これからの教師の学び(下) 進化する授業研究最前線


 子どもの学びだけでなく、教師の学びにも変革が求められている。コロナ禍でオンラインによる研修も普及しているが、さらにテクノロジーをフル活用して、学びを可視化する事例も登場している。新しい教員研修の取り組みから、「これからの教師の学びの姿」を探る本特集の後半では、教師力の核である授業に焦点を当て、授業を見るだけでは得られない、進化した授業研究の最前線を追った。

360度VRで研究授業の質を変える

 研究授業も大きく変わろうとしている。コロナ禍で外部から参加者が集まる公開授業の実施が難しくなり、オンライン上での動画配信などを始める学校が出ている中で、三重大学教育学部附属小学校が11月24日に行った公開研究会では、360度VR映像で事前に20本以上の授業動画を撮影し、参加者はそれを当日までに視聴した上で、オンライン上での研究協議会に参加する形式とした。オンラインにしたことで、例年と比べて全国各地から約2倍の申し込みがあったという。

 公開研のウェブサイトでは、公開されている授業ごとにグーグルクラスルームが割り当てられ、研究紀要や学習指導案などの資料もそこに集約されている。

360度VR動画で撮影した授業映像(YouTubeで取材)

 実際の360度VRによる授業映像を見てみると、まるで教室にいる子どもの一人になったかのような感覚で、子どもたちの中に入って授業を観察することができる。教師の発問や子どもたちの議論の内容もクリアに聞こえ、授業によっては子どもの端末画面やノートをまとめている手元の様子も天井部分に映される。それらを同時に見ながら、多面的に子どもの学習を捉えることが可能だ。

 同校では1年前からこのシステムの開発に着手。同校の情報担当をしている前田昌志教諭は「編集は教員でやっているが、ソフトで編集作業をするのは授業1本につき1時間程度。むしろ人を集めて行っていた従来の公開研の方が、準備に時間がかかっているのではないか。子どもたちも、教室に人がぎゅうぎゅう詰めの状態で発言するのは勇気がいるが、カメラがあるだけなら普段通りはきはきと話せるし、緊張もそれほどしない。よりいつもの姿に近い状態を見てもらえる」と、教員や子どもにとって、公開研の負担軽減につながった点を挙げる。

 しかし、このシステムの狙いはそれだけにとどまらない。例えば反転授業のように、参加者は事前に没入感のある授業動画を視聴し、ポイントになりそうな場面などを頭に入れた上で研究協議会に臨めば、より的確な議論ができるようになることが期待される。このように、360度VR映像を活用することで、授業に関する教師の学びの質は、リアルな授業見学を超える可能性を秘めている。

 「単なるオンラインによる代替ではなく、360度空間の利点を生かして、教員研修そのものを強化・変容させる。研修の再定義や研修プロセスの転換にまで至ればいい」と前田教諭。将来的にはこのシステムのコストを抑え、ポータブル化することで、公立学校の研究授業などへの貸し出しも視野に入れているという。

授業づくりのプロセスを可視化するコミュニティー「学譜システム」

 東京大学の高大連携ユニットであるCoREF(コレフ)は、2010年度から、協調学習の手法の一つで、問いに対してグループを組み換えながら理解を深めていく「知識構成型ジグソー法」を軸にした授業研究を、自治体や学校と行っている。この「新しい学びプロジェクト」に参加している学校で、研究推進委員になった教員同士が、教科ごとに授業のアイデアや教材などを共有するのが「学譜システム」だ。

 もともとは授業づくりについて教員間でやりとりするメーリングリストだったものを発展させたもので、現在はAIが一つの授業づくりに関するやりとりをまとめたり、類似した事例をレコメンドしたりして、教員の授業研究を支援している。指導案などはバージョンごとに見ることができ、教員間の議論を経て、どのようにその授業が変化していったのかを追うこともできる。

 「新しい学びプロジェクト」に参加している広島県安芸太田町では、町内に小規模校が点在しており、若手教員の指導を校内だけで行うことが難しく、町内の学校間の連携も、移動などによる時間的な負荷が大きいという課題を抱えていた。このシステムによって、町内の学校はもちろんのこと、プロジェクトに参加する教員間で授業づくりや教材研究が活発に行われるようになったという。

