【GIGA発進】家庭環境による格差(下) 識者はこう見る

 1人1台端末の家庭への持ち帰りや、家庭でのオンライン学習が始まる中、学校と家庭の連携は欠かせないポイントとなりつつある。とはいえ、さまざまな事情を抱える家庭では、適切なサポートが難しいこともある。「多様な子どもたちを誰一人取り残さない」というGIGAスクール構想の目的を実現するためには、子どもたちやその家庭と、どのような関わりが求められるのか。また、どのようなリソースを活用することが望ましいのか、3人の識者に聞いた(関連記事:【GIGA発進】家庭環境による格差(上)学校の役割とは)。

「学びや創造活動の機会を、格差なく」 今度珠美・国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員、鳥取県情報モラルエデュケーター

 テクノロジーの善き使い手、情報社会を担う善き市民となることを目指すデジタル・シティズンシップ教育では、家庭の役割も重要とされています。

「守りにくいルールは、子どもにも保護者にも負荷をかける」と語る今度氏(本人提供)

 強調されているのは「メディアを使う以外の場面で、どう子どもと関わっているか」ということ。つまり、家庭でタブレットやスマホをどう規制するかということより、日頃から子どもの話をよく聞き、コミュニケーションを取っているか、さまざまな文化的体験の機会を与えることができているか、が問われています。

 ただ家庭の文化資本の格差は大きく、日常的に図書館や美術館、博物館に行くなど体験の機会を作っている家庭と、さまざまな事情でそれが難しい家庭があります。インターネットとの付き合い方も同じで、端末を使って本を読み、ニュースを見ている家庭がある一方で、ゲームや動画など、遊びの目的でしか使っていない家庭もあります。

 こうした環境が、子どもにも影響するのではないかということは当然、感じています。ただ、これは保護者の興味・関心の問題というよりも、社会構造の問題です。一般に文化資本の格差は経済格差とも重なり、文化的なものに興味・関心を持つための経済的、精神的な余裕がなければ、なかなか難しい。単純に、親の努力不足のせいだと言い切ることはできません。

 GIGAスクール構想の意義は、これまで遊びのツールとしてしか端末を使えていなかった子どもたちにも、格差なくさまざまな機会を与えることができることです。端末を学びや創造活動に活用し、知識やスキルを身に付けて可能性を広げるとともに、インターネットという公共空間にデビューするための公共のマナーや作法を、誰もが学べるようになるということです。

 とりわけ困窮家庭をサポートしていくことは大切で、私はGIGAスクール構想を、福祉の視点からも検討していかなければいけないと考えています。ただ、先生たちが本来の業務を超えた、福祉的なサポートも抱え込んでしまう状況は望ましくありません。ここは、行政がきちんとフォローしていくべきだと思います。

 家庭でできることは、子どもの端末利用を「関心を持って見守る」ことです。「よくできたね、面白いね」「可能性が広がるね」「でも、インターネットではマナーを守らないとね」と共感しながら、子どもが端末で何をしているか、気に掛けてほしいと思います。

 家庭で「使う時間は2時間以内」とか、「午後9時以降は禁止」といった時間のルールを決めている自治体もありますが、守りにくいルールは、子どもにも保護者にも負荷をかけてしまいます。利用時間の長さは意識しづらいし、夕食などが遅く、自由な時間が夜9時を過ぎる子どもも少なくないでしょう。

 そこで、まずは「どういう行動を取っている時には使うべきではないか」や「利用をお休みする時間帯」を決めてほしいと思います。食事中や勉強中、寝具の中など、端末を使ってよい時といけない時を、行動や場所と結び付けて意識させると、守りやすいはずです。

 また、生活の中で優先するべき行動も決めておきます。紙に書き出して、机の上に貼っておくのもよいでしょう。宿題、食事、風呂、睡眠時間など優先すべき行動が守られていたら、多少、長く遊ぶ時間があってもよい。家庭での約束は一律に決めるのではなく、家庭の状況に応じて、無理のない形で決めてほしいと思います。

「差を埋める方策が必要」 清水敬介・日本PTA全国協議会会長

 子どもたちは携帯ならばよく触っていて、操作にも慣れているようです。ただパソコンになると不慣れな子どももいます。自宅にもともとデジタル機器がそろっていて、小さい頃から慣れている子もいますが、そうでない子もおり、家庭環境によって活用に大きな差がついてしまうことを懸念しています。

子どもも保護者も、GIGAスクール構想の目的を理解することが重要だと語る清水会長(2020年撮影)

 授業でも、使える子たちはどんどん進んでいきたいでしょう。一方で使えない子は、最初からつまずいてしまうと、どうにもなりません。同時に「用意、スタート」というのは、いささかハードルが高いのです。子どもたちのICTスキルに合わせて、ある程度同じような習熟度の子どもたちでグループを作ったり、フォローアップの機会を設けたりするなど、差を埋められるような方策が必要ではないでしょうか。

 保護者も端末の操作に慣れている人と、慣れていない人がいます。できれば子どもが自宅に持ち帰った端末を保護者と一緒に使い、親子で操作に慣れていければよいと思います。ただ、そこで問題になるのが破損・故障した時です。

