【GIGA発進】家庭環境による格差(上) 学校の役割とは


 GIGAスクール構想による1人1台端末の本格的な活用が始まる中、学校現場では教員が「子どもたちのICTスキルの差」に気付き始めている。その差は端末操作やタイピングのスキルだけでなく、「時間を決めて使う」といった生活習慣にも及んでいる。背景の一つにあるのが家庭環境だ。経済的な困難を抱える家庭、保護者のサポートが期待できない家庭では、持ち帰りでの学習や、オンライン学習などで苦労する場面も少なくない。本来、GIGAスクール構想はICT教育環境の格差是正を目指すものだが、すでに困難を抱えている子どもたちへの配慮が欠ければ、かえって格差の拡大を招くおそれもある。

「わからないときは、おうちのひとに」

 11月のある日の午後。都内マンションのリビングでは、小学校高学年、低学年の兄弟が学校から持ち帰ったタブレットで学習をしていた。兄はタッチパネルを使ってドリルの問題をてきぱきと解き、それが終わるとスライド上で文字を回転させたり、拡大・縮小したりする操作を記者に見せてくれた。「学校の先生が教えてくれるから、家で使う時に困ったことは特にない」と涼しい顔だ。

端末を使って家庭学習をする低学年の男子児童

 一方、弟もタッチパネルを使ってドリルを難なくこなしていたが、学校からのアンケートに答える場面で手が止まった。入力にはキーボードの操作が必要で、低学年の弟はまだキーボードに慣れていなかった。アンケートには「わからないときは、おうちのひとにおねがいしてください」と書かれている。「ママ。これ、どうするの」。弟は、在宅勤務をしていた母親に助けを求めた。

 母親の仕事は、日常的にワードやエクセルなどのソフトを駆使する専門職。弟は母親の助けを借りて、アンケートの送信に成功した。「子どもたちが学校で使うソフトは自分の仕事でも使うから、操作は分かっている」と、母親は落ち着いた様子だった。この家庭には学校の端末のほか、パソコンとタブレット、スマホがある。コロナ禍の休校中は母親がAIドリルをダウンロードして、自主的な家庭学習をさせていたという。

 弟に学校での活用の様子を尋ねると、クラスには操作が苦手な児童も少なくないという。「先生が『分からない人は手を挙げて』と言って、その子たちのところに行く。ぼくはホーム画面を開いて待っている。ひまな時は自由帳に書いていてよいことになっているけれど、待ちくたびれる」。

 こうしたスキルの差は当然、教員側も感じている。関東地方の公立小で1年生の担任を務める教員は「1年生ですでに英語に親しみがあり、アルファベットが読め、キーボードも速く打てる子がいる。家庭で保護者と一緒にやってもらっているのだな、という感覚がある。一方で目的のページになかなかたどり着けない子、指示通りに操作するのが困難な子もいる」と語る。

 家庭での活用になると、いっそう大きな差がみられる。この教員は朝、ある児童が登校してすぐ、居眠りを始めたことに驚いた。その児童の端末でブラウザの閲覧履歴を見ると、学習に関係のないYouTubeのページが並んでおり、夜中まで見ていたことがうかがえた。教委や学校の方針で、家庭での厳格な使用制限は設けていない。それでも「夜の8時には画面を見るのをやめる、というルールを決めているはずだが……」と、教員は戸惑う。

 こうした状況に陥る児童は「もともと宿題をやってこない、提出物を出さない、寝る時間が遅いなどの傾向がある子。保護者が忙しくて把握していないか、把握していても指導しきれないので、『家庭に持ち帰らせないで』と言われてしまう。一方で、家庭でキーボード練習やドリルをどんどん進める子もいる。家庭での行動は、教員が逐一管理するわけにもいかないが、気に掛けておかないと、これまで以上に差が開いていく気がしている」。

年収が高い世帯ほどICTスキルが高い

 教育新聞が10月初旬に実施した1人1台端末活用に関するウェブアンケートでも、多くの教員から同様の声が寄せられた。「児童生徒の端末操作のスキル差が大きい。そのため、課題を出しても入力がままならなかったり、提出方法が伝わらなかったりすることが多い」(南関東/公立中教諭・20代)、「操作が不馴れな生徒の指導に時間がとられ、授業の予定が変わる」(近畿/公立中教諭・40代)。

 こうした状況に危機感を募らせる教員もいる。「1人1台配布しても、家庭でパソコンに向かわない児童生徒がたくさんいる。本当に今後、GIGAスクール構想が思惑通りに進んでいけるのか疑問視している」(九州・沖縄/公立小教諭・40代)、「学習が苦手な生徒に、ICTの自宅学習はなおさら苦痛を伴う場合があり、学習の遅れが顕著に表れる。キー操作にもかなり苦手意識を持つ。時にはわざとパソコンを家に忘れる場合もある」(南関東/公立中教諭・40代)。

