大学オンライン授業、上限60単位の規制を緩和 首相表明

 政府は12月27日、日本の未来を担う人材の育成に向け、教育未来創造会議(議長・岸田文雄首相)の第1回会合を首相官邸で開催した。会議では①重点分野に関する大学の機能強化②大学卒業後の「出世払い」を含む教育費の支援③社会人の学び直し(リカレント教育)を促進するための環境整備--を主な論点とすることを了承した。岸田首相は「人材育成への投資や大学の機能強化を強力に推進する。デジタル技術を駆使したハイブリッド型教育を進め、オンライン教育を現行の単位上限を超えて実施できるようにするなど規制を緩和する特例を設けていく」とあいさつ。大学のオンライン授業で卒業単位として認める上限を60単位とする現行の規制について、緩和する考えを表明した。会議は来年初夏に第1次提言をまとめる。

教育未来創造会議であいさつする岸田文雄首相(首相官邸のホームページ)

 会議の最後にあいさつした岸田首相は「教育・人材育成といった人への投資は成長の源泉。誰もが夢や希望を持てる未来を創造できるよう、教育・人材育成に政府一丸となって全力を挙げて取り組む」と意欲を見せた上で、当面進める事項として(1)人材育成への投資や大学等の機能強化を強力に推進。全国に拠点大学を指定し、大学の学部等の再編や文系理系の枠を超えた地域人材育成に取り組む(2)高等教育でデジタル技術を駆使したハイブリッド型教育を進める。対面授業と遠隔・オンライン教育との双方の良さを生かし、オンライン教育を現行の単位上限を超えて実施できるようにする(3)世界と伍(ご)する研究大学の実現や大学法人のガバナンス強化に向け、大学の経営改革を着実に進める--の3点を明示した。

 会議では、内閣官房の同会議担当室が、人材育成に向けた主な論点案を説明。まず、今後の日本の成長に向けて重点を置くべき分野として、デジタル、人工知能、グリーン、観光や農業を通じた地域振興などを挙げ、それらを支える科学技術分野を専攻する学生が少ないことを指摘。こうした分野で大学、短大、高専、専門学校などの機能強化に取り組む必要を示した。

 次に、教育費の支援については、大学生のほぼ半数が日本学生支援機構(JASSO)や民間の奨学金制度を利用している現状を報告。岸田首相が10月の所信表明演説で表明した、大学卒業後の所得に応じた「出世払い」を行う仕組みを含め、学びへの支援を論点とした。

 社会人が学び直すリカレント教育については、関係省庁の取り組み状況を説明した上で、今後の課題として、学び直した成果に対する適切な評価や、学ぶ意欲がある人への支援の充実などを取り上げる。

 配布資料によると、有識者の意見表明で、安宅和人・慶大教授は「これから起きる本当の競争」として、AIと人間の間で対立が起きるというのは誤解であり、実際の対立は「自分とその周りの経験だけから学び、AIやデータの力を使わない人」と「手に入る限りのあらゆるデータからコンピューティングパワーを利用して学び、その力を活用する人」との間で起きる、と説明。こうした指数関数的な時代の変化に合わせて、中国はすでに中等教育段階で深層学習やGAN(敵対的生成ネットワーク)までの教育を2018年に導入を開始した、と指摘した。

 その上で、日本がとるべきAIとデータ時代に向けた人材増強のイメージとして、世界の才能を集める必要性を強調。具体的なアプローチとして、①留学、就労ビザ緩和②終身雇用を前提とした「若い人は低賃金、退職金もほぼ出ない」という仕組みを見直す③年齢、性別、言語、国籍などによる雇用差別を撤廃する④配偶者や子供を連れてこられるような定住サポートを提供する--ことを提起した。

 大坪正人・由紀ホールディングス社長は、宇宙のごみであるスペースデブリを掃除する衛星の製造をサポートするなど、高度な部品の加工技術を持つ中小企業経営の実績を踏まえた人材育成の在り方を説明。「中小規模の製造業の現場担当者が、loTデバイスによるエンジニアリング、センシング、 データ解析/視覚化、データ活用などの技術・知識を身に付け、現場、経営者双方とコミュニケーションをとりながら、データを軸に企業の経営判断のアシストができる人材」をファクトリー· サイエンティストと名付け、その育成を目指して講座を実施している様子を報告した。

 阿部守一・長野県知事は、学びを改革する視点について「一人一人の能力を伸ばす学び」「地域再生のための学び」「人生100年時代の学び」「国際人としての学び」の4点を指摘。具体的な取り組みの方向性として①分権型の教育制度への転換②教育改革を先導する私立学校や認可外学校への財政支援の強化③小中学校、高校などの教員定数の改善④非認知能力を向上させるための自然保育・幼児教育の推進⑤地方大学の充実・強化⑥地方が独自に行う、学びの環境整備への支援強化⑦省庁横断的な教育システムへの転換⑧海外留学に対する財政支援の強化--を挙げた。

 こうした論点を踏まえ、人材育成の現状分析や専門的な検討を深めるため、会議ではワーキング・グループの設置を決定。会議構成員の有識者から清家篤・日本私立学校振興・共済事業団理事長を座長に指名した。構成員の全てがワーキング・グループの構成員を兼ねる。

 教育未来創造会議は岸田文雄首相が議長を、松野博一内閣官房長官、末松信介文科相が議長代理を務めるほか、萩生田光一経産相ら関係7閣僚、大学関係者、民間企業の関係者などが構成員として参画する。教育再生実行会議の後継として設置された。会議の設置を定めた閣議決定では、「わが国の未来を担う人材を育成するためには、高等教育をはじめとする教育の在り方について、国としての方向性を明確にするとともに、誰もが生涯にわたって学び続け学び直しができるよう、教育と社会との接続の多様化・柔軟化を推進する必要がある」と、会議の目的を説明している。

教育未来創造会議の主な論点案

○わが国の未来を担う人材の育成にあたり、以下のような論点を検討していくべきではないか。

①未来を支える人材を育む大学等の機能強化

  • 今後のわが国の成長に向けて特に重点を置くべき分野(※)に関する大学、短大、高専、専門学校等の在り方
    (※)デジタル、人工知能、グリーン、観光や農業を通じた地域振興など
  • デジタル技術を駆使したハイブリッド型教育の推進
  • 大学法人のガバナンス強化

②新たな時代に対応する学びの支援

  • 大学卒業後の所得に応じた「出世払い」を行う仕組みを含む、教育費等への支援

③学び直し(リカレント教育)を促進するための環境整備

  • 学び直した成果の適切な評価
  • 学ぶ意欲がある人への支援の充実や環境の整備

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