生理と学校、悩む生徒たち 教師の正しい知識が救う

 「生理による体調不良で、学校を休みたかったが休めなかった」――。月経痛(生理痛)や月経前症候群(PMS)の症状と学校生活の両立に悩みながらも、誰にも相談できず苦しむ10代の声が関心を集めている。これまで女性特有のものとされ、広く語ることがタブー視されてきた面がある生理を巡る問題。元養護教諭であり、現在は「にじいろ先生」の愛称で全国の学校や企業で実施する性教育の出張授業が話題の中谷奈央子さんは、「教員が生理の基本知識を正しく理解することが、苦しむ児童生徒を救う第一歩につながる」と指摘する。そんな中谷さんと、生理を巡る問題に幅広くアプローチする団体「#みんなの生理」のメンバーに話を聞き、生理と学校生活の両立に苦しむ10代の実態と、これからの生理に関する学校教育の在り方を考える。

「休ませてあげたい」、でも単位がネックに

 「男性の担任の先生に相談したら、生理なら休む必要ないよねって言われた」「成績に欠席がつくのが嫌で無理やり出席したら、結局倒れてしまった」――。今年11月に日本若者協議会と「#みんなの生理」が公表した、中高生や大学生300人対象の、生理を巡る学校生活についてのアンケートに寄せられたコメントの一部だ。生理の影響で学校や部活動を休みたいと思ったことがあるとの回答は93%に上った一方で、このうち68%が欠席するのを我慢した経験があった。

生理で学校を休みたいと思ったことがあるかについての回答結果(授業・部活・体育を含む)

 その理由を尋ねたところ、6割以上が「成績や内申点に悪影響が出ると思った」と回答。生理で欠席したために、「成績や内申点が下げられた」「授業や部活動についていけなくなった」などの声もあった。毎月1回のペースで訪れる生理。それに伴い生理痛やPMSの症状が現れ、人によっては日常生活を送ることが困難なケースもある。10代の間でも、学校生活との両立や周りの理解不足に悩む実態が垣間見えた。

 10年間、公立高校で養護教諭として勤務してきた中谷さんは「お腹が痛い、気持ちが悪いといった生理に伴う体調不良を訴える生徒は、毎日と言っていいほど保健室に訪れていた」と、現役の教諭時代を振り返る。「休ませてあげたい」と思う一方で、ネックになったのは単位や出席日数。「高校は、出席日数や単位にシビア。普段から欠席が多い生徒は、単位が足りないと留年になる可能性もある。もちろん無理は禁物だが、本人の気持ちや体調が許すようであれば、『頑張れる?』と教室に戻ることを後押ししていた。生徒自身もやはり気になるようで、『出席日数がギリギリだから教室に戻る』という声が多かった」と、学校の実情に沿った対応の難しさを指摘する。

 そんな生徒たちのために重宝していたのが、電子レンジで繰り返し温められるカイロだ。中谷さんはそれを大量に保健室に用意し、「頑張って授業を受けたい」と申し出る生徒に手渡し、教室に送り出していたという。

「生理はハンデに」、教員が正しい知識を

 一方で、中谷さんは「学校によっては、気軽に保健室に行けない、先生になかなか言い出しづらい児童生徒もいるのではないか」と危惧する。

 生理を巡っては人によって体調不良の症状やその深刻さに大きなばらつきがあり、周囲から理解してもらいづらいという指摘がある。学校現場でも、一部の教諭の中には「生理痛くらいで…」「生理は病気じゃない」といった厳しい声もあり、正しい知識の共有の難しさを感じる場面が中谷さんにもあったという。

学校で出張授業をする中谷さん

 例えば、水泳の授業。中谷さんが養護教諭仲間や児童生徒から聞いた情報によると、「生理中はタンポンを付けて入らなければいけない」「生理で見学の場合は校庭を走る」などといった耳を疑うようなルールを設けている学校もいまだにあるという。こういった生理を巡る実情に合わないルールについて、中谷さんは「生理に関わるペナルティーのようなルールは、今すぐに見直すべきだ。確かに一般的に生理中でもプールに入ることは可能だが、選択するのはあくまで児童生徒本人。学校が強制することは、あってはならない」と厳しく指摘する。

 さらに、学校の中で理解を促すためには、性別に関わらず教員が基本的な生理の知識を得ることが第一歩だと続ける。「同じ女性同士だとしても、生理のつらさを理解してもらえないといった声はよく聞く。例えば、自分の症状が軽かったから欠席するなんて信じられない、自分が我慢できたから児童生徒にも我慢を強いる指導をしてしまうケースも見聞きする」と明かした上で、「生理痛やPMSの症状は、人によって千差万別。性別に関係なく教員が生理の基本知識を正しく理解することが、苦しむ児童生徒を救う第一歩につながる」と強調する。