 学校での端末活用が始まって間もない段階で、すでにこうした差がついている背景の一つに、家庭環境による格差が考えられる。まずハードの部分だが、総務省の「令和2年通信利用動向調査」で世帯年収別の端末保有率を見ると、スマホの保有率は世帯年収が200万円未満でも60.5%と比較的高く、400万~600万円未満で9割を超える。一方、より複雑な作業ができるパソコンでは、年収200万円未満の世帯の保有率は38.5%、1000万~1500万円の世帯では92.7%と、大きな開きがある=図表1

【図表1】世帯年収別の端末保有率(出所:総務省「令和2年通信利用動向調査」)

 片やICTスキルについても、世帯年収が高い人ほど高い傾向がみられる。「コピー・貼り付け」「電子メールの送付」「表計算ソフトを使用した簡単な計算」などが「いずれもできない」と答えた人の割合は、世帯年収1000万円以上の人では1割以下にすぎないが、200万円未満では33.9%に上る=図表2

【図表2】所属世帯年収別の個人のICTスキル(出所:総務省「令和2年通信利用動向調査」)

 こうした家庭の経済環境や、保護者のデジタルに関する知識や関心、ひいては普段からの子どもとの関わり方が、子どもに何らかの影響を与えている可能性は否めない。

 デジタル・シティズンシップ教育に詳しい今度(いまど)珠美・国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員は「メディアとの付き合いには格差、貧困、福祉など社会的な課題が影響する。テクノロジーの善き使い手を育成するための新たな教育には、このような構造的・福祉的課題に目を向け、支援することも忘れてはいけない」と指摘。「大人が善きモデルを見せているか、文化的・身体的な体験・経験の機会を作っているか、傾聴・共感などのコミュニケーションが十分取れているかなど、大人の向き合い方が、子どものネットトラブルには反映される」と話す。

子どもたちの差を埋める現場の努力

 経済的に厳しい母子家庭への支援を行う認定NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」のメンバーなどが今年6月に公表した調査レポートでは、「家庭でのオンライン学習を成立させるには、『学習用のICT機器』『インターネット環境』『子どもの学習環境』『子どもの学習サポート』の全てがそろう必要がある」と指摘している。

 そのうち、ICT機器や通信環境については整備が進められてきた。文科省の集計によれば、7月末時点で全自治体の96.2%が整備を完了し、小学校の96.2%、中学校の96.5%が活用を開始している。自宅に通信環境がない家庭に対しては、2020年度の第1次・第3次補正予算以降、自治体がモバイルルータを貸し出せるよう国の補助がなされており、文科省の担当者によれば、延べ1000を超える学校設置者の自治体が活用している。

 学習環境については、学校でのフォロー体制を作る動きもある。教育新聞のアンケートでは「通信環境がない生徒には休校時のオンライン授業の時には登校可能としている」(九州・沖縄/公立中教諭・30代)、「通信環境が整っていない児童は登校させ、特別教室や図書室などに分散させ、学校内でオンライン学習に参加させている」(北関東/公立小教諭・60代以上)といった声があった。

 普段の学校現場での活用でも、教員はさまざまな工夫を凝らしている。前出の関東地方の小学1年生の担任は「クラスの中で操作が得意な子には『ミニ先生』になってもらい、困っている子がいれば、自由に教えに行ってよいことにした。苦手な子も自然に受け入れ、楽しそうにやっている。家庭で使えていない分を、学校でフォローしていければ」と話す。

 別の関東地方の小学4年生の担任は「普段、端末を触っている子とそうでない子では、タイピングの速度、ソフトの使いこなし方が全然違う。そのため授業では、差が付く使い方はあまりしない。グループで資料を見る、スライドをまとめるといった活動を中心にして、児童同士で教え合うようにしている。一人一人に感想を書かせる場面では差が出やすいが、音声入力を使う、ノートに書いたものを撮影して送る方法も取っている」と話す。

 教育新聞のアンケートでも「家庭でできない子のために、休み時間などで触れる機会を増やす」(東海/公立小教諭・20代)、「保護者のサポートがなくても子ども自身でできるように、わかりやすい説明書の作成と繰り返しの練習」(東海/公立小管理職・50代)、「対面での指導ができる時に、オンラインでも使用する可能性がある機能を使って学習活動を展開し、操作について習熟する機会を確保する」(東京都内/公立中教諭・40代)など、家庭での支援の多寡にかかわらず、知識やスキルを身に付けさせようという努力がうかがえる。

