こども家庭庁に波紋 有識者に聞く、「子ども真ん中」の行方


 12月15日に政府が自民党に示した、子ども政策を一元化するための新組織の名称が、当初の「こども庁」ではなく「こども家庭庁」となったことについて波紋が広がっている。こども家庭庁では、幼稚園教育要領を文科省と共同で告示することや、いじめ問題に関して文科省と共同の所掌とすることなども盛り込まれた。約8カ月の議論で形となった「子ども真ん中」の新組織をどう見るか。有識者に聞いた。

「家庭」が付くことで子ども中心の軸がぶれる

 「子どもは家庭を基盤として成長する存在であり、家庭での子育てをしっかり支えることは子どもの健やかな成長を保障するために必要不可欠であることから、『こども家庭庁』としたい」

 子ども政策の新組織について議論していた自民党の「こども・若者」輝く未来創造本部と内閣第一部会の合同会議。座長を務めた加藤勝信衆院議員は、政府が示した「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針案」で、組織名をこれまでのこども庁から一転、こども家庭庁としたことをそう説明した。これに対し、出席した議員からは「家庭を持たない子どもや家庭につらい記憶を持つ子もいる」「子ども真ん中の姿勢が通じやすいので『こども庁』でいいのではないか」などの反論も出たが、最終的に了承を取り付けた。

 子ども政策の司令塔として、省庁を横断する組織を創設する構想は、菅義偉前首相が衆院選公約の目玉政策に位置付けようと、自民党の若手議員らによる「Children Firstのこども行政のあり方勉強会」の提言を取り入れたことに端を発する。

 実は、この勉強会でも当初は「こども家庭庁」という名称で議論がスタートしていた。しかし、3月9日に開いた第6回勉強会でヒアリングを行った虐待サバイバーの当事者から「恵まれない家庭の子や、家庭につらい思い出を持っている子もいる」といった指摘があり、その場に出席した議員の満場一致で名称から「家庭」が削除され「こども庁」になったという経緯がある。

 また、「子供」や「子ども」ではなく、あえてひらがなの「こども」を用いているのは、小さな子どもでも読めるようにという、「子ども真ん中」を体現するメッセージでもあった。12月15日の合同会議での一部議員の反論は、そうしたこれまで積み重ねてきた議論を念頭に入れた発言と思われる。

 自らも社会的養護経験者で、児童養護施設や里親家庭で暮らしている子どもや、かつて暮らしていた若者への心のケアを求め、署名活動を行った山本昌子さんは「新組織がちゃんとできるのか懸念や反発の声もある。なぜ『家庭』をもう一度付けることになったのか、きちんと説明できるのであれば問題ないのではないか。明確な指針を示すことの方が大事だ」と話す。

 一方で「児童養護施設や里親で暮らしている子どもたちも、家庭的な環境で育つことが大切だ。子どもを家庭から引き離さないようにすることが理想だが、それがうまくいかないときに、児童養護施設や里親などで新しい家庭をつくることはワンセットで議論されるべきだ」とも指摘し、新組織の理念や施策には、さまざまな「家庭」を想定する必要があると強調する。

 子育て政策などで、保護者の声を政治や行政に届ける活動に取り組む「みらい子育て全国ネットワーク」の天野妙代表は「自民党の若手議員が子どもを真ん中にと頑張ってきたのに、最後にひっくり返されるなんて、『一体何をやっているのか』という思いだ」と、名称に「家庭」が入ったことに憤りを隠さない。

 「日本版DBSやチャイルド・デス・レビューといった、これまでできなかった新しい取り組みが入るなど中身はよくできていて、来年からと言わず早くやってほしいくらいだ。しかし、もちろん家庭をおろそかにするつもりはないが、名前に『家庭』が入ってしまっては、子ども中心という軸がぶれる」と強く批判する。

幼稚園教育要領の共同告示

 子ども政策における縦割り行政の象徴的存在でもあった幼児教育・保育では、厚労省が所管する保育所と、内閣府が所管する認定こども園をこども家庭庁に移管。文科相が所管している幼稚園については、幼稚園教育要領も共同告示とするなど、連携を強化する形でまとまった。

 来年の通常国会で「こども家庭庁の設置法案」が提出され、予定通り2023年度中に設置されることになれば、あまり間を置かずに次の幼稚園教育要領に向けた議論に着手することになる。並行して保育所保育指針も改訂が進むことから、文科省と「こども家庭庁」がどこまで足並みをそろえて、就学前教育・保育の一体的な議論を進められるかが鍵となる。

 中教審では現在、「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」で5歳児から小学1年生までの幼保小接続カリキュラムが議論されおり、これらの政策が、幼稚園、保育所、認定こども園にどのような形で反映されるかも注目される。

いじめ対策を文科省と共同所掌

 政府の基本方針案では、文科省の初等中等教育局児童生徒課が所管しているいじめ対策についても、こども家庭庁と連携して所掌することがうたわれた。しかし、具体的にどのようにいじめ問題を共同で所掌するのかには、不透明さが残る。

 いじめで子どもを亡くした被害者遺族であり、いじめ問題に取り組む「ジェントルハートプロジェクト」の小森美登里理事は「いじめ問題は今まで所管していた文科省がいろいろな現状を知っている。これまでの取り組みやノウハウ、担当部署などがどうなるのか」と戸惑いの表情を浮かべる。

 こども家庭庁でもいじめ問題を担当することについては、「これまでの施策の延長ではなく、有識者会議に実効性を持たせたり、アンケートなどのデータ分析に基づいた効果的な具体策を動かしたりしてくれるならありがたい。いじめ対策について研修をしっかりできる人材の育成も急務だ。優先順位を付けて取り組んでもらえたら」と期待を寄せる。

 「ストップいじめ!ナビ」の須永祐慈副代表は「いじめ対策の施策のほとんどは学校教育と切り離せるものではない。こども家庭庁が入ることで、かえって縦割りが進む可能性もある」と懸念する。

 一方で「現場の実態や被害者の声をしっかり収集して、エビデンスに基づく政策を打ち出せるのなら意味がある」とも指摘。例えば、いじめに対する子どもの声を直接拾い上げるほか、文科省ではこれまで実現してこなかった、いじめに関するさまざまな調査研究に乗り出せるようなことになれば、文科省と役割を分担して、共同所掌のメリットを生かせるとみている。

 「Children Firstのこども行政のあり方勉強会」の場で、生徒指導の課題について意見を述べたこともある須永副代表。「こども庁創設の政策プロセスでは、多くの現場の声を拾い上げて、開かれた議論が行われていたと思う。私たちも参加している意識を持てた。国会でもそうした議論の雰囲気をつくっていければ、国民が支持する『こども家庭庁』になるのではないか」と話す。

(藤井孝良)

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