の教師からの声を受けたオリジナル教材の開発に取り組んできた。

「みんなで!どう解く?」のテーマカード(日本マクドナルド提供)

 開発されたオリジナル教材は、「笑顔」「友達」「食べ物」「家族」に関連した答えのない問いを、子どもたちが作り出し、共有して、その中の一つについて、自分なりの答えを考えるというもので、グループで問いを作る際のヒントとなるテーマカードなども用意されている。

 授業を行った大串崇文教諭は「普段の授業は教科書があって、今回のような答えのない問いと違い、ある程度妥当性のある答えに向かって子どもたちが考えを進めていく流れがある。今回の授業に関しては、ゴールも定まっていない中で子どもたちが高い自由度の中で話し合いができるので、すごくいい機会だった。教材も子どもたちの興味を引いて前向きに話し合いたい気持ちにさせてくれた」と、教材を高く評価した。

 一見すると、1つの正解が必ずあるクイズと、「どう解く?」が大切にしている答えのない問いは相反する存在のようにも感じる。

 この指摘に対し、伊沢さんは「答えがないというのは、答えが『まだない』かもしれないし、答えが『たくさんある』とも言える。問いとしての性質はクイズと違うようで似ている。普段やっている一問一答のクイズの考え方も、たくさん答えがあるクイズに生きてくるし、そもそも知識がないと、答えのないものや答えがたくさんあるものを考えつくことは難しい」と説明。その上で「問い掛けられて自分の考えを深めて、それを発信して、さらにそれが他人の考えと比較されて、また自分の中に取り入れてというサイクルは、答えのない問いだからこそたくさんできる」と強調し、クイズも含めて、学校の中で問いを生み出す活動の重要性を投げ掛けた。

じっくり立ち止まって考えることの大切さ

 「新型コロナウイルスが広がっているから、『しばらくの間、学校じゃなくお家で勉強してね』と先生に言われた。お家で勉強できるなら、どうして学校に行く必要があるんだろう?」

 この新刊の最初の問いである「がっこう、どう解く?」の文章。昨年の全国的な一斉休校で、同じような疑問を抱いた教師も多くいたのではないだろうか。それもそのはず。新刊に載っている13個の問いは、小中学校の教師に「いま、子どもたちと何について話し合いたいか」をアンケートした結果を基に考え出された。

小中学校の教員から問いのアイデアを募集した『答えのない道徳の問題 どう解く? 正解のない時代を生きるキミへ』(ポプラ社提供)

 2019年に出版された『答えのない道徳の問題どう解く?』は、全国各地の学校図書館の書棚に並ぶなど、学校現場から大きな反響が寄せられた。続編を企画するにあたり、コロナ禍に学校や子どもたちに向けたアクションとして何かできないかと検討した結果、教師が問題意識を持っているものの、なかなか子どもたちに話すのは難しいと考えているテーマを取り上げることにしたという。扱われているテーマの中には、お金のことやジェンダーなど、学校の中でタブーとなっているものや、なかなか話題にするきっかけが作れないものばかりだ。

 コピーライターの山﨑博司さんは「道徳の授業だけでなく、学級活動などちょっとした時間の話題として取り上げてもらいたい。問い掛けるとすぐに手を挙げる子よりも、黙っている子の方が、もしかしたらじっくり立ち止まって深く考えているかもしれない。自分なりの答えを出すのは時間がかかるし、子どもたちによっていろいろな表現方法があるが、まずはじっくり待ってほしい」とアドバイスする。

絵に込められたメッセージ

 ところで、これらの問いにはやさしいタッチの絵が添えられているが、実は子どもたちの発想を広げるヒントが隠されているそうだ。例えば、どうして結婚する人は1人だけなのかを問い掛ける「あい、どう解く?」のイラストは、コップに入った2つの歯ブラシ。よく見ると2本とも同じピンク色をしている。子どもたちに、「結婚は男女でするもの」という先入観を持たせないようにする仕掛けだ。

細部の表現までこだわりぬかれたイラストには、問いを広げるヒントが隠されている(ポプラ社提供)

 「楽しくかわいい絵にすることで、問いの鋭さを和らげるようにした。問いを先に決めてから絵を考えるので、どうその問いを表現するかはいつも悩む。問いだけでなく絵も見ながら、大人と考えてもらえたら」と、絵を担当した木村洋さんが打ち明けるように、「どう解く?」では、シンプルながら洗練された問いや絵を見ながら、子どもと大人が物事の本質について話し合うきっかけになってほしいという思いが込められている。

 アートディレクターの二澤平治仁さんは「本来、考えることは苦しいことではなく、楽しいことだ。勉強だけでなく、遊びや話など、考えることはいろいろな汎用性がある。考えを共有して、発信して、お互いに理解し合う、そのサイクルができれば、きっとすごい世の中になる。その最初のきっかけとして、子どもが大人にこの本を見せて、考える会話に巻き込んで」と期待を寄せる。

 将来の予測がつかないVUCAの時代と呼ばれるようになり、世界中が頭を抱えている答えのない問いが私たちに突き付けられている。そんな世の中を生きる子どもたちに、新刊ではどんなメッセージを投げ掛けているのだろうか。

 その一つの「答え」を、山﨑さんは次のように「解く」。

 「インターネットが発達して、今では調べればすぐに答えが手に入る。でも、その情報が本当に正解とは限らないし、他にも答えがあるかもしれない。日々の生活の中にある疑問を大切にして、考える癖を身に付けてもらいたい。これからは、答えを出すだけではなく、仮説を立てることが求められる時代。そのためには、考える力が必要だ」

(藤井孝良)

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