 また、保護者からの無理解も児童生徒が頭を悩ませる一因になっていると、中谷さんは指摘する。生理不順や生理痛などの症状が深刻な生徒には婦人科系の病気の疑いもあることから、受診を勧める場合がある。しかし「親が生理は病気ではないと、病院には行かせてもらえない」と首を横に振る生徒も少なくないという。中谷さんは「学校は率先して、児童生徒と保護者の溝を埋めてほしい」と話す。

 「生理に対して保護者も自身の経験則が全てで、正しく理解できていない場合がある。生理による体調不良で、早退や欠席など日常生活に支障を来たしている児童生徒がいたら、養護教諭の協力も仰ぎながら教員が保護者に受診を勧めてほしい」と中谷さん。「学校生活の様子を伝えながら、受験や部活動などと絡めて『受験や大事な試合でいつものパフォーマンスを出すために、病院にかかってみてはどうか?』と声掛けすると、保護者も快く聞いてくれる場合がある。個別で難しければ、例えば入試説明会や修学旅行説明会など、多くの保護者が出席する場面で呼び掛けることも有効かもしれない」とアドバイスを送る。

 中谷さんは「今一度、学校現場の一人一人に、生理は学校生活や日常生活を送る上で、ハンデになることを認識してほしい」と強調する。

「男性が生理について知る」を当たり前に

 「中高時代、同級生がこんな制限の中で学校生活を送っていたかと思うと、知らなかった自分が恥ずかしい」と振り返るのは、「#みんなの生理」のメンバーの一人、大学3年生の松岡智希さんだ。生理用品の軽減税率を求める署名活動を皮切りに、学校のトイレへの生理用品の設置や生理について意見交換ができるオンラインカフェの運営など、生理に関する社会問題の解決を目指す「#みんなの生理」。松岡さんは、唯一の男性メンバーとして活動している。

 松岡さんは自身の小中高時代を振り返り、学校で生理について十分に教育を受けた記憶がないと話す。「例えば生理中は、2~3時間おきに生理用品を交換しなければいけない。そんなストレスを抱えながら授業を受けるのは、不快だっただろう」など、活動を通して初めて気付くことばかりだったという。「生理のない男性側が、知識を持っていることで何かフォローできたことがあるかもしれない。性別関係なく生理について理解がある人が周囲にいると、本人が感じる負担感も少なからず減るのではないか」と指摘する。

オンラインで取材に応じる「#みんなの生理」の松岡さん

 #みんなの生理も協力した前述のアンケ―トでは、学校で学びたいことについて「男女共に同じ情報で、生理によって生活に支障を来す人も存在するのだということを教えてほしい」「男性にもちゃんと教えてほしい。生理休暇がずるいと言われる社会はおかしい」などと、男性に対しても女性と同じように生理について教育することを求める声が目立った。

 松岡さんは「活動をしていると、『男性なのに偉いね』と声を掛けられることがある。良かれと思って言っていただいていると思うが、複雑な気持ちになる」と明かす。「今の社会では、生理は『女性だけの問題』と捉えられている。私たちの団体では、性別や立場に関係なく、生理に関わる問題を『みんなの問題』として捉えてほしいと活動している。まだ、男性が生理を語ることや知ろうとすることについて、タブー視する風潮を感じる。今は男性として注目を浴びることが多いが、一人の人間として生理を巡る問題解決のための活動をするのが目標」と前を向く。

救急隊員にすら生理と言えない生徒も

 男性への生理教育については、性教育の出張授業で全国を巡る中谷さんも必要性を感じている。「生理に関わらず、学校で異性の身体のことをお互い一緒に学び、その違いを共有することはとても大切。学校が性教育の入口になるにも関わらず、そこで隠してしまうと『隠すべきこと』『恥ずかしいこと』という印象になってしまい、後の生活や価値観にも深刻な影響を与えてしまう」と説明する。

 中谷さんが出会った生徒の中に、こんな女子生徒がいた。生理による体調不良を男性教員に言い出せず、学校で意識を失い倒れてしまった。救急車で搬送されることになったが、救急隊員が男性だったため体調不良の理由を明かせなかったというのだ。あまりにも驚くような事態だが、周囲の大人の言動や既存の性教育の形が、知らず知らずのうちに「生理は隠すべきもの」といった間違った価値観を子どもたちに押し付けているのかもしれない。

 中谷さんの出張授業では、生理はもちろん身体の性差についても男女共に同じ空間で、同じ情報をシェアすることをモットーとしている。最初は戸惑う児童生徒もいるが、授業後はしっかり受け止めている様子が見受けられるという。

 「特に、男子からは『これまでは聞くと悪いことだと思っていたけれど、正しい情報を知れてよかった』といった感想が多い。女子も『最初は男女混合で抵抗があったけれど、お互いの身体の違いを知ることは大切だ』などと、自分との違いを受け入れる意義を感じている様子が伺える。いたずらに情報を遮断するのではなく、お互いが理解する土壌をつくるためにも、プライバシーを尊重しながら、性別関係なく共に学ぶ機会を増やしてほしい」と呼び掛ける。

(板井海奈)

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