 現状、破損・故障時の対応は自治体によってまちまちで、自治体が負担する場合もあれば、保護者が負担する場合もあります。保護者の負担となると、とりわけ経済的に厳しい家庭では「弁償しないといけないのだろうか」「壊してしまうのが怖い」と感じ、自宅で使うのをためらうケースも出てきます。自治体には、保護者に過度な負担を強いることがないよう支援をお願いしたいところです。

 また家庭に持ち帰らせる場合は、各家庭でしっかり話し合って、ルールを作る必要があると感じます。「勉強のために使う」という認識を持って、親子でルールを決める。さらに言えば、端末を保護者のスマホなどと連携させ、子どもが何をしているかを確認できるシステムを作る方法もあるかもしれません。

 とはいえ家庭環境はさまざまで、なかなか子どもに向き合えない保護者もいます。そのため学校では、低学年の時期から子ども自身に、端末を使う目的について理解させていくことが必要だと感じます。それがおのずと自分の中でのルールになって、子ども自身が適切な生活習慣を作っていくことができれば、それが理想だと思います。

 併せて保護者に対しても、GIGAスクール構想の本来の目的を知ってもらうことが大切です。中には、端末が配布された理由を「コロナ禍で臨時休校になったから」「コロナが終息したら、以前の学校に戻るのだろう」と捉えている人も少なくありません。本協議会では、GIGAスクール構想をはじめとする教育施策について、保護者に分かりやすいよう解説動画を作成しています。

 GIGAスクール構想が始まり、保護者の中にも混乱はありますが、一番苦労しているのは先生方ではないでしょうか。先生の中にも得意な人、不慣れな人がいます。不慣れな先生が使い方を学べる場を作る必要があるし、そのために協力もしていきたいと思います。保護者の中にはICTに長けた人もいますから、PTAが勉強会を開き、先生にも加わっていただくという手もあるでしょう。

「コミュニティ・スクールの出番だ」 福田晴一・元東京都杉並区立天沼小校長、埼玉県戸田市コミュニティスクールディレクター、栃木県佐野市コミュニティスクールマイスター

 GIGAスクール構想によるICT活用は、「チョーク&トーク」が匠とされていた熟練教員には大きな壁となりました。一方で若手教員はICTスキルが高くても、授業の本質が体得できていなければ、単なる「教育工学」の域を脱しきれません。ただでさえ教員の多忙は増すばかりで、研修の時間すら確保できていません。情報機器の活用スキルの差が指導格差を生み、結果として教育格差を生んでいる状況です。

複数の自治体でコミュニティ・スクールに関わる福田氏(2020年撮影)

 一方で家庭に目を向けると、わが子の教育に関心のある家庭、すなわち生活に余裕のある家庭には、上記のような教育事情がある程度は理解されているでしょう。かたや、教育に目を向ける余裕のない家庭では、学校に全て「お任せ」で、学校が全て用意周到に整えてくれて公教育、つまり公助は進むもの、と認識されていることも珍しくありません。

 もともと多忙を極める上に、GIGAスクール構想の前倒しや、新型コロナウイルスへの対応で混とんとしている教育現場では、公助として十分な仕組みの構築が追い付いていません。そうなると、いつの時代も弱者にしわ寄せが行くことになります。コロナ禍の初年度には端末や通信環境が未整備で、「全てが公助で整うまでは実施できない」と考える学校も多くありました。

 そこで差がついたのは、自治体や学校管理職の判断でした。用意できる端末とポケットWi-Fiをかき集め、学校から提供できる「公助」だけでなく、家庭でできる「自助」や、外部の支援による「共助」を総動員して臨んだ学校や、最初から完璧を狙わず、できることから始めようとした学校は、保護者や地域にも評価されたはずです。

 ただ、端末や通信環境が一応は整ったとしても、それを使った教育活動には教員の関与が不可欠です。どうも日本の教員は完全主義で、「自分が理解できていないことは教えられない」という意識が先行しがちで、一度、ICT機器がフリーズしてしまうと「もう駄目だ」となってしまう。そこで、教員だけが抱え込まない手を考えたいのです。

 子どもたちは総じてICTの習得が早いです。ICTが得意な子に、苦手な子のサポートをしてもらい、子ども同士の学び合いをさせる手もあります。中には学力はいまいちだけれど、タイピングは速い、テクノロジーに強いという子もいます。その子にとっては格好の活躍の場、自己肯定感を高める場になるでしょう。

 さらに外部人材を入れて、先生が一緒に学ぶ姿を子どもたちにあえて見せることも、高い価値があると思います。私は現在、いくつかの自治体でコミュニティ・スクールの支援を担っていますが、まさに今こそ、コミュニティ・スクールの出番ではないでしょうか。保護者や地域には、多様なリソースがあります。消毒や見守り、授業支援にとどまらず、テクノロジーの部分で指導支援をしてもらうことも可能だと思います。

 これからの不確実な時代、社会を支えていく子どもたちを育てていくためには、学校と家庭、そして地域がタッグを組まなければ、やっていけないと感じます。とはいえ、困難を抱える家庭もあるし、学校現場も多忙を極めています。それならば、地域が子どもたちを後押しする仕組みを作りたい。「いいまちはいい学校を育てる」という、東京都杉並区の元教育長・井出隆安さんの言葉を思い出します。

(秦さわみ)

あなたへのお薦め

 
特集