 同町教委の免田久美子主幹は「各学校で中核になる先生に研究推進委員をやってもらっているが、授業がナンバーワンの先生というよりは、今ちょうど伸び盛りの、頑張っている先生になってもらっている。一部のエースが活躍するのではなくて、いろいろな先生がいろいろな方向から頑張っていこうとすることを支えるコミュニティーだ。それが今までの研究授業とは大きく違うところだ」と話す。自治体によっては、教育長が学譜システムでのやりとりを見ながら、若手教員の成長を実感していることもあるそうだ。

 コレフが設置されている東京大学高大接続研究開発センターの客員教授を務めている白水(しろうず)始・国立教育政策研究所初等中等教育研究部総括研究官は「授業づくりを共有するサイトなどを見ると、ベストプラクティスを載せているケースが多く、すでに完成したものになっている。しかし、学譜システムでは、授業づくりのプロセスを見ることができ、教員同士で意見を交わしながら一緒につくり上げていくコミュニティーになっている」と指摘する。

授業の中での子どもの学びを捉える「学瞰システム」

 「新しい学びプロジェクト」を支えるもう一つの仕組みが、授業中の子どもたちの学ぶ様子を動画や音声で記録し、テキスト化する「学瞰システム」だ。教室に360度カメラを設置し、授業を受ける子どもたちは個々にヘッドセットマイクを装着する。授業中の子どもたちの活動は鮮明に記録され、ちょっとしたつぶやきなどまで拾うことができる。

授業中の子どもの学びをテキスト化する学瞰システム(『対話力―仲間との対話から学ぶ授業をデザインする!』東洋館出版社より)

 飯窪真也・同センター特任研究員は「まるで子どもたちのグループの真ん中に自分の頭を置いて対話を聞いているような感覚になり、実際に教室で聞いているよりもずっと細かいつぶやきが聞こえてくる。研究授業の後の協議で、学瞰システムで記録された子どもの会話を音声やテキストで見てもらうと、新たな気付きや教員が思っていたことと違う発見が出てくることもある」と、子どもの学びに立ち返った省察につながると話す。

 安芸太田町はこの学瞰システムもフル活用している。同町ではGIGAスクール構想によって1人1台環境になったのを機に、小中学校にあったパソコン室を「アクティブ・ラーニングルーム」に改装。ヘッドセットマイクがつながったレコーダーが机に設置され、いつでも学瞰システムを使えるようにした。

 「今まではやりたくても準備が大変だったが、アクティブ・ラーニングルームに行けばすぐに協調的な学習ができて、発話を記録できるので、活用はかなり進んでいる。教師の振る舞いではなく、子どもの学びをみんなで見ることになるので、やればやるほど授業研究が楽しいものになる。先生方は安心して挑戦している感じがする」と免田主幹。

 しかし、これらのシステムが機能し、教員間の授業づくりの対話を活性化できたのは、知識構成型ジグソー法という共通基盤の存在が大きい。飯窪特任研究員は「どの校種や教科でも知識構成型ジグソー法で授業が行われているという前提があるので、異なる校種や教科の教師が指導案を見ても理解でき、議論ができる。もし授業手法や背景となる理論がばらばらだと、指導案から授業のイメージをつかむこと自体が難しいのではないか」と指摘する。

 白水総括研究官は「閉じられたコミュニティーだからこそ、教師もどんどん意見をしやすく、安心してやれるので、私たちは知識構成型ジグソー法を基にした協調学習のコミュニティーを大きくしたり、学譜・学瞰システムを全国に広げたりしようとは考えていない。しかし、このシステム自体はいろんな転用が可能で、さまざまな知の生成に役立てることができるのではないか。テクノロジーありきではなく、ペタゴジーが先にあり、それを軸にコミュニティーがつくられ、テクノロジーが支えるような形がうまくいくポイントだ」と話す。

(藤井孝良)

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