「学校が全てを抱え込まないで」

 とはいえ、ただでさえ多忙を極める学校現場で、多様な子どもたちへのきめ細かな対応を十分に行うことは容易ではない。そうした背景を踏まえ学校外の団体でも、困難を抱える子どもたちが適切にデジタル・テクノロジーと向き合えるよう、さまざまな支援に乗り出している。

「キッカケプログラム」で小学生を中心に子どもの支援を担う、認定NPO法人カタリバの菅原美羽さん(Zoomで取材)

 関東地方に住むシングルマザーのAさんは昨年、認定NPO法人カタリバが提供する「キッカケプログラム」を、知人を通じて知った。このプログラムは、経済的に困難を抱える家庭にパソコンとWi-Fiルーターを無償で貸し出し、オンラインで多様な学びの機会を提供するというもの。加えて、子どもにはメンターが、保護者にはペアレントメンターが付き、オンライン面談による伴走支援を行うのが特徴だ。

 Aさんには小4の娘、Bさんがおり、ICTのスキルを身に付けさせたいと感じていた。ただ、自宅で使っているのはスマホだけで、Wi-Fi環境はなかった。Aさん自身は仕事でパソコンを使うが「限られた入力操作だけ」だといい、「家電量販店にパソコンを買いにいったが、高いし、どれを買えばよいのか分からない。初期設定もフィルタリングの設定も、とにかく分からな過ぎて、やめてしまった」。

 そんなタイミングで偶然「キッカケプログラム」を知り、応募した。「最初はよく分からないまま、どきどきしながら娘と一緒につないでいた」というが、今ではBさんが一人で参加できるようになり、毎回楽しみにしているという。「いろいろなところから参加している子と、ゲームとかするから、すっごく楽しい。メンターのお姉さん、お兄さんとがんばりたいことを決めて、最近は早起きをがんばっている」とBさんは話す。

 キッカケプログラムでは保護者についても月に1度、ペアレントメンターの面談の機会も設けている。Aさんは「最初は、端末を貸してくれればそれだけでよいのに、知らない人と話すのは気が引ける、と思っていた」というが、回を重ねるうち、自身が面談を楽しみにしていることに気付いた。

 「普段、愚痴をこぼせる友達はいても、『助けて』とは言いづらい。下手に相談して、助けを求めていると思われるのが嫌で、困っていても言わないようにしていた。ある時、カタリバのペアレントメンターさんが『うちもシングルなんだよ』と話してくれた。同じ境遇の人に話を聞いてもらえたこと、『困った時に助けて、と言えるのも強さだよ』と言ってもらえたことは、すごくうれしかった」。

 キッカケプログラムでは昨年8月の開始以降、延べ1000人を超える子ども、約850の家庭の支援を行ってきた。小学生を中心に子どもの支援を担う、カタリバの菅原美羽さんは「学年によっては、手取り足取り教えてもらわないと進めない。高学年でなんとなく操作できても、デジタル環境へのリテラシーが不足していて、不適切なサイトにアクセスしたり、知らない人とコミュニケーションを取ってしまったりする子もいる。子どもが何に興味を持ち、何のためにパソコンを使いたいのかが見えていないと、危険な使い方につながってしまう可能性がある」と指摘する。

 また「家庭の人間関係がうまく行っていない場合に、YouTubeや二次元コンテンツにのめりこんでしまうこともあり、さまざまな原因を丁寧に見て子どもとコミュニケーションをとるようにしている。単にルールや禁止事項を伝えて制限をかけるのではなく、『子ども自ら有効かつ安全な使い方について考える力』をつけられるようデジタル・シティズンシップ研修の機会を設けるようにしている」と説明する。

 一方、保護者側の伴走支援を行う富永みずきさんは「経済的に厳しい状況下で、生活していくだけでも精いっぱいである中、子どもの教育には『どうにかしてあげたい』という気持ちを持っている保護者も多い。ただ、もともと保護者自身が抱える困難な状態が影響して、自身がパソコンに触ったことがない、仕事で使う機会がないケースや、自身が経験していないから、子どもにどう伝えたらよいか分からないケースも少なくない」と話す。

 このような状況を踏まえ、パソコンの技術的な支援などを担当する上田真人さんは「家庭の支援について、学校の先生が全てを抱え込むのは難しい。機材トラブルや保護者対応などは、学校外のサポーターと連携して進めるのが現実的な解決策なのでは」と指摘する。

 菅原さんは「子どもの適切なパソコン利用の促進には、学校と保護者だけに負担を強いるのではなく、私たちのような存在が子どものパソコン利用に伴走していくことが重要。子どもにとってどのような便利な使い方ができ、どのように将来の夢に関わってくるのか、理解を共に深めながら、豊かな使い方を伝えていきたい」と力を込める。

(秦さわみ)

あなたへのお薦め

 
特集